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sadachi
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モデルの適用

公開日時: 2021年11月19日(金) 18:00
文字数:1,661


このモデルを伊豆の照葉樹林内に設置した土壌中に生息する細胞性粘菌の個体群密度のコドラート調査をした際のデータに当て嵌める.移動度が低いことはもう分かっている.定点調査地のうち鷲頭山のコドラートでは主に3種類の細胞性粘菌,P. pallidum, D. purpureum, P. violaceumが優占し,夏季はP. pallidum, 春秋季は他二種が優占する傾向があった.

 

γqを見れば,個体群よりも種の方が値が小さいので安定的なダイナミクスが予想されることを示していた.Iq(ω)を見れば極相種のP. pallidumの方がパイオニア種のD. purpureum, P. violaceumよりもコントラストが低いことも分かる.これらは個体群密度のプロットから受ける印象の統計的な換算である.極性の個体当たりの平均値Mmean = M/Nkは適応している場合は種の括りの方が個体群よりも大きく,個体群の集合の方が個体群よりもより大きな適応性を示していることが分かる.Tsが上界値のWに近い場合もいくつもあった.種のWの方が個体群よりも低いので,種の影響の方が個体群から来る影響よりも個体に強く働くことが予想される.個体当たりの長距離秩序パラメータp(Ts) = Mmean2を設定すれば,データから経験的に予測してp(Ts) ≤ 0.01が安定的に適応している状況だと解釈出来た.

 

次に臨界温度を算出するためにqsU(qs)のグラフをプロットしてみた.概ねキュリー=ワイス則に従っていると仮定して,U'(qs)が大きくなる3つの温度の平均値を臨界温度として算出してみると,個体群ではTc = 2090 ± 50,種ではTc = 1500 ± 500となる(95%信頼区間).臨界温度以上になると系が構成因子の1つで優占され,それ以下だとそうならない可能性があるので,Ts > 2090で個体群レベルで優占するものが現れ,Ts ~ 1500-2090で個体群レベルでは優占しないが種レベルでは優占するものが現れ,Ts < 1500ではカオス的挙動が強いと予想される.このことから予想される相図が描けた.Tsが系の状態を記述し,Tcが相の流動化が起こる基準,Wが最適状態としてのTsの上界となる(当然Tsがその値を越えることはない).内部エネルギーE(Ts)は一般的に種の方が個体群より高く,上から下へのエネルギーの流れがある.秩序変数は一般的に秩序のある夏季の方がその他の季節よりも高くなる.

 

Ts < Tcの場合は系の様子が予想困難になる(カオスになる)が,これは系の無限体積極限が一意には定まらないからである.Ts, Tc, Wなどは実際の系の挙動をよく表していると思われ,MaxEntモデルのようにエントロピーだけを考えるのではなく,他の統計物理学的概念を系の特徴を定量的に評価する際には有効だと思われた.また,外部刺激が対称性を破るのには重要になって来る.実際のデータの解析からは,相が幾つか存在することも推察される.特にWは系の最適化状態の基準となるので重要である.これは統計物理学的にはボース=アインシュタイン凝縮に相当し,リーマンのゼータ関数を統計物理学の分配関数と考えれば非自明な零点に相当する.系の時間発展はこの系では考慮していないが,塩基や遺伝子など下位は究極的にはTs ~ 0の一様分布状態に落ち着き,それよりも系が大きくなるとTs > 0のカオス状態になるが,個体群や種などの階層構造が系にある一定のパターンや秩序を与えることが考えられた.

 

参考文献:

Harte J et al. (2008) Ecology 89: 2700-11.

Hubbell SP (2001) The Unified Nuetral Theory of Biodiversity and Biogeography. (Princeton)

Kerner EH (1957) B Math Biol 19: 121-46.

Lotka AJ (1922) Proc Natl Acad Sci USA 8: 151-4.

藤坂博一 (1998) 非平衡系の統計力学. (産業図書)


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