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sadachi
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免疫学

公開日時: 2021年10月29日(金) 18:00
文字数:3,236


「何だか小学生に対する説明みたいですね.次はもう少し真面目に答えて下さい.それでは免疫学に入りましょう.まず,自然免疫系,獲得免疫系と免疫細胞などの関わりについて述べて下さい.」「自然免疫系と高度な認識特異性や免疫記憶を持つ獲得免疫系の境界ははっきりしないけれど,基本的には自然免疫系には補体や好中球,マクロファージが,獲得免疫系には抗体やNK T細胞,T細胞,B細胞が含まれ,両系が共在しているのがサイトカインやNK細胞,樹状細胞.これらが複合的にアレルギー,腫瘍免疫,移植免疫,感染免疫,免疫不全,自己免疫疾患に関わっている.」

 

「では,自然免疫機構の概略を説明して下さい.」「自然免疫では補体やレクチンが微生物を液性因子として認識し,マクロファージに取り込まれやすくしたり,タンパク質分解活性で分解し,生体防御能を発揮する.一部の膜タンパク質型のレクチンは分子を認識後に取り込んで分解するか,部分的に分解してMHC分子と複合体を形成し,T細胞活性化を誘導する.Toll様受容体は膜タンパク質として微生物を認識後,抗原提示細胞内のシグナル伝達機構を直接活性化する.」「では,自然免疫においてToll様受容体は具体的にどのように働きますか.」「自然免疫は昆虫から哺乳類にまで存在する.高等動物では獲得免疫もあり,自然免疫が初期応答であると共に獲得免疫の樹立にも関わっている.樹状細胞のToll様受容体には様々なサブタイプがあり,LPSやリポタイコ酸,2本鎖RNA,フラジェリン,イミダゾキノリン,CpG DNA,細菌由来リポペプチド,ペプチドグリカン,マイコプラズマ由来リポペプチドなど様々な分子を認識してナイーブT細胞に共刺激分子と共に抗原提示をし,Th1などへの分化を促す.生物学的機能としては炎症反応の形成,獲得免疫の樹立,I型IFの誘導,粘膜における免疫応答がある.」「では,補体系はどのようにして働きますか.」「補体系は抗体と共同,あるいは単独で,主にC3が担う異物の標識,主にC5が担う食細胞などの感染局所への動員,C5-C9までが担う微生物の直接破壊を行う.自己・非自己の識別は補体制御因子が担う.」

 

「では,B細胞はどのようにして働きますか.」「B細胞は骨髄において造血幹細胞から分化する.未熟B細胞が脾臓に移動し,負の選択や正の選択を受けて成熟B細胞に分化して行く.成熟B細胞は膜型免疫グロブリンを発現し,脾臓,リンパ節,消化管などで外来性抗原に反応してクラススイッチ,点突然変異の形成などを介して抗体産生細胞へ分化し,生体防御に寄与する.」「では,T細胞はどのようにして働きますか.」「T細胞にはTh1,Th2,キラーT細胞などがあり,Th1は細胞内小胞局在微生物に対抗してクラスII MHC複合体とCD4を介してマクロファージに作用する.Th2は細胞外局在微生物に対抗してクラスII MHC複合体とCD4を介してB細胞に作用する.キラーT細胞は細胞質局在微生物に対抗してクラスI MHC複合体とCD8を介して感染細胞に作用する.TCRの認識特異性にはレパトア選択が働く.」「では,樹状細胞はどのようにして働きますか.」「樹状細胞は抗原特異的な免疫応答や免疫寛容の為にMHC分子に結合した抗原ペプチドのT細胞に対する提示を行う.骨髄で生まれ,血液や末梢組織では免疫監視細胞,輸入リンパでは移動細胞や抗原プロセシング,リンパ系組織やT領域では抗原提示細胞として働く.ミエロイド系のDC1は単球や血中樹状細胞から間質細胞,真皮樹状細胞,ランゲルハンス細胞になり,さらにベール細胞になる.リンパ球系のDC2は形質細胞様前駆樹状細胞になる.ベール細胞と形質細胞様前駆樹状細胞は相互連結性嵌入細胞になる.DC1はそれぞれの組織で物質を補足して所属リンパ器官T領域へ移動して抗原提示細胞になる.DC2はウイルス感染によって多量のI型IFを産生し,自然免疫を増強する.両方ともT領域では免疫応答を制御する.クロスプレゼンテーション,クロスプライミング,クロストレランスといった概念が効果的な免疫応答や免疫寛容には重要.」「では,NK細胞やNK T細胞はどのようにして働きますか.」「NK細胞もNK T細胞も特異的抗原認識機構を持たないリンパ球で,抗腫瘍活性,ウイルス感染抵抗性,移植片拒絶応答に関わる.普通のT細胞やB細胞などよりも早い自然免疫応答に関わる.これらは抑制性受容体を発現して自己応答性を制御している.NK細胞とNK T細胞はサイトカイン産生能や抗原認識機構が全く異なり,区別出来る.NK細胞は脾臓,骨髄,肝臓に,NK T細胞はそれらに加えて胸腺に多く存在する.NK細胞はウイルス感染細胞や腫瘍細胞などMHCの発現が低下した細胞に強い細胞障害性を示し,様々なサイトカインを産生する.NK T細胞は特殊なTCRを発現し,それが抗原認識機構に関わる.また,強力なサイトカイン産生能があり,ケモカインも産生する.」

 

「では,リンパ系はどのようにして構築されますか.」「リンパ系には前駆細胞の分化の場である1次リンパ組織の胸腺と骨髄,抗原特異的免疫応答の誘導・制御が行われる2次リンパ組織の末梢リンパ節や脾臓,粘膜関連リンパ組織がある.粘膜免疫機構では分泌型IgAが誘導され,粘膜免疫誘導組織と実効組織があって粘膜免疫循環帰巣経路が結び,上皮細胞とM細胞が関与し,γδT細胞が多く存在し,GALT, NALTなどにはIgA前駆B細胞が存在し,経口,経鼻免疫寛容が誘導される.注射型ワクチンではない粘膜ワクチンの開発も進められている.」「では,アレルギーと自己免疫疾患については何が言えますか.」「アレルギーは外来抗原に対して,自己免疫疾患は自己抗原に対して過剰な免疫応答を示す.I型過敏反応は肥満細胞を介してアレルギー疾患に,免疫寛容の異常は自己反応性のT細胞やB細胞を介してII-IV型過敏反応で自己免疫疾患となる.II型過敏反応は細胞表面に反応するIgMやIgGによる組織傷害で,III型過敏反応は可溶性抗原とそれに対する抗体の免疫複合体が局所に沈着し,Fc受容体を有する細胞や補体の活性化を経て起こる組織傷害,IV型過敏反応は感作T細胞による組織傷害.ステロイドや免疫抑制剤が治療法の中心.」「では,腫瘍免疫については何が言えますか.」「腫瘍免疫は免疫が腫瘍抗原の存在を察知して活性化され,本抗原を持つ細胞のみを特異的に排除する経路のこと.活性化ヘルパーT細胞のIL-2, IFN-γなどによりCTL, NK, NK T, Mφ, B, LAKなどの免疫エフェクターが活性化され,腫瘍が排除される.また,自然免疫系も重要な役割を果たす.ガンの免疫療法としては抗体,サイトカイン,サイトカイン遺伝子療法,樹状細胞を用いる癌ワクチン療法などが検討されている.」「では,感染免疫については何が言えますか.」「感染免疫には感染後数時間以内に働く自然免疫と,感染後数日後から働く獲得免疫がある.病原体が排除された後は大部分のエフェクター細胞はアポトーシスを起こし,一部のリンパ球はメモリー細胞となる.病原微生物側も免疫認識からの回避や適切な免疫応答の不活性化を引き起こす機構を保持している場合がある.自然免疫としては上皮細胞のバリアー,食細胞による防御,早期誘導反応としてNK,γδT,NK T,CD5陽性B細胞が活躍する.獲得免疫としてはT細胞への微生物抗原提示が起こり,ヘルパーT,細胞傷害性T,制御性T,B細胞が活躍する.」「では,移植免疫については何が言えますか.」「移植免疫はHLAをはじめとするドナー由来の抗原がレシピエントの免疫系から異物として認識されて起こる拒絶反応が最大の障壁.骨髄移植ではGVHDも問題.ドナーの確保と,アロ抗原に対する免疫応答を特異的に制御する手法が課題となっている.」

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