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sadachi
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集合と位相

公開日時: 2021年9月10日(金) 18:00
文字数:5,371


「基本的な解法のパターンは認識出来ているようですね.良いでしょう.それではもう少し専門的な,集合と位相について勉強しましょう.1問目は,A, Bを集合とし,各kNに対してE2k = A, E2k–1 = Bとおきます.limn→∞ sup En = AB, limn→∞ inf En = ABを示して下さい.」「∀iNにおいてn = iEn = AB, n = iEn = ABより分かります.」

 

「これは基本的なことなのでしっかり吟味して下さい.2問目は,半順序集合 (X, ≤) が全ての二元集合に対して常に上限と下限が存在する時,束であると言います.さらに全ての空でない部分集合に対して常に上限と下限が存在する時,完備束であると言います.集合Aの巾集合𝔓 (A)は包含関係による半順序集合として完備束であることを示して下さい.」「𝔓 (A)の部分集合𝔄が空でなければ,∪(E | E ∈ 𝔄), ∩(E | E ∈ 𝔄)がそれぞれ𝔄の上限,下限です.さっきの問題と似ていますね.」

 

「そうです.1問目の概念の重要性が分かったでしょう.3問目は,1. 二つの集合A, Bに対して,(1) ABは濃度が等しい,(2) ABより濃度が大きい,(3) ABより濃度が小さい,の三つの場合が考えられ,どの二つも同時には起こらないことがベルンシュタインの定理により分かっています.この三つの場合のいずれかは成り立つことをツォルンの補題で証明して下さい.2. Rの部分集合Bで,Bに属する有限個の実数x1, x2, …, xrは常にQ上一次独立であり,任意の実数がBに属するある有限個の実数のQ上一次結合となるものが存在することをツォルンの補題で証明して下さい.」「1. は,Aの部分集合WWからBへの単射fの組 (W, f)全体の集合を𝔄と置きます.𝔄は明らかに空ではありません.𝔄の元(W, f), (W', f')に対し,WW' かつ全てのxWについてf(x) = f'(x)が成り立つ時に限り(W, f) ≤ (W', f')であると定義すれば,(𝔄, ≤)は帰納的半順序集合となります.(W, f)を𝔄の1つの極大元とすれば,W = Aまたはf(W) = Bのいずれかが成り立ちます.W = Aの時はAからBへの単射が存在し,f(W) = Bの時はBからAへの単射が存在します.2. は,Rの部分集合Bは,Bに属する有限個の実数が常にQ上一次独立である時は,Q上一次独立な集合と言います.Q上一次独立な集合の全体をとします.は明らかに空ではありません.Rの部分集合族として包含関係により帰納的半順序集合になります.Bの一つの極大元とします.BQ上一次独立な極大集合となります.任意の実数はBに属する有限個の実数のQ上一次結合になります.よって,Bは一つのハメル基となります.」

 

「集合論の微妙さが分かったと思います.4問目は,距離空間(X, d)においてA, Bを互いに交わらない空でない閉集合とします.g(x) = d(x, A)/(d(x, A) + d(x, B))によって定義される実数値関数g : XRは距離空間(X, d)から1次元ユークリッド空間(R, d(1))への連続写像であることを示し,さらに 0 ≤ g(x) ≤ 1 (x ∈ X), g(x) = 0 (x ∈ A), g(x) = 1 (xB)が成り立つことを示して下さい.」「X上の2つの実数値関数d(x, A), d(x, B)は共に0以上の値を取り,d(x, A) = 0 ⇿ x ∈ A. d(x, B) = 0 ⇿ x ∈ Bが成り立ち,条件よりgの分母は0より大きいです.g(x) = d(x, A)/(d(x, A) + d(x, B))は実数値関数g : XRとして定まり,この式とd(x, A), d(x, B)の性質から0 ≤ g(x) ≤ 1 (x ∈ X)で,g(x) = 0 ⇿ d(x, A) = 0 ⇿ x ∈ A, g(x) = 1 ⇿ d(x, B) = 0 ⇿ x ∈ Bです.これで,g(x) – g(y)  = d(x, A)/(d(x, A) + d(x, B)) – d(y, A)/(d(y, A) + d(y, B)) = (d(x, A) d(y, B) – d(x, B) d(y, A))/((d(x, A) + d(x, B)) (d(y, A) + d(y, B)))となり,d(x, A) d(y, B) – d(x, B) d(y, A) = (d(x, A) – d(y, A)) d(y, B) + d(y, A)( d(y, B) – d(x, B))です.Xは空でないので,距離空間の定理により,| d(x, A) d(y, B) – d(x, B) d(y, A) ≤ d(x, y)( d(y, A) + d(y, B))|となり,|g(x) – g(y)| ≤ d(x, y)( d(x, A) + d(x, B))となります.点x ∈ Xを固定し,任意のε > 0に対して,δ= ε(d(x, A) + d(x, B))と置きます.この時,d(x, y) <δ⇨|g(x) – g(y)| < ε が成り立ち,gは各点x ∈ Xで連続です.」

 

「距離空間の雰囲気は掴めたでしょうか.5問目は,(X, 𝒪)を位相空間とします.Xの部分集合AXの点xについて,xAの閉包であるための必要十分条件は,(X, 𝒪)において点xに収束するAの有向点列が存在することであることを証明して下さい.」「点x に収束するAの有向点列(aα | α ∈ Γ)の存在を仮定します.点xの任意の近傍Nに対して,或るδ ∈ Γを選んで,δ ≤ αであるような全てのα ∈ Γに対して,aα Nと出来ます.特に,点xの任意の近傍Nに対して,AN ≠ ∅となり,xAの閉包となります.逆に,xAの閉包と仮定すると,点xの任意の近傍Nに対してAN ≠ ∅となり,選択公理によって各NN(x) = Γに対し,一斉にaN ANを選びます.(aN | N ∈ Γ)はAの有向点列であり,任意のN ∈ Γ = N(x)に対して,MNなる全てのM ∈ Γ = N(x)について,aM AMNとなります.よって,(aN | N ∈ Γ)は点x に収束するAの有向点列ですね.」

 

「点列連続性は高校数学の考え方では不充分で,正確には位相空間の考え方が必要です.6問目は,(X, 𝒪)を位相空間とし,f : XYを集合Xから集合Yへの全射とします.集合Yの部分集合族𝒪(f)を𝒪(f) = {H ∈ 𝔓(Y) | f–1(H) ∈ 𝒪 }とします.𝒪(f)が位相の条件を満足することを確かめて下さい.」「商位相のことですね.写像f : XYが全射なので,f–1(Y) = Xで,f–1(∅) = ∅です.よって,Y, ∅ ∈ 𝒪(f)です.次に,U1, …, Un𝒪(f)とします.等式f–1(U1∩…∩Un) = f–1(U1)∩…∩f–1(Un)が成り立ち,右辺は(X, 𝒪)の開集合です.よって,U1∩…∩Un𝒪(f)です.最後に,(Uλ | λ ∈ Λ)を𝒪(f)の元からなる集合系とします.等式f–1(λ∈ΛUλ) = λ∈Λf–1(Uλ)が成り立ち,右辺は(X, 𝒪)の開集合です.よって,λ∈ΛUλ𝒪(f)です.」

 

「よく出来ました.7問目は,Rnの開集合Gについて,(i) 部分空間Gにおいて点a Gと孤によって結ぶことの出来るGの点全体をG(a)とすれば,G(a)はRnの開集合であることを示して下さい.(ii) 開集合Gが連結であれば,Gは弧状連結であることを示して下さい.」「Rnの開球体Bn(a ; ε)が弧状連結であることを使えばいいですね.」

 

「位相的性質が分かって来たでしょうか.8問目は,距離空間Xの距離関数dを用いてd*((xn), (yn)) = limn→∞d((xn), (yn))を定義します.また,距離空間(X, d)の基本列全体の集合をF とし,同値関係~による商集合F/~をXチルダとし,F の元(xn)の同値類が表すXチルダの元を[(xn)]とします.関数(dチルダ) : Xチルダ × Xチルダ → RXチルダの2元[(xn)], [(yn)]に対して(dチルダ)( [(xn)], [(yn)])  = d*((xn), (yn))で定義します.XからXチルダへの写像iを,Xの点xに対してxn = x (nN)と置き,この時に生じる基本列をxチルダで表し,Xの点xに対してxチルダの同値類[xチルダ]を対応させる写像とします.XチルダはXの完備距離空間ですが,その中の点ξに対して,ξ = limn→∞ i(xn)を満足するXの点列(xn)をどのように選んでも,Xにおける別の完備距離空間Xハットに対するiと同様の写像i'で定義されるξ* = limn→∞ i'(xn)という点ξ*は一意的に決まることを確かめて下さい.つまり,Xの点列(xn), (xn')について,ξ = limn→∞ i(xn) = limn→∞ i(xn')ならlimn→∞ i'(xn) = limn→∞ i'(xn')ということです.」「点列(xn), (xn')は基本列なので,(i'(xn)), (i' (xn'))も基本列ですね.その極限点をξ1* = limn→∞ i'(xn), ξ2* = limn→∞ i'(xn')とします.(dハット)(ξ1*, ξ2*) ≤ (dハット)(ξ1*, i'(xn)) + (dハット)(i'(xn), i'(xn')) +  (dハット)(i'(xn'), ξ2*)です.また,(dチルダ)(i(xn), i(xn')) = d(xn, xn') = (dハット)(i'(xn), i'(xn'))です.ξ = limn→∞ i(xn) = limn→∞ i(xn'), ξ1* = limn→∞ i'(xn), ξ2* = limn→∞ i'(xn')より,任意の正数εに対して自然数Nを十分大きく選ぶと,nN ⇨ (dチルダ)(i(xn), ξ) < ε/4, (dチルダ)(i(xn'), ξ) < ε/4, (dハット)(ξ1*, i'(xn)) < ε/4, (dハット)(ξ2*, i'(xn')) < ε/4と出来ます.特に,nNならば,(dチルダ)(i(xn), i(xn')) = d(xn, xn') = (dハット)(i'(xn), i'(xn'))より(dハット)(i'(xn), i'(xn')) = (dチルダ)(i(xn), i(xn')) ≤ (dチルダ)(i(xn), ξ) + (dチルダ)(i(xn'), ξ) < ε/2です.(dハット)(ξ1*, ξ2*) ≤ (dハット)(ξ1*, i'(xn)) + (dハット)(i'(xn), i'(xn')) +  (dハット)(i'(xn'), ξ2*)より,nNならばdハット)(ξ1*, ξ2*) < εとなり,ξ1* = ξ2*となります.」

 

「完備距離空間の有用性が分かってもらえたでしょうか.9問目は,実数係数のmn列の行列全体の集合をM(m, n)とし,集合M上の距離関数dを,Mの2元A = (aij), B = (bij)に対してd(A, B) = (∑i, j(aijbij)2)1/2で定義します.dが定めるM上の距離位相を𝒪dとします.Mの元Aが定める線型写像LA : RnRm, LA(x) = AxRnからRmへの連続写像であり,C(Rn, Rm)に属します.MCの部分集合とみて,Mにコンパクト開位相を与えることが出来ます.M上の距離位相𝒪dとコンパクト開位相とは一致することを示して下さい.」「Rnの標準基底を{e1, …, en}とすれば,線型写像LARmn個のベクトルAe1, …, Aenで一意に定まりますね.𝒪dよりコンパクト開位相の方が大きい位相であることをまず示します.AMと正数εを任意に与えます.開球体B(A; ε) = {BM | d(A, B) < ε}がコンパクト開位相に関してAの開近傍であることを示せば十分です.Rm上のユークリッド距離をd(m)とすれば,d(A, B) = (∑j = 1n d(m)(Aej, Bej)2)1/2です.δ = ε/n1/2」置きます.さらに,Uj = Bm(Aej, δ)をRmにおける開球体とします.この時,N = ∩j = 1nW({ej}, Uj)はコンパクト開位相に関するAの開近傍です.BNについてd(m)(Aej, Bej) < δ (j = 1, …, n)が成り立つので,d(A, B) < n1/2δ = εとなります.故に,NB(A; ε)です.逆に,コンパクト開位相より距離位相𝒪dの方が大きい位相であることを示します.一般に,A = (aij), B = (bij) ∈ M, x = (xj) ∈ Rnに対して,次の不等式が成り立ちます.d(m)(Ax, Bx) = (∑i(∑ j(aijbij) xj)2)1/2 ≤ (∑i(∑ j(aijbij)2)(∑j xj2)) 1/2 =  (∑i, j(aijbij)2)1/2((∑j xj2))1/2 = d(A, B)||x||.Rnのコンパクト集合KRmの開集合Uに対して,W(K, U)が距離位相𝒪dの開集合になることを示せばよいです.AW(K, U)即ちLA(K) ⊂ Uとします.Kはコンパクトなので,δ = inf{d(Ax, Uc) | x K} > 0です.|| K || = sup{|| x || : xK }が正の数に有限確定します.任意のx Kに対して,d(m)(Ax, Bx) ≤ d(A, B)||x|| ≤ d(A, B) || K ||が成り立ちます.故に,d(A, B) < δ/|| K || ⇨ d(m)(Ax, Bx) < δ (∀x K) ⇨ Bx U (∀x K) ⇨ B W(K, U)です.よって,B(A; δ/|| K ||) ⊂ W(K, U)です.これでW(K, U)が距離位相𝒪dの開集合になります.ユークリッド空間の性質の良さが分かりますね.」


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