「……何だよ、アイツ」
『……僕も、彼女と同じ考えだよ』
「何?」
ポンコツは両目をぐりんと動かし、クロニカを見上げながら言った。
『君は君のなりたい自分になればいいと思う。誰かみたいにではなくて……クロニカとして誇れる生き方を見つけるんだ』
「……」
『……今の僕が言える義理じゃないけどね』
「はっ! 全くだ、このポンコツ野郎」
クロニカはポンコツを抱えたまま床に座り込む。
「オレがこうなったのは誰のせいだと思ってんだ。さっきまでオレが悩んでたのも半分以上はお前のせいだよ、バカヤロー」
『ううっ……ご、ごめんよ。ぼ、僕にもどうして君との融合が解除されたのかわからないんだよ! 急に身体が』
「うるせー、言い訳なんて聞きたくねえ」
『え、ええとっ! 次はもうあんな事にならないように頑張るよ! 詳しい原因はわからないが、僕がもっと気を強く持って戦いに集中すればきっと……!!』
「うっさい、もう何言われてもムカつくからこのまま黙ってろ……」
ギュッと強くポンコツを抱きしめてクロニカは蹲る。
『ク、クロニカ?』
「うるさい」
『……』
「そんなの、言われなくてもわかってたんだよ……畜生。お前らに言われなくてもなぁ……」
『……そうか』
「それでもよ、少しくらいはいいじゃねえか。あの人みたいになりたいとか、あの人みたいに好かれたいとか思ってもさぁ……! オレだって、オレだって……!!」
クロニカは身体を震わせて感情を爆発させる。
……幼い頃、育ての親である猟師に狩りを教わったクロニカは彼を真似て様々な動物を狩った。
眷能が無くても狩りは出来る。銃さえ使えれば獲物は狩れる。そして沢山の獲物を持って帰れば村の皆も認めてくれるだろう。褒めてくれるだろうと。
だが、クロニカを褒める者は育ての親しかいなかった。
ずっとそうだ。どんなに頑張っても彼は評価されない。どれだけ努力しようとも認められない。何故なら彼には眷能が使えないから。白き神の子である証が無いから。
たったそれだけの理由で、クロニカは嫌われ者になった。
『……』
ポンコツにもクロニカの辛い記憶は共有されている。
最初の変身の際に彼の記憶を覗き、それを元に言語を習得してこの世界に関する幾つかの知識を得た。だが彼の全てを知った訳では無く、得られた知識も僅かなもの。ポンコツはまだまだこの世界について何も知らないのだ。
(……この世界の人間とは、そこまで酷いものなのか?)
ポンコツの額に数滴の涙がポタポタと当たる。啜り泣くクロニカの顔が見ていられなくなり、思わずポンコツは声を出す。
『……あのさ、クロニカ。少しいいかな?』
「……何だよ!」
『その、こんな時に申し訳ないんだが……僕を放してくれないか? 君の涙と……む、胸が当たってその……ええとすごくドキドキする』
「……ッ!!」
『ご、ごめん! でも気になるんだよ! 言っちゃ駄目だと思うけど! 今の君はすっごい可愛いよ!!』
「こんっっの! クソポンコツがぁぁー!!」
『ギャアアアアアーッ!!』
クロニカは顔を真赤にしながら思いっ切りポンコツを投げて壁に叩きつけた。ポンコツは勢いよく壁にめり込み、ビクンビクンと痙攣しながら苦しそうなうめき声を上げる。
『うううぅ……』
「ふざけやがって! やっぱりテメーなんて捨ててやる!」
『そ、それでいいんだよ……』
「ああ!?」
『き、嫌いな相手はこんな風にして黙らせればいいんだ。レイコの言う通り、無理して合わせようとしたり……好かれようとしなくていい……』
「!」
『僕は、まだこの世界の事を何も知らないけど……それでもハッキリ言えるよ。こんなに悩んで、頑張って、苦しんでる君を馬鹿にする奴らなんてクソヤローだ! そんなクソヤローなんて放っておいて君らしい生き方を貫け!!』
壁から抜け落ちたポンコツはビターンと硬い床に落下し、ゴロゴロとクロニカの足元に転がってくる。
『……僕はそんな君を応援してるよ。すっかり嫌われちゃったけど、いくらでも応援する』
大きな目に大粒のナミダを浮かべた情けない顔になりながらもそんな事を言ってのけるポンコツに、クロニカの胸がドクンと高鳴った。
「……はっ、何だよポンコツ。そんなクサイ台詞でオレの機嫌が直ると思うか?」
『思ってないよ……でも関係ない。僕は言いたいことはハッキリ言うタイプなんだ』
「……はっはっ」
クロニカはひょいとポンコツを拾い上げて汚れを手でパンパンと叩いて落とす。
「じゃあオレもハッキリ言うよ」
『……』
「余計なお世話だ、バーカ」
そしてクロニカはニコッと笑ってお礼3割、嫌がらせ7割のつもりでポンコツの額にキスをした。
『ほわわわぁっ!?』
「はっはっは! どーだ、元男の女にキスされる気分は!? 最悪だろ、吐きそうだろ!!」
『ううん……悪くない! ええと、ええとむしろ……!!』
ポンコツは顔を真赤にして、目を回しながらブスブスと煙のようなものを出す。
「嘘だろ、お前……マジで気持ち悪いな」
『き、気持ち悪いとか言わないでくれよ! 君の顔が可愛いのが悪いんだ!!』
「可愛いとか言うな! オレは! 男だっ!!」
『でも、今は女の子だろ!?』
「うるせぇえー! 誰のせいじゃ、ボケェェェー!!」
《ヴァオオオオオオオオオオオオオオン!!》
不意に大地を揺るがすような獣の咆哮が聞こえ、驚いたクロニカは咄嗟にポンコツを抱きしめた。
「……」
『……!』
「……何も言うな」
『……うん』
クロニカはポンコツを抱え、顔中に汗を滲ませながら大急ぎで孤児院を出た。
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