「偉大なる白き主よ、我らの父よ。願わくば、永久に御身が尊まれんことを……」
孤児院に併設された教会の礼拝堂。白き神を象った石像にシスター・ソロネが祈りを捧げる。
「偉大なる白き主よ、我らは永久に御身と共に……アーニマ」
「シスターッ!!」
シスター・ソロネが祈りを終えたと同時に、ミーナが慌ただしくやって来る。
「あらあら、ミーナ。どうしたのですか?」
「あのね、んとね、えっとね!」
「うふふふ、少し落ち着いて。何があったのですか?」
「クロニカ兄ちゃんが新しい女を連れてきたの!!」
ミーナは興奮した様子で両手をパタパタと動かしながら言った。
「あらあらまぁまぁ」
「ちょっと待てぇぇぇぇーっ!!」
そこに息を切らせたクロニカが現れた。
「あらー!」
現れたワンピース姿の少女を見てシスター・ソロネは満面の笑みを浮かべる。
「シスター! あの人、あの人っ!」
「うふふ、貴女がクロニカの新しいガールフレンドさんですね」
「違ぁぁぁーう!!」
クロニカは泣きながらシスター・ソロネに掴みかかり、その身体を強く揺さぶる。
「違うんです、シスター! 聞いてください!!」
「あらあらあらっ」
「信じられないだろうけど聞いて! オレが、オレがクロニカなんです!」
「あらあら……あらっ?」
「本当なんです! こんな身体になっちゃったけど!!」
シスター・ソロネを放し、変わり果てた自分の身体を見せながら必死に訴えた。
「嘘だーっ! クロニカ兄ちゃんは男だもん! 女じゃないもん! シスターに嘘つくなー!!」
しかし、そんな必死の訴えもミーナに一蹴された。
「うううっ! 違うんだよ、ミーナァ! オレが兄ちゃんなんだよぉ!」
「うふふふ、少し落ち着いてください」
「シ、シスター……!」
「もう大丈夫ですよ」
クロニカの肩にそっと触れ、シスター・ソロネは天使のような優しい笑みを浮かべる。
(ああ、シスター! アンタにはオレだってわかるんだね……! やっぱり天使みたいな人だよ!!)
彼女の笑みに癒されたクロニカはぐっと涙を拭いながら安堵したが……
「何があったのかはわかりませんが、貴女は自分がクロニカだと思い込んでしまっているようですね。可哀想に……今日はゆっくり休んで行きなさい。明日、お医者様を呼んできますから」
「クソッタレェェェー!!」
夢も希望も打ち砕くシスターの言葉に、ついにクロニカは膝から崩れ落ちた。
「ううっ、ううううっ……!!」
「大丈夫、もう大丈夫ですからね。よっぽど辛いことがあったのですね……」
「あー……、ごめんなさいシスター・ソロネ。ちょっといい……?」
「あら?」
白い兜を持ったレイコが気まずそうに声をかける。
『あー、うーんと。信じられないだろうが、その女の子はクロニカだ。色々あって女の子になってしまってね……』
啜り泣くクロニカを横目に白い兜が申し訳無さそうに言う。
「……」
喋る白い兜を目にした瞬間、いつも閉じているシスターの目が大きく見開かれた。
「……その兜、今……」
『ああ、驚かせてすまない。僕にも仕組みはよくわからないんだが……この通り喋れるんだ』
「そうそう、凄いでしょ? それも喋れるだけじゃなくて、とんでもない機能が備わってるのよ」
「……」
シスター・ソロネは早歩きで白い兜に接近し、両手でガシッと掴む。
「……」
「えっ、シ、シスター?」
『うわわわわっ!?』
初対面の金髪美女にまじまじと見つめられて白い兜は顔を真赤にした。
(で、でで、でかい!!)
その美貌だけでなく、たゆんと揺れる豊満なバストも目に毒だった。大きな青い瞳はぐるぐると渦を巻き、忙しなく震えてブスブスと煙のようなものが上がる。
「……何処で、この聖異物を?」
「何処でって言われても……いつもどおり遺跡の中よ。クロニカが見つけてきたの」
「……クロニカは何処に?」
「ずっとあそこに」
レイコはショックのあまり塞ぎ込んでしまったクロニカちゃんを指差した……
「ええっ、クロニカが……!?」
事情を聞いたシスター・ソロネは口に手を当てて仰天する。
「……はい、その……この白いポンコツのせいで」
『ポンコツ!? ねぇ、今、僕のことポンコツって言った!? ねぇ!』
「そう、このポンコツのせいでクロニカはクロニカちゃんになっちゃったのよ」
『ちょっとぉ! 君までポンコツとか言わないでくれるぅ!?』
クロニカ達にポンコツ呼ばわりされて白い兜は大粒の涙を浮かべる。
「まさか本当に女の子になってしまったなんて……ごめんなさい。気づけませんでした」
「まぁ……はい。シスターには気づいてほしかったですけど……」
「本当にクロニカを元に戻せないのですか?」
『……戻せないと言うか、戻し方を知らないと言うか……』
テーブルに置かれた白い兜はそっとクロニカから視線を逸らして言う。
「こいつの記憶が戻れば、きっとクロニカを男に戻せるようになると思うんだけどね」
「……」
『ご、ごめんね……』
「……そういうことだったのですね。わかりました」
シスター・ソロネはパンと手を叩き、ニコッと優しく笑う。
「つまりクロニカは今日から女の子になるのですね!」
「シスタァァーッ!?」
笑顔でそんな事を宣うシスターにクロニカは再び掴みかかる。
「あらあらあらっ」
「そんなにあっさり受け入れないでくれよぉおおー! 可愛い教え子ですよぉー!? 」
「ふふふ、例え性別が変わっても、どんな姿になってもあなたは私の可愛いクロニカですよっ」
「そういう意味じゃなくてぇぇー!」
「せっかく女の子になったのですから、デウス教のシスターになりましょう? あなたならきっと素敵なシスターになれますよっ」
「シスタァァァーッ!?」
「ええ、是非シスターに!」
「やだぁぁぁ────っ!!」
『……』
「うわぁ……」
揺さぶられながらも『あらあら』と上機嫌なシスターの姿に、レイコと白い兜はドン引きした。
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