クロニカちゃんは意外と……
「……」
セフィロトに程近い街、ギーメルにある宿屋。アリィは愛用の魔動機シルフィードの手入れをしながらある写真を眺めていた。
「アイツ……まだ無茶なことやってんのかなぁ」
「んー……どいつの事?」
「ひゃわわっ!?」
アリィのつぶやきを聞いたメイリは寝ぼけ眼で後ろから抱きつき、ほわぁと欠伸をする。
「あ、姐さん!? ぐっすり寝てたんじゃないんすか!?」
「寝てたわよー……今起きたとこ。ところでアイツってどの子?」
「な、何でもないすよ。忘れてください」
「んー……何だか今日のアリィ冷たいわねー」
「ふぎゃあああっ!? 何処触ってんですかぁー!?」
メイリは素っ気ないアリィの態度に傷ついてその胸を優しく揉みしだく。
「や、やめてぇー!」
「アイツが誰か教えてくれたらやめるわー」
「姐さんには関係ないじゃ……はぅんっ!」
「ふふふー、じゃあ当てられたらその子のこと教えてくれる?」
「あ、当てられたらね!」
「ふふっ、じゃあ……」
アリィの胸から手を放し、メイリは写真に映る金髪の少年を指差した。
「この子でしょ」
「え、何でわかるんすか!?」
「え、当たったの? やったー!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!?」
まさかの墓穴を掘ったアリィは奇声を上げる。メイリは慌てるアリィの反応を楽しみながら写真の少年を眺めた。
「へー、この子が気になるのね」
「ち、ちがうっすから! ただ、アイツがまだバカみたいな事やってるのかと思っただけで!!」
「バカみたいなこと?」
「……まぁ、はい」
メイリから取り返した写真を抱きしめ、アリィはボソボソと言う。
「アイツ……いえ、クロニカって言うんすけどね。遺跡荒らしやってるらしいんですよ」
「あら、どうして? 試験に落ちちゃったの?」
「いえ、落ちる以前に受けられないんです。クロニカは眷能が宿らない特異体質なんで」
「……え、それ本当? 眷能が使えないエトなんてただの噂話じゃ」
「……アタシも今までそいつしか見たことないし、疑われても仕方ないすけど……」
アリィが大事そうに持っている写真。それは彼女が育ったアクリ村の孤児院で撮った思い出の一枚だ。クロニカと違って試験に合格して正式な探索者となった彼女は村を出て生活している。
「時々、知り合いから話を聞くんすけどね。碌な発掘品を見つけられない癖に無茶ばっかりしてるらしいっす」
「ふぅん……モノ好きな子ねえ」
「そういや、探索者になって村を出てからは会ってませんね……」
ふとアリィは孤児院の事を思い出す。シスター・ソロネや孤児院の子供達は元気にしているだろうか。しつこく絡んできたエイライ村長はもう死んでいて欲しいが、探索者になった自分を温かく見送ってくれたシスターや村人達を思い出して久しぶりに郷愁の念を抱いた。
「ふふ、ひょっとしてアリィはその子が好きだったの?」
「ふえっ!?」
そんな時にメイリの不意打ち気味な発言を聞いてアリィは顔を真赤にした。
「そ、そそそそ、そんなことねえっすよ!? 第一、アイツは口が悪くて威勢がいいだけの無能だし! 小さい頃は良く遊びましたけどそれだけっすよ! それだけ!!」
「ふーん?」
「ていうか姐さんはさっさと着替えてください! 女同士だからっていつまでも裸で寝てるんじゃねーです! ほら、服着て服ぅー!!」
「ひゃあー」
ニヤつくメイリに着替えをぶん投げ、アリィは急いで写真を鞄にしまった。
「大体、クロニカには……!!」
「クロニカ君には?」
「……な、何でも、ないです」
言いかけた言葉を呑み込んでアリィはシルフィードを抱きしめる。
(クロニカには……レイコがいるんだから)
ずっとクロニカの傍にいた彼女。自分と同じように探索者や討伐者への高い適性を持ちながらも村に残り、彼や孤児達と過ごすことを選んだレイコの事を思い出して胸が痛む。
「……ふーん? ところでアリィちゃん」
「……何すか」
「こうして見るとアンタって本当に可愛いわよね。特に泣きそうになってる顔とか!」
「……! こ、このっ! いくら姐さんでも怒りますよぉーっ!?」
「次に怒った顔が可愛いー!」
「きいいいい────っ!!」
「うふふっ、やぁんっ!!」
アリィは顔を真赤にしながらメイリの豊満な胸に飛びつき、彼女をベッドに押し倒した。
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