「ッ!!」
クロニカ達から遠く離れた場所。青銅色の玉座で異形の姫が苦悶の声を上げる。
「……おのれ……っ」
白き兜奪還の為に送り出した100を越す兵が倒されたのを察知してツクヨミは歯軋りをする。
「徒に数を増やすだけでは勝てぬか。流石は神代の遺児、凄まじい力よ……」
彼女の瞳から青い血の涙が伝う。斃される直前まで臣下と繋がっていた影響か、ツクヨミにも少なからずダメージが反映されていた。
「……なればこそ、何としても我らの手に収めねばならぬ」
血の涙を拭ってツクヨミは玉座から立ち上がる。
「それが何たるかも知らず、星を蝕む毒に自ら溺れる愚民めらが」
臣下を通して目に焼き付けた忌まわしき簒奪者。何も知らずに神代の力を振るう愚者をツクヨミは心底から唾棄した。
「その兜は貴様が触れていいものではない。それは我らが持つべきもの……必ず返してもらうぞ」
◇◇◇◇
『……反応消失。全滅したみたいだ』
「ふう……」
ファンタズマを殲滅して緊張が解けたクロニカはそのまま地面に座り込む。
「ファンタズマの鱗が硬いのは知ってたがここまでとはなあ……、自分でやっといてアレだがおっかねえや」
『本当だね……』
「それだけじゃなくて普通の木の枝がファンタズマにぶっ刺さるんだもんよ。本当にすげぇよ、コイツの力は」
青い血で染まった掌を見つめてクロニカは大きな溜息を吐く。
『それにしても凄い作戦だったね。真っ先にファンタズマのリーダーを倒して、その死体を武器にして敵を全滅させるなんて』
「仲間を生贄にするような奴にはお誂え向きだろ。それに、こういう奴ほど単純な罠にアッサリ引っかかるもんだ」
倒したリーダーの死体に振り返り、クロニカはふんと鼻を鳴らす。
「先頭を走ってればすぐに見破れただろうにな。仲間を囮にして美味しいところを狙おうとするからあっさり裏を取られるんだ。コイツは力は厄介だが、頭の方は残念だったな」
『……』
「しかし見事に引っかかってくれたなー」
森に入ったクロニカはガルーダを囮にリーダーと他のファンタズマを分断させる作戦を閃いた。
ファンタズマは視覚と聴覚には優れているが嗅覚はそれ程でもない。更に視覚に優れているといってもポンコツとガルーダの索敵機能には及ばない。薄暗い森の中という環境も手伝ってガルーダが単独で走り出しても、それを囮だと気づくのに少なからず時間がかかる。
おまけに最大の脅威であるリーダーは他のファンタズマに隠れながらの不意打ちに徹している。
一対一での戦いで勝ち目がない以上はそうせざるを得ないのだが、だからこそファンタズマ達が囮に引っかかっても気づくことが出来ない。一方のクロニカは木の上という安全圏で敵を観察し、群れに吊られて動き出すリーダーを見つけ出せればいい。見つけた後は死角である頭上から接近して仕留める。
リーダーが先陣を切って切り込んでくるタイプであれば成立しないが、先程の戦闘で『それは絶対にない』と確信出来たからこそ実行できた作戦だ。
「不安があるとすれば囮になったガルーダが逃げ切れるかどうかだったが……流石は俺の相棒だ。森の中でもファンタズマから逃げ切りやがったぜ」
〈ヴヴンッ!〉
『本当にガルーダは凄いんだね』
「おうよ、自慢の相棒だ!」
ここで漸くクロニカは変身を解き、誇らしげにガルーダのボディをポンと叩いた。
「ファンタズマは狙った相手を絶対に逃さねえ。だから囮だと気づかれない限りはバカ正直にずっとガルーダを追いかけてくれるし、囮だと気づいてもリーダーを倒せればゴリ押しで何とかなる。執念深い奴らで良かったよ、本当に」
『これも育て親の猟師から教わった知恵かい?』
「ん、そうだな。それでもクロノスの力に頼りきったやり方だから褒められたもんじゃねえが」
『いや、クロノスの力だけじゃ勝てなかった。君の知恵があってこそだ……本当に凄いのはクロニカだよ』
「ははっ、ありがとよ。その知恵もガルーダが思い出させてくれなきゃ活かせなかったけどな!」
〈ヴーンッ〉
『じゃあ三人の力が合わさってようやく勝てたって事だね!』
「あっはっは、つまりそういうことだな!!」
ポンコツと笑い合いながらナイフを取り出し、変異したファンタズマから素材を剥ぎ取る。
「この角みたいなのは何だろうな? コレがバカっと裂けたと思ったらいきなり切られたんだが」
『持ち帰って調べたら仕組みがわかるかも知れないね』
「鱗も他の奴に比べてやたら鋭くて硬いし、コイツの素材は色々と役に立ちそうだなあ。売るのが勿体ねえ」
『売らずに取っておいたらいいんじゃないか?』
「そうだな。とりあえずコイツの素材はこのまま貰っておこう……問題は」
〈ヴヴッ〉
「この死体の山をどうしようか……」
『……さぁ』
森の中に転がるファンタズマ達の死体。その数、軽く40匹以上。森の外で放置された物を含めれば100匹オーバー……
一人では到底持ち帰られない血腥い宝の山を前にクロニカは頭を抱えた。
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