「あー、今日も散々な目に遭ったなぁ……」
『本当だね……』
レイコの居る街に到着したクロニカは腹拵えの為に大衆酒場を訪れていた。
「それはこっちの台詞だってーの!」
タービールのジョッキをダァンとテーブルに叩きつけてレイコは叫ぶ。
「何が楽しくて血だらけの汚らしいマッチョ共の手当てをしなきゃいけないのよ! 汗臭いし汚いし最悪だったわ!」
「わ、悪かった! 悪かったって!」
「本当にそう思ってんの!? マジで面倒くさかったんだからね!? 特にあのバギーとかいう奴! キモ過ぎて死ぬかと思ったわよ!」
『まぁ……確かにアレは気持ち悪かったな』
「で、でもあのままだと死んでたし……アイツに恨みはあるが殺したいって程でもねぇしよ」
「……っっとーにアンタは甘いんだから! タービールおかわりぃ!」
レイコはタービールが運ばれるや否やあっという間に飲み干して女らしからぬ豪快な息を吐く。
『お、おいレイコ。そろそろやめておいた方が……』
「うるさぁい! 飲まずにいられるかーっ! タービールおかわりぃ!」
『いや、もう顔が真っ赤だよ!? これ以上飲んだら……』
「ちょっと、そこの人ー! 早くタービール……ッ」
バターン!
『あーっ!!』
タービールの飲み過ぎでレイコはテーブルに突っ伏す。
『しっかりしろ、レイコーッ!』
「ふー……やっと静かになったな。ほら、晩飯にするぞポンコツ。何か食いたいのあるか?」
『えっ!?』
しかしクロニカはレイコが倒れて心配するどころか、涼しい顔でポンコツに店のメニューを見せる。
「うーん、とりあえず肉だな。まずはボルドーの丸焼きを」
『ク、クロニカ!? レイコが倒れたんだぞ!? 少しは彼女を心配してあげようよ! それにあんなにお酒を飲んだら』
「いや、アレは酒じゃねーよ。タービールっていう子供でも飲めるジュースみたいなもんだ」
『へ!?』
「んぐぐぅ……」
「レイコは酒が飲めないんだよ。それで酒の代わりにタービールを頼むんだが、いつもこんな感じで酔い潰れるんだ。アルコールなんて入ってないのに」
『……』
ポンコツはレイコの額に触れて彼女の体調をチェックする。
『……本当だ。アルコールが入ってないのに酔いつぶれてる……どういうことだ』
「んー、わかんね。で、ポンコツは何食べるよ?」
『う、うーん……どんな料理なのか名前だけじゃわからないから君に任せるよ』
「あいよ。おーい、ちょっと注文いいか?」
クロニカはあまり気に留めていないが、店に入ってから彼らは他の客の注目の的になっていた。
「……おい、見ろよアレ」
「何だ? 見たこともない道具だな……」
「ヘルメット……じゃないよな」
「喋るだけじゃなくて一人でに動いてるぞ。あれも聖異物なのか?」
特に話題となっているのはポンコツだ。
かつてのクロニカ同様に【喋る聖異物】など見たことも無い彼らはポンコツの一挙一動が気になって仕方がない。喋るだけでなく自分の意思を持ち、虫のようにカサカサと動くその奇っ怪な姿は大勢の探索者の興味を引くものであった。
「それに……」
「ああ、うん。そうだな」
「……あの子、可愛いな」
「あの装備は探索者だろうか? それにしても……うむ!」
「ちょっとお前、声かけてこいよ!」
更にポンコツ程では無いが、美味しそうに料理を頬張るクロニカも彼らの視線を集めていた。
本人も薄々自覚しているがクロニカの容姿は異性を大いに惹きつけるものであり、小柄ながらたわわに実った胸と肉付きの良い脚に男達は息を呑む。その可憐な外見に見合わない物騒な武器も丁度良いアクセントになって彼の魅力を更に引き立てていた。
「んめー! やっぱり肉だな、肉ー!」
『た、確かに美味しいな! 何だろうこれ……鳥肉? いや、わからない! でも美味しい!』
「おいおい、そんなにがっつくなよ! オレの分が無くなるだろ!?」
『い、いいじゃないか! 僕だって頑張ったんだから多めに分けてくれよ!』
「ねぇ、貴女……ちょっと良いかしら?」
周囲から向けられる視線に気づかず、夢中になって料理にがっつくクロニカに長髪の女性が声をかけてきた。
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