悠久のクロノス

~神に見放された無能のオレが、白いポンコツや灰色の相棒と世界を旅するだけのお話~
ヨシコ
ヨシコ

ACT.39

公開日時: 2020年10月31日(土) 00:09
更新日時: 2021年2月26日(金) 23:47
文字数:2,202

「本当に良いのですか?」


 シスター・ソロネはレントの遺体をトラックの荷台に固定し、村を去ろうとするコーザを呼び止める。


「んああ、いいんだよ。クロニカちゃんにお祈りもしてもらったし、旦那はギルドの昇化炉で燃やしてもらう」

「しかし、その方はこの村の為に戦ってくれた恩人です。せめて葬儀だけでも私達で……」

「はっ、やめてやれよ。旦那はそういうの嫌いなんだ。せっかくゆっくり眠れるのにアンタらのせいで起きちまうじゃねえか」


 コーザはレントの入った棺桶をコンコンと叩いて不敵に笑う。


「旦那を見送るのは俺だけで十分だよ」


 そう言い残してコーザは装甲トラックに乗り、エンジンをかけて車を発進させようとする。


「お兄ちゃん、ありがとー!!」

「また来てくれよーっ!」

「ちょっと怖かったけど、カッコよかったぞ兄ちゃーん!」


 シスター・ソロネと一緒に見送りに来たミーナ達が感謝の言葉を送る。コーザはうんざりするような重い溜息を吐きつつ、窓から手を振ってトラックを走らせた。


「はっ、こんな寂れた村に何しに来るんだよ。悪いけど、ちびっ子共とはこれっきりだ」


 そう言いつつもサイドミラーでチラりと後方を確認する。見送りに来た村人達の中にクロニカの姿が無かった事に少しだけ落胆しつつ、コーザはアクセルを踏み込んだ。


「……ああ、そうだ」


 ふとコーザは自動運転オートマに切り替え、ハンドルから手を放して隣に置いたサラマンダーを確認する。


「弾切れ、ねぇ」


 マガジンを取り外すと薬室チャンバーにも一発装填されており、あの時の彼は間違いなくクロニカを殺すつもりで引き金を引いていたのだ。


 だが何故か弾は不発した……サラマンダーが不発を起こしたのは今回が初めてだった。


「……いいね。ますます気に入った! 次に会うときは絶対に俺の女にしてやるよ!!」


 コーザは少年のように目を輝かせながら再びハンドルを握る。興奮するあまり更にスピードを上げて草原を疾走し、荷台に乗せた棺桶の中からはガンガンと何かがぶつかるような音がした。


「ああ、すまねぇ! 旦那! ちょっと久々に本気で女に惚れちゃってさ、はっはっは!!」


 ガンッ、ガンッ


「いやー、来てみるもんだな! ド田舎にも! ひょっとしてド田舎だからあんな怖いもの知らずなイイ女に育ったのかなぁ!? はっはっは!!」


 楽しげな笑い声と喧しい音を響かせながら、赤い装甲トラックは夜の草原を駆け抜けていった……



◇◇◇◇



「見送りに行かなくてよかったの?」


 場所は変わって孤児院の裏にある鉄薪割り場。コーザ達の見送りに行かなかったレイコがクロニカに言う。


「何であんなヤツを見送らなきゃいけねえんだよ。もう顔も見たくねえな」

「コーザじゃなくて、レントの方よ」

「……もう見送ったよ!」


 ナイフでファンタズマの死体を解体しながらクロニカは声を荒げた。


「……ったく、あのヤローめ! どうせならこの死体も持って帰ればいいのによ!!」

「ファンタズマの死体からは物凄く有用な素材が取れるのよ? ボロ儲けじゃないの。むしろ丸々一匹分の素材をくれたことに感謝してあげなさい」

『ふむむ、見れば見るほど凄い生き物だな……』

「あーもー、疲れた! そろそろレイコが代われ!!」

「嫌よ、アンタが倒したんだからアンタが責任持ってバラしな」


 ファンタズマからは一般流通している武器素材や遺跡発掘品よりも遥かに有用な素材が採取できる。

 

 その外骨格は上等な盾や魔動鎧マキナ・メイルの材料に、骨や爪は無加工でも強力な武器となる。体内を循環する青い血には滋養強壮の効果があり、ファンタズマから得られる素材はどれも非常に高値で取引される。


「このタイプのファンタズマは見たことないし……街で売り捌けば軽く150万エルズにはなるわね。数ヶ月はのんびり暮らせるわよ」

『数ヶ月!? この化け物一匹でか!?』

「そのくらいファンタズマの素材は高く売れるのよ。討伐者ブレイバーはそれに加えてギルドから討伐報酬も出るからもっと稼げるわね」


 エトにとって群れを成す災厄にも等しいファンタズマだが、もし倒すことが出来れば高額な報酬が得られる生きた金脈でもあるのだ。


「ただし肉と内臓は捨てるしかねえんだ。臭くて食い物にならないし、これといって使い道もない。他の動物なら肉が食えなくても死体から魔素マナが抽出出来るんだが……」

『ふむふむ……』

「あー、疲れた! 今日はここまで! 続きは明日だ!!」


 クロニカはボロボロになったナイフをポイと捨て、引き剥がせた素材を採取棺【コレクトフィン】と呼ばれる動物系素材専用の防腐処理が施された特殊な箱に放り込む。


『しかしこの……青い血というのが気になるな』

「ねー、不気味よね。でも滋養強壮の効果があるのよ。他にも鎮痛薬、肉体強化薬、精神高揚薬……と調整次第で色んな薬に化ける万能素材よ」

「昔から万病に効くとか言われてすげー高値で取引されてるんだ。この瓶に詰めた分だけでも数万エルズの値がつくぞ」

『ふむふむ……そのエルズというのがこの世界の通貨単位なんだね』

「ツーカって何だよ? また知らない言葉使いやがって」

「……通貨くらい覚えなさいよ、クロニカ。お金のことよ」

『それにしても……凄いな、心臓を骨の鎧のようなもので覆っている。骨格は四足獣に近いが……内臓の位置や脳の大きさは人間と良く似ているね。うーん、興味深い!』


 ポンコツは目を光らせながら解体されたファンタズマを興味津々に見つめ、その身体構造を解析して頭の中に記録した。


Thank you for reading!(〃´ω`〃)+

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