「おいおい、マジかよ」
時を同じくしてコーザはテンペランス・パスが停車する臨時中継駅に到着した。
「ファンタズマに襲われたって聞いたんだが……傷一つついてねえじゃねえか」
好奇心から列車を襲うファンタズマ100体討伐の依頼を受けた彼は首を傾げる。
もはや助けは間に合わないだろうと諦観しながら救難信号を辿って来たのだが、なんとテンペランス・パスは健在。乗客達も全員無事で皆が涙ながらに生還を喜びあっていた。
「……もしもし、運転士さん? 一つ聞きたいんだけど本当にファンタズマに追われてたの?」
「はい! 生きた心地がしませんでした! 見間違いだと思って何度か自分を殴ったんですけどね! 見間違いじゃありませんでした!」
「あー、うん。それにしては皆さん元気そうだね?」
ファンタズマに襲われることがどういう事なのか、コーザは嫌という程思い知らされている。
一度でも獲物と見定められれば逃げ切るのは不可能に近い。このテンペランス・パスはサメフからセフィロトまでをたった4時間で走り切るが、相手はそれを更に上回る速さで駆ける怪物だ。狙われて無事で済むはずがない。
それなのにテンペランス・パスには引っ掻き傷一つなく、獲物である乗客達も無傷……もはや奇跡などではなく怪奇だ。
「それで、そのファンタズマ達はどこ行った? まさか振り切ったとか言わないよな?」
「ブレイバーのおねーちゃんがやっつけてくれたの!」
コーザが問題のファンタズマについて運転士から聞こうとすると、小柄な女の子が興奮気味に言った。
「ブレイバーの? お姉ちゃん?」
「そう! 綺麗な金髪でオッパイ大きくて、変な兜を持ったおねーちゃん!」
「こ、こら! 討伐者さんの邪魔をしちゃダメでしょ! すみません、うちの子が……!」
「いやいや、気にしないでくれ。お嬢ちゃん、そのブレイバーのお姉ちゃんがファンタズマをやっつけたって本当?」
「本当だよ! だって、おねーちゃんが飛び出してから、ふぁんたずまは追いかけてこなくなったもん!」
「へー、そうなのかー! すごいね、そのブレイバーのお姉ちゃんは!」
コーザはニコッと笑って貴重な証言をくれた女の子の頭を優しく撫でる。
「ありがとねー、お嬢ちゃん! ほら、お母さんのところに戻りなー」
「うん!」
「……一応聞いておくけど、あの子の話はマジか?」
「自分は見ていませんが、確かにファンタズマ達の襲撃は急に途絶えました!」
「そうそう! 金髪の子だよ!」
「確かに変な兜持ってたな……」
「ファンタズマだけじゃなくて妙なバイクも追ってきててさ! 女の子はそのバイクに飛び乗ってファンタズマ達に突っ込んで行ったんだよ!」
「可愛い女の子なのにとても勇敢だったわ……あの子は無事なのかしら」
女の子に続いて乗客達が【討伐者の少女】について話し出す。
彼らは恩人である少女に心から感謝し、彼女の無事を祈っていた。
「……成程ね、わかった。今からその子の様子を見てくる。何処に向かったかわかる奴はいるか?」
「あっちー!」
「遠くに見えるあの森の方だ! この線路を辿っていけば」
「ファンタズマの足跡が沢山あるから、それでわかると思うわ!」
「ありがとうよ、それじゃ俺はこれで。もうすぐ此処に討伐者ギルドから救援が送られて来るから、それまで大人しく待ってな」
「もしその子が無事だったら、私達の代わりにお礼を言ってきておくれ!」
「ははは、任せな!」
コーザは乗客達に手を振り、ギルドから貸し出された移動用高速駆動機に跨って勢いよく走り出す。
「……はっはっ、はっはっは! マジかよ! マジで守りきったのかよ! スゲーな、おい!!」
荒野に設けられた線路の横を走りながらコーザは思わず笑い出す。
「ははは、やっぱりクロニカちゃんは最高だな! 益々惚れちまったよー!!」
最初から見当はついていたが、乗客の証言から少女の正体を確信する。
そもそもこの依頼を受けたのも【ファンタズマ100体を一人で相手取る命知らず】の正体を確かめる為であり、テンペランス・パスと乗客達はどうでもよかったのだ。
「少しは怪我してたり疲れてたりしてないかなー! もしそうだったら俺が手厚く看病してやるぜー! クーロニーカちゃーん! はっはっはー!!」
コーザは上機嫌に駆動機のスピードを上げる。
ドンドン高鳴なる胸の鼓動に突き動かされながら、愛しのクロニカを目指して荒野を疾走した。
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