悠久のクロノス

~神に見放された無能のオレが、白いポンコツや灰色の相棒と世界を旅するだけのお話~
ヨシコ
ヨシコ

ACT.33

公開日時: 2020年10月28日(水) 00:08
更新日時: 2020年11月17日(火) 19:24
文字数:2,153

「うわぁぁぁぁーっ!」

「逃げろぉぉーっ!」

「ひぃいいっ!」


 アクリ村の人々が悲鳴を上げながら逃げていく。レントに村人の避難を任されたコーザはサラマンダーを片手に彼らを誘導していく。


「ほらほら、こっちだ! 早く逃げろ! 化け物は旦那が相手してくれてる!!」

「ひぃ、ひぃいっ!」

「急いで逃げろー! はい、急いでー!!」


 相棒であるレントの頼みとはいえコーザは内心うんざりしていた。



(うーん、面倒臭えなぁ……。ここら辺で切り上げて旦那の加勢に行くかぁ)



 村人の身を案じるレントとは対照的にコーザは彼らの事など案じていないのだ。



(それにあのファンタズマは何でこんな村を狙って来やがったんだ? 何もねぇだろ、この村には……)



 そしてコーザはその点が気になっていた。先程も似たような疑問を抱いたが、確証が得られなかったあの時と違って実際に村が襲撃を受けている。この村にはファンタズマが狙うがあるのだ。


「……」

「はぁ、はぁ……! コーザさん!!」

「おっ、クロニカちゃん! 良かった、君は無事だったかー……心配したんだよ!!」

「……どうも!!」


 クロニカがやって来た途端にコーザは表情を変える。


「もう皆、村を出たぜ! 君も早く逃げな!!」

「あ、あいつらも逃げましたか!? 孤児院の皆も……」

「え? 孤児院?」


 コーザは首を傾げた。


「い、いや……あの孤児院の子供とシスターですよ。もう村の外に」

「あー、あの子達か! 多分、逃げたと思うよ! 俺は見てないけど」

「……は?」


 コーザの言葉にクロニカは目の色を変える。


『……君は孤児達を置いてきたのか?』

「ん? あれ、今……」

「アンタ、アイツらを置いてきたのかよ!? 声くらいかけなかったのか!?」

「いや、こっちはこっちで手一杯だったからよ。旦那に呼ばれて外に出たら皆が騒いでて……いきなりファンタズマが目の前に現れたもんだから急いで武器取りに行ってたんだよ」

「……くっっそ!!」

「お、おい! 何処行くんだよ!? 君が行くのはそっちじゃねえって!!」


 クロニカは急ぎ孤児院に戻ろうとするが、コーザに肩を掴まれて引き止められる。


「……」

「わかった、孤児院の子たちは俺が連れ戻す。だからクロニカちゃんは先に逃げて」

「……おい、放せよ」

「えっ」

「その手を放せって……言ってんだよ!!」


 クロニカの鬼気迫る顔を見てコーザは思わず手を放す。クロニカは振り向きもせずに孤児院へと走っていく。


「……何だよ、俺が何か悪いことしたか?」


 コーザは不服そうに両手を組み、走り去っていくクロニカの背中を眺めていた。



「くそっ、くそっ! あのクソヤローめ! ふざけんなよ!!」

『いや、彼を責めるのは酷だ。いきなり目の前にあんな化け物が現れたのだから、まずは武器と身の安全を確保しようとするのは当然だろう……村人を避難させてくれただけでも立派だよ』

「何だよ! ポンコツはアイツを」

『それはそれとして気に入らないがね』


 ポンコツは目を細めながらふんすと吐き捨てるように言う。


『あの男はレントの指示が無ければ村人なんて放っていたと思うよ。彼と違って人を助けるような目をしてない』

「……」

『……あれ、何か変なこと言ったかな?』

「はっ! お前、意外と人を見る目あるんだな! オレなんかを選んだからその目は節穴かと思ってたよ!」

『ひ、酷いな!?』



◇◇◇◇



《ヴァアアアアアアアアアアアアアッ!》

「シ、シスターッ! 怖いよぉっ!!」

「シーッ! ミーナ、静かに!」

「大丈夫、大丈夫です。白き神デウスが皆を守ってくれますからね……」


 白き神デウスを祀る礼拝堂でミーナ達とレイコはシスター・ソロネと共に身を潜めていた。


「く、くそぅっ! お前がお腹痛いとか言ってトイレに篭るから……!!」

「し、仕方ないだろぉ!? 本当に腹が痛かったんだから……!!」

「こんな時に喧嘩しないで!」


 ガギィィイイインッ!!


「きゃあああああっ!」


 突然の腹痛でトイレから出られなくなったポークを待っている間に皆は逃げ遅れてしまった。

 

 逃げ出そうにも建物のすぐ外でレントとファンタズマが戦闘しており下手に逃げ出すほうが危険だ。その上、聞こえてくる咆哮と斬り結ぶ残響音は容赦なく孤児達の心を怯えさせる。


「うぇぇぇぇぇん!」

「いい加減に泣きやめよ、ミーナ! 泣き声でバレちゃうよ!!」

「クロニカお姉ちゃぁぁーん!!」

「シーッ! シーッ! もうちょっと我慢して! もうすぐあの人が化け物をやっつけてくれるから……!!」


 その時、礼拝堂の壁を突き破って黒く大きな影が現れる。


「きゃああああああっ!?」

〈ヴルルルルルル……〉


 ……礼拝堂に現れたのは、血の滴る左腕を咥えた黒き獣だった。


〈ヴァアアアアアアアアッ!!〉

「……冗談でしょっ!?」


 咥えた腕を放り投げてファンタズマは咆哮する。恐怖に怯える孤児達を鋭い眼光で睨みつけ、ファンタズマはジリジリと近づいてくる。


「きゃあああああっ!」

「そ、そんな!? まさか討伐者ブレイバーが負けちゃったのか!?」

「うわああああああっ!」

「あー、もう! シスター! ちょっと皆をお願い! 私が時間を稼ぐから全力で逃げて!!」

「……」


 レイコは懐から拳銃を取り出して時間を稼ごうとするが、そっとシスター・ソロネに止められる。


「レイコさん、その子達をお願いします」

「……えっ?」


 シスター・ソロネはそう言って優しげに笑うと、ファンタズマの前に立ち塞がった。

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