「……」
『……え、ええと』
「はっ、冗談だよ! あんまり気にすんな、ポンコツ!」
言い淀むポンコツの頭をグシグシと撫でてクロニカは街を歩く。
『す、すまない……』
「ポンコツの世界には居なかったのか? ああいう奴らは」
『……うん。だから少し、驚いちゃってさ……』
「獣人で驚いてたらこの先大変だぞ? まだまだすげーのは沢山居るんだからさ」
そう言って笑うクロニカの顔を見てポンコツは何故か既視感を覚えた。
(……あれ? おかしいな)
(僕は、この笑顔をよく知っているような……)
クロニカと出会ったのはほんの数日前。だが、ポンコツは彼の顔にどこか見覚えがあるように感じていた。
(……)
その既視感の正体を確かめようとポンコツは記憶の糸を手繰り寄せるが、ノイズが激しくなるだけで何も思い出せない。
『……くっ』
「? どうかしたか?」
『いや、君を見てると何か思い出しそうになったんだが……駄目だった』
「何でだよ? ポンコツとはこの前に会ったばかりだぞ?」
『そうなんだけど……うむむむ』
「ひょっとしてオレとそっくりな奴が大昔に居たとか?」
『……あっ』
クロニカの一言でポンコツは夢に現れた【金髪の少女】を思い出す。
金糸のように煌めく髪、涙に濡れた翡翠色の瞳、そして大きな胸……彼女の姿は正しく今のクロニカと瓜二つだった。
『……ッ』
「? 何だよ?」
『あ、いや……何でもない』
無関係で済ませるにはあまりにも酷似している二人。もしかするとクロニカは彼女の遠い子孫なのかもしれない。
「んー?」
『な、何でもないって! ちょっと、顔が近いよ!』
「本当か? オレに何か隠してないか?」
『隠してないよ!』
「んんー?」
クロニカはポンコツの反応を訝しんで彼の瞳をジッと見つめる。
『何でもないから! ほら、早くセフィロトに向かおう! レイコの事も心配だし!!』
「ん、そうだな。えーと、この街の駅は……」
『あれじゃないか? あの大きな建物』
ポンコツは様々な商店が並ぶ大通りの向こうに見える大きな建物を指差す。
「確かにエトが沢山出入りしてるし、あれがサメフの駅みたいだな」
『そう言えばこの世界にも【駅】や【列車】があるんだね。飛翔船やバイクと言い、移動手段は僕の世界と変わらないくらい充実してそうだ』
「まぁ、列車はセフィロトに近い所しか通ってないけどな……む?」
ふとざわめき声が気になったクロニカが周囲を見回すと、通行人達の視線がこちらに集中していた。
「……何だアレ」
「魔動機……かしら? 喋る魔動機なんてあるのね」
「かーちゃん! アレ欲しいー!」
「うふふ、とーちゃんの安月給じゃ買えないよぉ」
サメフに到着してから自然に会話しながら歩いていたが、やはり此処でもポンコツは人目を惹いてしまうようで大勢のエトが興味津々に彼を見つめている。
「……人前じゃあんまり話さないほうがいいな」
『……そうだね』
周囲の視線から逃げるように、クロニカは急ぎ足で駅へと向かった……
《聖都セフィロトへの直通列車【テンペランス・パス】はあと20分で発車致します。ご利用の方は乗車券と切符をお買い上げの上、1番ゲートへ向かってください》
「おおー、近くで見ると益々大きく見えるな。でっけー」
『本当だね。東京駅と同じくらいの大きさだ』
サメフ駅の大きさにクロニカは目を輝かせる。
「おっと、のんびり建物見てる場合じゃないな。さっさと切符と券を買わねーと」
乗車券と切符を買うべく駅に入って売り場を探す。すると建物内でポンコツが不思議なものを発見した。
『……クロニカ、アレは何だい?』
「ん?」
『あの人が入ったカプセルのような……』
「ああ、アレか。アレは天使棺【アルマ・ロス】っていう魔動機関の一つだ」
クロニカはポンコツが見つけた天使棺と呼ばれる大きなカプセル状の器物に近づく。
天使棺に満たされた液体の中には真っ白な全裸のエトに似た物体が浮かび、背中に設けられた接続部に無数のコードが繋がれている。
『これは……エトなのか?』
「いや、コイツは天使【アルマ】。エトに良く似てるけど魔素の集合体で、たまにセフィロトの大樹から採取されるんだ」
『……どうしてこの中に?』
「この天使棺で天使から魔素を抽出して色んなエネルギーに変換するんだ。田舎の村や街にはあまり置いてないが、ここみたいに大きな街にはよく置いてるよ。これ一つでこの駅と周辺の建物の電気やガスを全て賄えるとんでもない代物なんだぜ」
『凄いな……それにしても本当に人間、いやエトとそっくりだ。今にも動き出しそうだよ』
「学者さんによるとオレたちとよく似てるけど身体の造りは植物に近くて、内蔵や骨は無いらしい」
『へぇ……』
ポンコツは天使棺の中で眠る天使を興味深く観察する。
クロニカの言う通り天使の内部に内蔵や骨格らしきものは見当たらず、その生体反応もエトに比べて微弱だ。しかし天使を注視しているとセフィロトの大樹と同じように文字化けした警告が浮かび上がり、あまり詳細な情報は得られなかった。
『……』
「おいおい、こんなの見てても気分のいいもんじゃないぞ? いくら女の姿をしてるからってさ」
『えっ、あっ! 違うよ! 本当に凄い代物だなって……』
その時だった。
クロニカにからかわれ、慌てて弁解しようとした瞬間に天使の目が大きく見開かれる。
『えっ?』
天使は金色の目をギョロリと動かし、しっかりとポンコツの方を見た。
「お? どうした、ポンコツ?」
『今、天使が……』
「へ?」
ポンコツの言葉が気になってクロニカは確認するが、彼が見た時には天使の瞳は再び固く閉ざされていた。
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