モテるヒロインは辛いよ。
「ぐぬぅぅっ! 何処だ……一体、何処にいやがるんだぁ……!!」
ギーメルの街にある酒場。バギーは空になった大ジョッキを思い切りテーブルに叩きつけて粉砕する。
「ぬぅううううう……!」
「お、落ち着いてください、兄貴!!」
「何で見つけられねえんだ! 探索者だったら顔や個人情報を登録してる筈だろ!? それなのにどうして見つからねえ!!」
「だ、だから探索者じゃないんじゃ……」
「じゃあ何であんな場所に居たぁ!? 探索者でもなけりゃ遺跡の中に入ろうなんて思わねえだろぉ!? そこの奴ゥ、ウォッカールの大ジョッキお代わりぃー!!」
砕けたジョッキの持ち手を放り投げて6杯目の大ジョッキを注文する。目当ての女が見つけられずに昼間から酒を煽るバギーを腹心のボブは呆れた様子で見つめていた。
「……ねぇ、兄貴。もうあの女の事なんて忘れて」
「あぁん!? 何だと、コラァ!? お前達の姉貴になる女だぞ!?」
「そ、そう言われても見つけようがねえじゃないですか! 金髪で背が低くて乳がデカイって事しかわかってないのにどうやって見つけりゃいいんです!?」
「うるせぇ! あの顔と乳はしっかりと目に焼き付いてるだろぉ!? なら、それを目印にして探しまくれば良いんだよぉ!!」
「いや無理ですよぉ!?」
先日、とある遺跡で遭遇した全裸の金髪女に一目惚れしてからバギーはずっとこの調子だ。
彼の手下達は僅かな手掛かりを頼りに素性も知れぬ女の捜索に追いやられている。流石のボブも出会ったばかりの女に心奪われて乱心するボスに頭を抱えた。
「ぐそぉぉ、何処に居るんだ俺のエリザベスゥゥゥー!!」
「……多分、そいつの名前はエリザベスじゃねーですよ」
「うるせぇ、エリザベスなんだよ! 違っても後で名前をエリザベスにすれば問題ないだろぉ!?」
「はー……」
「おまたせしました。ウォッカールの大ジョッキでございます」
「くそおおおおー! 俺は諦めねぇぞぉおおーっ! エリザベスゥゥゥウーッ!!」
テーブルに運ばれたウォッカールをグビグビと一気飲みし、バギーは未だ見つからぬエリザベスへの愛を叫んだ。
「あー……昼間からうるせーなぁ。燃やしちまおうかなー」
少し離れたテーブル席で昼食を取っていたコーザはライターをカチカチと鳴らす。
「なぁ、店員さん。あの馬鹿はいつもああなのか?」
「ええまぁ……今朝からですね」
「はー、大変だねぇ。そうだ、俺がアイツを静かにさせてやろうか? ちょっと店が焦げ臭くなるけどさ」
「え、ええと……その、出来れば荒事はご遠慮願います……」
◇◇◇◇
「ぶえっっくしょい!」
目的の遺跡の前でクロニカはまた大きなくしゃみをする。
「うー……」
『だ、大丈夫か? ひょっとして風邪でも引いたんじゃ』
「かもしれねえな。そりゃ一日で二回も肌寒い中で裸にされたらなぁー?」
『う……ご、ごめん』
クロニカは意地悪そうな顔でポンコツの頭をベシベシと叩く。
『ちょっと、そこに居ると危ないわよ。今からガルーダを降ろすから退きなさい』
「あいよ、そっと降ろしてくれよ。頼むぞー」
クロニカの頭上で滞空するアカツキの後部ハッチからガルーダが投下される。空中に出た途端にガルーダに括り付けられた浮遊球が勢いよく開き、大型の多輪駆動機がゆっくりと地面に降りてくる。
『おおー、凄いな。パラシュートみたいなものかな』
「あれは浮遊球っていうレイコの発明品だ。空から大きな物を降ろしたり、いざと言うと時に船から飛び降りる時に使う道具だな」
『つまりはパラシュートだね。本当に彼女は色んなものが作れるんだな』
地面に降りたガルーダにクロニカは駆け寄る。
「よし、ちゃんと地面に着いたぞ」
『それじゃ、ガルーダのお腹辺りに着いてるスイッチを押して』
「ん、これか?」
ガションッ!
レイコの指示通りにスイッチを押すと、ガルーダの腹部に取り付けられたパーツから8本の機械アームが飛び出す。
「うおおおっ!? 何じゃこりゃあああああ!?」
『ふふん、驚いた? それはねー』
「お前ーっ! オレのガルーダになんてもん着けてやがるんだ! 悪趣味にも程があるぞこれえええーっ!!」
ガション、ガショッ
『こ、この足、勝手に動くぞ!?』
「うえええっ!?」
まるで虫のようにワキワキと動き、倒れたボディを起き上がらせる機械アームにクロニカは凄まじい嫌悪感を抱く。
「やだあああっ! オレのガルーダがああああっ!!」
『最後まで聞きなさいよ! それは大型貨物運搬用移動脚【タランテラ】って言ってね! ガルーダくらいなら軽々と運んじゃう凄い子なのよ!』
「き、気持ち悪いよ、これぇ! もう少しマシな見た目には出来なかったのかよ!?」
『ああん!? 何言ってんの、可愛いでしょおー!?』
ガション、ガション、ガショ、ガショッ
「いやあああああああああっ!?」
巨大な機械の蜘蛛のようにガサガサと動き回るガルーダ。
変わり果てた相棒の姿にクロニカは本気でショックを受け、ポンコツを抱きしめて女のように泣き喚いた。
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