「何だ、これだけか」
黒髪の男はイーサンのバッグに入っていた籠手を見て少々落胆する。
「おい! 盗人の分際で偉そうに……むおっ!!」
「ん、何だって?」
「何も言ってない! ほら、それはお前たちにくれてやる! 持っていけ!!」
イーサンの口を塞いでケイトは叫ぶ。イーサンは彼女と比べると直情的で状況判断能力にやや乏しい。相棒のケイトが居なければとっくに死んでしまっているだろう。
「それとも私達の身包みまで剥いでいくつもりか!?」
「……ふん、行くぞ。お前ら」
「あいよ、リーダー」
「いいんですかい? このまま見逃して」
「なんだ、あの女の裸に興味があるのか? なら好きにしろ、俺達は先に帰るぞ」
「ち、違いますよ!」
「冗談だ、本気にするなタンク」
黒髪の男が率いる集団は駆動機に跨ってその場を後にする。
リーダーが乗る黒い大型駆動機に刻まれた【赤い狼】のエンブレムがイーサン達を挑発するように怪しく光り、彼らの目に強烈に焼き付いた。
「……くそっ! あいつら! いつか見てやがれ……っだだだっ!!」
「動くな、バカ。脚が撃たれているんだぞ」
「畜生めっ!」
イーサンの傷に消毒液をかけて包帯で縛って止血し、ケイトは砂を払いながら立ち上がる。
「赤いオオカミのエンブレム……あれが噂の【砂漠の狼】か」
「知ってるのか、ケイト?」
「ギルドでもよく話題になってる連中だ。遺跡荒らしよりも質の悪い砂地の野党共……こんな所にまで出てくるとはな」
遠ざかっていく狼の群れを睨みながらケイトは吐き捨てるよう言った……
「それにしても変わった形のバックラーだな」
拠点に戻った黒髪の男はイーサンから奪った聖異物を眺めていた。
「防具としては使えそうに無いですね、それ」
「サイズも俺の腕がギリギリ入るくらいだしな。大昔の趣向品か何かだろう」
「でもアイツらが持ってた魔動機はいいもんですよ、リーダー! これは高く売れますぜ!」
手下達は今日の収穫を見せあって盛り上がる。
イーサンの他にも探索者や砂漠を渡っていた商人が彼らの襲撃を受けていたようで、かなりの聖異物と装備が集まっていた。
この【砂漠の狼】は総勢50人にも及ぶメンバーで構成される盗賊であり、遺跡荒らしとはまた別の強奪者【バーグラー】と呼ばれる勢力に分類されている。メンバーも宿す権能によって細かく役割を分担されており、その危険度と影響力は探索者達にとっても脅威になりつつあった。
「夜が明けたら売り捌きに行くぞ。これ以上増えても置き場に困る」
「アイサー!」
「へへへっ、明日が楽しみだなぁー!」
「でもよ、ジョン。これ全部売っちまうのかい?」
「使えそうなものは残すさ。それと名前で呼ばずにリーダーと呼べ」
特にリーダーであるジョンは頭が切れる上に眷能を使わずとも非常に高い戦闘力を誇り、探索者ギルドから【要警戒対象】に指定されている。
「お前らァー! 晩飯の時間だぞ、オラァー! さっさと集まれぇー!」
「うおおおおーっす!」
「飯じゃああああー!」
「大収穫と聞いて今夜はご馳走用意したぞ、オラァー! 感謝してがっつきやがれ、ロクデナシ共ぉー!!」
「イェアアアアア!」
恰幅のいい女性が声を張り上げて叫ぶ。
「オラァー! ジョン坊やも来るんだよ! さっさとしな!!」
「……先にお前達で食っててくれ。俺は後でいい」
「あぁん!? 冷めて不味くなっても、知らないよォー!?」
「冷める前に行くさ、アマンダ」
アマンダ達を先に食卓に向かわせてジョンは篭手型の聖異物を清掃する。付着するゴミと汚れを綺麗に取り除き、かつての輝きを取り戻した籠手を興味津々に眺めた。
「……」
ジョンはふと好奇心に駆られて籠手を自分の腕に装着する。黒い籠手は右腕に吸い付くようにピッタリと嵌まり、あまりのフィット感に彼は不思議な感覚を覚えた。
「何だ、これは。まるで……」
『ギギ、ギッ……』
「!?」
『ギイッ……!』
ジョンの右腕に装着された瞬間、籠手が独りでに痙攣して苦しげな呻き声のような音を立てる。
「こ、これは……っ!」
『ギ……ビガッ……ルルルルルゥッ!』
────バシャンッ!
そして黒い籠手の装甲が裂けるように展開し、内部から伸びた細長いコードの先端がジョンの額に突き刺さった。
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