『ぎゃあああああああっ!』
蹴り飛ばされた白い兜は壁にぶち当たる。
『い、いきなり何をするんだっ!?』
「何をするんだってぇぇ!? 見てわかんねーか、コラァァー!!」
『うわぁぁぁぁっ!?』
クロニカは泣きながら大きなスパナで兜に殴りかかろうとする。
「はい、ストーップ! そこまでにしておきな!!」
「うおおおおおっ! 放せ、レイコォオオオーッ! アイツを壊してオレも死ぬぅぅぅー!!」
しかしギリギリでレイコに止められた。
『ど、どうしてそんなに怒っているんだ!? 僕が君に何をした!?』
「何をしただとぉぉぉー!? ふざけんなよ、テメェコラァァー! 見てわからねえかぁぁぁ!?」
『わからないよ!?』
「うぉぁああああああっ!!」
『ひいいっ!?』
レイコに羽交い締めされながらクロニカはバタバタと暴れ回る。どうしてここまで怒っているのか見当もつかない兜は豹変した彼に恐怖し、ガタガタと震え上がった。
「ばぁぁぁぁぁーっ!!」
「えーと、本当にわかんないの? クロニカがここまでキレてる理由」
『え、わ、わかんない……ごめん、許して』
「んー、じゃあコレを見ても?」
レイコはクロニカの作業着を思いっ切り開き、彼の大きなバストを兜に見せつける。
『ホアアアアアアアッ!?』
「だああーっ! 何すんだ、レイコォォーッ!!」
「ほらほら、コレが理由よ。アンタの所為でコイツの身体が女になっちゃったのよ」
『な、何だってぇぇー!?』
白い兜は目を見開いて驚愕した。
『いやいやいや、どうしてそうなった!?』
「オレが知りたいわ、ボケェェェーッ! っていうかいい加減に放せよ、レイコォォーッ!」
「アンタがそのスパナでアイツを殴らないならね」
「殴らないから放せ! 放してください! そろそろ恥ずかしくなってきた!!」
レイコはようやくクロニカを開放する。クロニカは急いで胸を隠し、白い兜を恨めしげな目で睨みつけた。
『い、一体、何があったんだ? 君と合体して化け物を倒してあの建物を脱出した所までは覚えているが、そこからの記憶が……』
「そっから酷い目にあったんだよ、ど畜生が!!」
『ま、待ってくれ! 僕にも自分に何が起きたのかわからないんだ! いきなり目の前が真っ赤になって、頭の中が滅茶苦茶に……』
「うるせぇー! オレの身体を元に戻せぇーっ!!」
『わわわわっ!』
クロニカは白い兜に掴みかかって激しく揺さぶる。
「戻せよぉおーっ! オレを男に戻せぇぇーっ!!」
『ど、どどどっ、どうやって!?』
「知るかぁぁーっ! とにかく戻せぇぇーっ!!」
『ぼ、ぼっ、僕に言われてもっ! 僕は君の身体の傷と先天的な異常を治しただけでっ、せ、性別が変わった事についてはサッパリだよっ!!』
「まー、クロニカは元々女っぽい顔してたから大して違和感無かったわねー」
「レイコォオオオー!?」
レイコの何気ない一言がクロニカの心を更に傷つける。
「ふざけんな! オレは男だぞ!? 女っぽいって何だよ!!」
「そのまんまの意味よ」
『と……ところで、君は?』
「あ、自己紹介が遅れたわね。私の名前はレイコ、クロニカの知り合いの技師よ」
「そのまんまって何だよぉぉーっ!?」
「こう見えて魔動機や聖異物に関しては誰よりも詳しいつもりだから。よろしくね」
半泣きで突っかかるクロニカを無視してレイコは淡々と自己紹介する。
『マキナ……? それにアーティファクトとは一体……』
「魔動機って言うのは魔素を動力にして作動する機械の事よ。聖異物は遺跡の中とかに置いてある大昔の遺物の事、アンタもその聖異物に分類されるわね」
『な、なるほど……?』
「ううっ、ううううっ!!」
「ちょっと、いい加減に泣き止みなさいよ。たかが性別が変わっただけじゃないの」
「大問題だよ! お前、オレが女になっても何も感じないっていうのかぁー!?」
「そりゃ、少しは驚いたけど……」
レイコはクロニカの身体をマジマジと見つめる。
「うん、アンタはそっちの方がいい感じよ」
そしてクロニカも滅多に見たこともないような爽やかスマイルで言った。
「何でだあぁぁぁーっ!?」
『いや、流石に少しは気にしてあげてくれないか。君は彼の友人だろ……?』
「うーん、別に友人ってほどじゃないわね。ただの知り合いというか、お得意さんというか」
「ひでえっ!!」
「どっちかと言うと、男のくせに女っぽい顔と名前してるから『何こいつキモい』って思ってたくらいだけど……」
「レイコォォーッ!!?」
『そ、その辺にしてくれないか……僕まで悲しくなってくるよ』
レイコの容赦ない言葉のナイフがクロニカの心をズタズタにしていく。流石に白い兜も彼が居た堪れなくなって苦言を呈する。
「でもー……女になってくれたなら全然オーケーみたいな?」
「うおっ!?」
レイコは怪しげに笑いながらクロニカを抱きしめる。
「抱き心地良いしー、意外といい匂いするしー、うふふふー」
「な、何だよ!? いきなりくっつくなよ!」
「えー、いいじゃないのー。女同士なんだからー」
「オレは男だよぉぉぉ!?」
「今は女でしょー? で、そろそろちゃんとした服に着替えない? 用意してあげるわよ?」
「い、いらねーよ! 女物の服なんて着れるか!!」
女体化してから妙に馴れ馴れしくなったレイコにクロニカは鳥肌を立てて警戒する。
『……あー、その、クロニカ君……でいいのか?』
「クロニカちゃんよ」
「クロニカでいいよ! 『君』も『ちゃん』も付けんな!!」
『そ、そうか、すまない。それじゃクロニカ……一つお願いがあるんだが』
「何だよ!」
『そ、そろそろ放してくれないか……? き、君の胸が当たって……その、前が見えないし、話に集中できない……』
「……ッ! このエロ兜がぁぁーっ!」
『ぎゃああああーっ!!』
クロニカは顔を真赤にしながら白い兜を壁に向かって思い切り投げつけた。
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