「はー……ガルーダを連れていけねえのか」
『確かに列車の中に入れるのは難しそうだね……む?』
「ん? どうした、ポンコツ」
『いや、あそこに大勢の人が集まってるなと思ってね』
宿屋を出たクロニカとポンコツは近くの路地の人集りが気になり、自然と足がそちらへと向かう。
「うわぁ……ひでぇ」
「これって……」
「おい、何かあったのか?」
「え、ああ……この路地でエトが殺されたってよ」
「へぇ?」
「こらこら、お前達! 中を覗こうとするんじゃない! 見て気持ちのいいもんじゃないぞ!」
気になったクロニカは路地の様子を覗こうとするが、大勢のエトと彼らを遮るギルド関係者が邪魔で見れなかった。
『殺人か? 朝から物騒だなぁ』
「うーん、よく見えねえな……」
『いや、殺人現場なんて見ないほうがいいよ。早くセフィロトに向かおう』
「そう言われても、気になっちゃうんだよっ」
クロニカは好奇心に突き動かされて何とか見ようと背伸びしたり、エトを退かせて前に出ようとするがうまくいかない。小柄でそこまで力も強くない今の彼ではその場でピョンピョンと跳ねて奥を覗くくらいしか出来なかった。
「あ、そうだ。ポンコツ、お前って目が良かったよな?」
『えっ?』
「今から上に持ち上げるから奥がどうなってるのか教えてくれね?」
『え、ちょっと! 僕は別にそんなの見たくないって……見たくないってぇぇぇー!!』
必死の訴えも虚しくポンコツはクロニカに持ち上げられる。高性能な彼の眼は薄暗い路地の奥までハッキリと見通せ……
『……』
「どうだ、ポンコツ?」
『ヴォエッ!!』
あまりにも凄惨な光景に今朝食べたばかりの食事を吐き出した。
『オボボボーッ!!』
「ぎゃああああっ! 何吐いてんだよ、お前ぇえええーっ!?」
『あんなの見せられたら誰だって吐いちゃうよぉおおー!!』
「きったねぇぇえー! やだぁぁぁぁーっ!!」
頭上から青く輝く吐瀉物を浴びたクロニカは彼を投げ捨てて泣きながら宿屋に戻る。
『ちょ、ちょっと! 僕を置いていくなよーっ!』
ポンコツはクロニカを必死に追いかける。
「……何だ、アレ?」
「新型の魔動機か?」
「いや、さっき喋ってたような……」
「ていうか、何か吐いてたよな……?」
虫のようにカサカサと走り去る奇妙な姿を目の当たりにしたエト達は殺人事件の事など忘れ、呆然とポンコツを眺めていた……
「あーっ! 朝っぱらから酷い目に遭ったー!!」
『こっちの台詞だよ、クロニカァー!!』
宿屋のシャワー場で汚れを落としながら愚痴るクロニカにポンコツが真っ向から反論する。
『ううっ、なんで朝からあんなの見なくちゃいけないんだぁ! 酷いよ! あんまりだよぉ!!』
「そんなに酷かったのかよ……」
『路地裏一面が血の海になっててその中に男達の死体が転がってて死体を包むビニールみたいな布の隙間から頭の無くなった死体の断面がー!!』
「わ、わかった! わかったから! 悪かった、悪かったって!!」
目から大粒のナミダを流しながら喚くポンコツをクロニカは宥める。
(うーん……流石に俺でもそんな光景はキツイな。ポンコツには悪いことしちゃったなぁ……)
そこまで酷い光景が広がっていたとは思いもしなかった。クロニカは足元に置いたポンコツを持ち上げて、さっきの埋め合わせと彼の身体をゴシゴシと洗う。
『……ところでクロニカ』
「何だ?」
『どうして僕は君とシャワーを浴びているのかな?』
今更ながらポンコツはクロニカに聞いた。
「え? どうしてって、お前も汚れてたし」
『いや、うん。確かに汚れてたけどさ……その、今の君……裸じゃん?』
「そうだな」
『恥ずかしくはないのかぁ!!?』
今度は顔を真赤にしながらポンコツは叫ぶ。
必死に見ないよう意識を逸らしているが今のクロニカは全裸だ。既に何度も彼の裸を見ているが、もう慣れたかと言われればそんなことは決して無い。
「うるせー! 恥ずかしいとかそういうのはもうどっかに行っちまったよ! 大体、オレは男だぞ!? これは男の裸! 男が男に洗われてるだけだろうが!」
『そ、そう言われてもさぁ!!』
少女らしい顔に見合わぬナイスバディに適度に鍛えられた身体。ただ顔が可愛い、胸が大きい、スタイルが良いだけで無くそれら全ての要素が奇跡的なバランスで噛み合った類稀なる美貌。否が応でも意識せざるを得ない魅力的な美少女と化したクロニカにポンコツはドギマギさせられる。
『どうして君は女の子になっちゃったの!?』
「オレが知りてぇよ、バカヤロー!!」
『うううううっ!』
「何で泣いてるんだよ!? 泣きたいのは、オレだぞ!? 何だよ、この乳! 邪魔すぎんだろっ!!」
『こ、こらっ、クロニカ! それ以上、胸を当てるな! 気持ちい……じゃなくて気になるから!!』
「うるさぁーい! こうなったらポンコツがオレの裸に慣れるようにこの乳で洗ってやるよーっ!!」
クロニカはポンコツを掴んで胸を押し当て、スポンジよりも柔らかい駄肉でむにゅむにゅと彼の身体(頭)を優しく洗う。
『びゃあああああっ! だめっ、それは駄目! 駄目だってぇえー!!』
「うるさい、慣れろー! これは男の胸だー! 男の身体なんだよーっ!!」
『や、やめてぇぇぇーっ! いやああああーっ!!』
朝の人気のないシャワー場にポンコツの悲鳴が響き渡った。
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