悠久のクロノス

~神に見放された無能のオレが、白いポンコツや灰色の相棒と世界を旅するだけのお話~
ヨシコ
ヨシコ

ACT.56

公開日時: 2020年11月11日(水) 19:04
更新日時: 2020年12月12日(土) 17:56
文字数:1,725

「……」


 突然の発砲に周囲が静まり返る。

 

 バギーの手下達は唖然と立ち尽くし、頭を撃たれたバギーはぐらりと後ろに倒れる……


「……はっ、効かねえんだよなあ! 弾丸もぉ!」


 と、見せかけてバギーは直ぐに体勢を戻した。

 

 彼は既に眷能ギフトを発動済で、額に張り付いたスラッグ弾がポロリと落ちる。守護者スプリガンの装甲も撃ち抜く弾丸は粘土のように潰れ、その馬鹿げた防御力を鮮烈に物語る。


「だからエリザベスよぉ、そんなの捨ておっ、ごっ、あっ!?」


 だが初弾に続けて2発、3発、、、、クロニカはバギーの顔面にスラッグ弾を命中させる。


(知ってるよ、こんな弾じゃテメーをぶち抜けないくらいな!)


(でも、連続で当てれば傷がつかなくても……衝撃で意識が飛ぶだろ!!)


 クロニカの狙いは射撃による直接的なダメージではなく、顔面に連続で着弾した際に生じる衝撃でバギーを気絶させる事だった。


「オッ……!」


 いくらスラッグ弾でも傷つかない鋼鉄の身体を持っていようと相手はエトであり生き物だ。内部まで鋼鉄のように硬いはずが無い。頭に収まる脳に弾丸をはじき、あの衝撃に耐える程の防御力が宿るわけがないのだ。


(……よし、姿勢が崩れた!)


 狙い通りバギーの顔面こそ無傷だがその両足はぐらつき、視線も大きくブレている。アンダンテの弾が切れ、カキンと乾いた音が響いたのと同時にクロニカは勢いよく走り出す。


「……おっ」

「悪いな、筋肉ゴリラ! 少し眠ってろ!!」


 アンダンテの排莢口エジェクションポート横にストックしていた弾を素早く装填し、バギーの額に銃口を突きつけてゼロ距離から銃弾を放つ。


(……そして、このまま気絶したコイツを盾に……っ!)


 しかし、ここでクロニカに怖気が走る。


「……捕まえたぜ、エリザベス」


 違和感に気づいて後退る前にバギーはクロニカの胸ぐらを掴む。


「なっ!!」

「残念だったな、このバギー様の頭は中身まで丈夫なのよお!」



――――ドゴォッ!



 クロニカの腹部にバギーの拳がめり込む。勿論、彼は手加減をしたつもりだが……


「がっ……ぱあっ!!」


 クロニカは胃液を吐き出し、一瞬で意識を持っていかれてしまった。


『クロニカーッ!!』


 ポンコツはクロニカの名を叫ぶ。しかし既に彼の意識は途切れ、力なくバギーに倒れ込んだ。


「あ、兄貴! 大丈夫ですか!?」

「おうよ、安心しな! ちゃんと手加減して腹を殴ったぜ! エリザベスの可愛い顔は無傷よォ!!」

「いえいえいえいえ! 兄貴の方ですよぉー!?」

「はぁん!? 何言ってんだテメー!」


 心配して駆け寄ってくる赤モヒカンに散々撃たれた額を輝かせてバギーは言う。


「この鉄腕のバギー様があんな豆鉄砲でやられる訳ねぇだろー! がははははははぁっ!!」


 筋骨隆々なボディに宿る怪物じみた防御力とタフネス。守護者スプリガンすら吹っ飛ばすパワー。気に入った物はどんな手を使っても必ず手に入れる執念。そして厳つい顔には不釣り合いな眩しく純粋な瞳と、粗暴さの中に隠れる僅かな優しみ……


(あ、兄貴……カッコイイ……!!)


 これが過酷な世界に心を荒ませた者達を惹き付けるバギーという男の魅力だった。


「よーっし、伸びてる奴を叩き起こせぇー! 街へ帰るぞぉー!」

「アイサーッ!」

「兄貴! アイツはどうしますぅー!?」

「どいつだぁー!?」

「あの転がってる奴ですー!」


 赤モヒカンが冷たい床に鎮座するポンコツを指差す。


『……!!』

「ほっとけ、あんなガラクタ!」

「でもエリザベスちゃんが大事そうに持ってましたし、結構な値打ちもんかも!」

「エリザベスより値打ちのある奴なんていねぇー!」


 気絶したクロニカをギュッと抱きしめてバギーは言う。


「……もしかしたらエリザベスちゃんの大事なものかも!」

「よーし、じゃあ持ってこーい! 急げぇーい!!」

「アイサァー!!」


 赤モヒカンは意気揚々とポンコツに走りよる。


『く、くそっ……触るなっ!』

「おおっ!? 何だ、喋れんのか! すげぇー!」

『うわあああー! 放せぇーっ!』


 必死の抵抗も虚しくポンコツも赤モヒカンに回収され、バギー達は上機嫌に遺跡を後にした……



〈……マス、ター……〉


 遺跡に残されたシルキーはひび割れた青い瞳でバギー達を見つめる。


〈……カミシロ……ユウ、キ……〉


 連れ去られていくポンコツをズームアップし、シルキーはを呟きながら立ち上がった。


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