〈ヴオオオオオオオオッ!〉
〈ヴォウウウッ!〉
〈ヴァルルルルッ!!〉
ファンタズマの群れは脇目も振らずに直進していた。
本来、ファンタズマが狙うのはエト達が多く住む場所。特にセフィロトの大樹付近の街や村を襲撃する。今回のようにエトの気配が少なく、セフィロトの大樹からも距離がある閑散とした平原に群れを成して侵攻するのは稀だ。
しかもこの平原を抜けた先にあるのも人口200人にも満たない小さな村だけ。
〈ヴァルルルルルッ!〉
しかし、ファンタズマは一心不乱にその村を目指す。まるで其処にある何かを狙っているかのように。
ブォォォォォ……ン
群れの先頭を走る一頭が駆動機の走行音を耳にする。
〈ヴァルッ!〉
走行音はドンドン群れに近づいてくる。距離が縮むにつれて走行音とは別の風を切るような音が頭上から聞こえるようになり……
上空からファンタズマ目掛けてミサイルの雨が降り注いだ。
『……全弾命中!』
「よーし、上手く行ったな!」
弾を撃ち尽くしたミサイル・ポッドを切り離し、クロニカはガルーダのスピードを上げる。マフラーから青い光を吐き出しながらガルーダは疾走。回り込むようにしてファンタズマの群れに接近する。
『だが、これでダメージは与えられたのか!?』
「いーや、全然効いてねえだろうな! むしろ怒らせただけだ!!」
『えっ、でも君は上手く行ったと……』
「ああ、上手く行ったよ!」
〈ヴァオオオオオオオオオッ!!〉
爆煙の中からファンタズマ達が飛び出す。並の生物であれば戦闘不能になるミサイルの直撃を受けても全くの無傷で、小さな炎が燻る黒い外皮はその禍々しさを更に増している。
「あいつらの注意をオレに引きつけられたからな!!」
クロニカはアクリ村に向かう方角からファンタズマ達の進路を大きく逸らし、誰も住んでいない平原の廃村に誘導する。
「それじゃあ……頼むぞ、ポンコツ!」
『ポンコツって呼ぶのはやめてくれないか!?』
「じゃあ、名前を教えろよ! 名前なんていうの!?」
『えーと……』
「よし、お前の名前はポンコツな!!」
廃村の広場でガルーダを停め、クロニカはポンコツを手に降り立つ。
〈ヴルルルルルルッ!!〉
向かってくるのは20を越す数のファンタズマ。普通であれば死を覚悟する絶体絶命の危機だ。
『……一つ聞かせてくれ。ここに彼らを誘導したのは何かの作戦か?』
「まさか、オレにそんなの期待しないでくれよ」
クロニカは大きく息を吸ってポンコツを装着した。
『それじゃあ、どうしてここに?』
「うーん、別に? たまたま向かった先に丁度いい場所があっただけだ」
『何だって!?』
「アイツらの注意さえ引ければ、あの村から気を逸らせればそれで良かったんだ」
青い光と共にクロニカの身体を白銀の鎧が覆う。
「……他の事は、特に考えてねぇ!!」
全身を鎧が覆い尽くした時、クロニカの視界に再びあの古代文字が浮かんだ。
― CREATE IN THE NAME OF HUMAN ―
─ FOR OUR CHILDREN ─
─ WAKE UP KRONOS ─
目元を覆うゴーグルに翡翠色の光を灯し、クロニカは変身を完了する。
〈ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!〉
先頭に立つリーダー格のファンタズマが雄叫びを上げる。それを合図に後方のファンタズマ達は一斉にクロニカへと向かっていった。
『く、来るぞ!!』
「一応、聞いておくけど! この鎧に隠された武器とか無い!? 出し惜しみとかしなくていいぞ!!」
『無い! 武器らしいものや攻撃に使えそうな機能は一つも無いよ! 要するに』
「要するに!?」
『この鎧を纏った』
〈ヴァルルルルルルルルッ!!〉
3頭のファンタズマがクロニカに飛びかかる。
『……君自身が武器だ!!』
飛びかかったファンタズマの牙が届く前に、クロニカの強烈なパンチが怪物達を吹き飛ばす。
「なるほど、わかりやすいなっ!!」
クロニカは両足に力を込める。翡翠色のエネルギーラインが脚部装甲に眩く発光しながら集中し、踏みしめた地面が大きく凹む程の膂力を彼に与え……
────ドンッ!!
目にも留まらぬ爆発的な加速でファンタズマの群れに突っ込んだ。
〈ヴァギャアアアアアッ!!〉
〈ヴァグオオオオオッ!!〉
体格では圧倒的に劣る筈のクロニカの体当たりを受け止められずにファンタズマ達は吹き飛ばされていく。
「うおおおおおおおおおっ!!」
クロニカは両拳に力を込め、がむしゃらにファンタズマを殴り飛ばす。
1匹、2匹、3匹、反撃も許さずに次々とパンチを打ち込み、その強靭な黒い外皮を貫いて致命打を与えていく。
「うらぁぁあっ!!」
〈ヴァギャアッ!〉
「……よし! これならっ!!」
6匹目の胸を貫いた時、死角から攻撃を受けてクロニカは吹き飛ばされた。
「うおおっ!」
『大丈夫だ、命中したがダメージは無い!!』
「お、おうっ! やっぱスゲェな! この鎧……ッ」
〈ヴァアアアアアアアアッ!!〉
群れのリーダーであるファンタズマが再び雄叫びを上げる。
〈ヴァオオオオオオオオオオン!〉
〈ヴォオオオオオオオオンッ!!〉
〈ヴォオオオオオオオオオオオッ!〉
〈ヴォオオオオオオオオオオオオ!!〉
すると他のファンタズマもリーダーと同じように咆哮する。
《ヴォオオオオオオオオオオオオオン!!》
「な、何だ!?」
『わからない! これは……』
咆哮するファンタズマ達の外皮がメキメキと音を立てて変形し、内部から青い光がオーラのように漏れ出す。クロニカの視界に注意を促すような黄色いパネルが浮かび上がり、ファンタズマのエネルギー反応を示す数字が一気に増加していく。
『……ファンタズマ達の反応が上昇している!!』
「何!? どういうことだ!?」
『アイツらが強くなってるって事だよ!!』
「はぁっ!?」
《ヴォオオオオオオオオオオオオオオンッ!!》
リーダーの雄叫びで強化されたファンタズマ達は空に咆哮し、更に鋭さを増した爪でクロニカに襲いかかった。
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