「うーし、じゃあエリザベスゥ!」
バギーはニカッと豪快に笑ってクロニカの方を向く。
『……クロニカ、これは流石に変身した方が良さそうだ』
「……仕方ねえな!」
クロニカがポンコツを被って変身しようとした時、鈍い銃声と共に何処からか放たれた電磁ゴム弾がポンコツを弾き飛ばす。
「なっ!?」
『うおおおおっ!?』
ポンコツは地面をワンバウンドし、ゴロゴロと床を転がっていく。
「はぁ!? ど、何処からっ!」
「大丈夫ですか、兄貴ィー!」
「うおおおっ、何だァ!? 何で伸びてんだコイツら!?」
「おーぅ、ようやく来たか! 遅かったじゃねえか!」
バギー達に遅れて残りの手下がやって来る。
『うぐっ、増援だって……!? そんなっ!』
「すんません、兄貴! エリザベスちゃんは見つかりませんでしたァー!!」
「すんません、すんません! 許してください!」
『!?』
彼らはエリザベスの捜索に割かれていた別働隊……というより被害者だ。だがそのお陰で集合が遅れ、シルキーの攻撃に巻き込まれずに済んだのだった。
「あー! もういいんだよ、そんなの! ほら見ろよ!」
「……ッ!!」
「もう見つかったぜ、エリザベスが!!」
バギーはクロニカを抱き寄せて誇らしげにサムズアップした。
「う、うおおおおっ!? マジですかぁ!?」
「どうやって見つけたんですか、兄貴ぃ!?」
「いやー、はっはっ! そりゃあ、あれだよ! 運命よ!」
「キャー! 兄貴カッコイイッ!!」
手下達は腕を振り上げて大喜びする。
エリザベスの捜索から開放されたのも大きいが、何よりも男しかいない汗臭いパーティにあのような美少女が入ってくれる事が嬉しかった。
「んじゃあ、帰るかぁ! 早速エリザベスと」
「ふ、ふざけんな! この筋肉ゴリラッ!」
「おぶぁっ!?」
油断して眷能を解いたバギーの顎に全力のアッパーを叩き込み、クロニカは急いで離れた。
「くそっ! 付き合ってられるかっ!」
「うぉぉぉい、エリザベスゥー!」
「うぎゃあっ!?」
「どこ行くんだよォ?」
だがバギーは少し怯んだだけで大して効いていない。クロニカの腕をガシッと掴み、強引に再び抱き寄せる。
「は、放せコラッ! 気持ち悪いんだよ!」
「やだよぉー。せっかく会えたんだ、もう絶対に放さねえぜぇ? エリザベスゥー!」
「オレはエリザベスじゃねえ! オレの名前は」
「んー、関係ねえよ。俺がエリザベスと呼んだら、お前はもうエリザベスなんだぁ!」
「ふざけんな、このっ……!!」
「おふんっ!」
バギーの抱擁から逃れようと金的を食らわせる。流石に急所への一撃は堪えるらしく、彼は呻きながら蹲った。
「そこまま大人しくにしてろっ!」
クロニカは急いでポンコツを拾い上げ、彼を被って変身しようとするが……
『うぐぐ……っ!』
「!? どうしたポンコツ!?」
『だ、駄目だ! ま、麻痺して変身機能にエラーが……!』
「はぁ!?」
『た、ただのゴム弾じゃない……! これは……っ!!』
ハッとしたクロニカは後から現れた手下達の方を向く。その中の一人が持っている銃を見た瞬間、顔中からドッと汗が溢れ出た。
「……コヨーテBか!!」
あの赤モヒカンが持っているのはクロニカが紛失したコヨーテB。
それは遺跡から発掘された古代銃をクロニカ用に改良したものであり、簡単な調整を施せば他のエトにも扱えてしまう。コヨーテBが撃ち出す電磁弾は高い貫通力に加えて守護者等の古代機械や魔動機の機能を短時間狂わせる効果があり、殺傷力を抑えた対エト用のゴム弾にもその効果を付与させる事ができる。
「お、おい、あのかわいこちゃん俺のこと見てる……!?」
「いや、俺だろ!」
「お、俺じゃないかな!」
……あんなマヌケな連中に愛用の高性能武器が渡ってしまった。そのどうしようもない事実にクロニカは思わず半泣きで歯ぎしりした。
「~っ! く、クソッタレがっ! 何でいつもこう……運が悪いんだよ!!」
『だ、大丈夫だ! な、なな、何とか動け……』
「ぶあーっ、はぁっ! 今のは効いたぜ、エリザベスゥウ!」
バギーは声を震わせながら立ち上がる。
「はっはっはぁ! 惚れ直したぜ、エリザベス! 絶対にお前を手に入れてやる! 絶対に、絶対になぁー!」
「……」
『……!』
不敵に笑いながらバギーはクロニカに近づいてくる。油断を突かれて二度も急所を打たれながらも彼は平然としており、エト離れしたタフネスにクロニカ達も絶句する。
「……やるしかねえな」
『ク、クロニカ……!?』
「なーに、心配すんなポンコツ」
クロニカはポンコツを地面に起き、大きく息を吸ってアンダンテを構える。
「あんな奴、お前の手を借りなくても負けねえよ!」
クロニカがバギーに武器を向けたのを見て後ろの手下達も慌てて武器を構えた。
「あ、兄貴! 危ねえ!!」
「退いてください、さっきみたいに俺が!!」
「手を出すな、お前らぁー!!」
「!?」
だが、バギーは声を張り上げて手下を止める。
「いいな! もし俺の許可無く撃ったら……ブッ殺す!」
「ええええっ!?」
「で、でもぉっ!」
「てめーら、あのエリザベスの姿が見えねえのかぁー!?」
「はっ……!?」
バギーはアンダンテを構えるクロニカを指差す。
「エリザベスは一人だぁ! しかも女だぜ!? あんな背も低くてか弱い女がこのバギー様を前にしてもビビらねえどころか銃を向けてくるんだぞぉ!?」
「だ、だから危ねえですって!」
「グッとくるじゃぁねぇかあーっ!!」
少年のように目を輝かせながらバギーは叫んだ。あまりにも純粋で曇りなき眼と予想外すぎる発言にクロニカは目を丸める。
「そんなグッとくる女を撃つなんて真似はこの俺が許さねぇー! お前らは黙って見てやがれ! これから兄貴がエリザベスを────ぶぉっ!?」
そしてバギーの顔面に何の躊躇もなくアンダンテの弾丸を撃ち込んだ……
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