「卑怯だなどと言ってくれるなよ?」
こびり着いた青い血を振り払って鎧姿の男は呟く。
「……!」
「危ない所だったな、大丈夫か……ぶぉっ!?」
鎧の男はクロニカの裸を見て吹き出した。
「な、なんて格好をしているんだ、お前は!?」
「え、あっ! これはその……!!」
「こ、これで身体を隠せ! 気が散る!!」
背中から伸びるマントをふわりとクロニカに被せ、鎧の男はドギマギしながら背を向けた。
「あ、どうも……」
「全く……何を考えているんだ! 頭でも打ったのか!?」
「……すみません」
〈ヴァルルルルルッ!!〉
「……死にたくなければ俺から離れるなよ、二度は助けんからな!」
剣を構えて男はリーダーのファンタズマと対峙する。男の闘志に呼応するように全身を覆う鎧に赤色のエネルギーラインが走り、装甲がキリキリと音を立てる。
(この鎧……まさか魔動鎧か!?)
男が身に纏う鎧にクロニカは瞠目する。
魔動鎧とは魔動機関と遺跡から齎された古代技術を組み合わせて作られた機械の鎧であり、装着者の魔素に反応して身体能力を向上させる鎧型の魔動機。それを装着した者は短時間であればファンタズマにも迫る力を得られるという。
「ぬおおおっ!!」
一気にファンタズマとの間合いを詰めて鎧の男が一撃。その鋭い斬撃はファンタズマの外皮を切り裂き、青い飛沫が舞う。
〈ヴァルルルッ!〉
鎧の男の斬撃に怯んだファンタズマを再び爆炎が覆う。
「おらおらっ、余所見は禁物だぜ! また燃えちまうぞぉ!!」
続けて2発、3発と赤毛の男は小銃用圧縮炸薬弾を放つ。命中すると同時に弾は爆発し、ファンタズマを灼熱の炎で包み込んだ。
〈ヴァアアアアアアアッ!〉
「うーん、いい匂いだ! 化け物が燃える匂いは最高だな、はっはっ!!」
赤毛の男は燃えるファンタズマを見ながら興奮気味に笑う。
「おい、その辺にしておけ! 俺達まで燃えてしまうだろうが!!」
「あーっと、すまねぇ旦那!」
「……!」
探索者が扱う装備にしては戦闘に特化しすぎている。特に魔動鎧は魔動機の中でも高級品であり、上級探索者であってもおいそれと手が出せない装備だ。
「アンタら……討伐者か?」
「ああ、そうだ。この近くの監視塔から連絡があってな、ギルドから俺達に依頼が入ったんだ」
〈ヴルルルルルゥ……!!〉
炎に巻かれながらファンタズマは此方を睨みつける。
全身を勢いよく震わせて炎をかき消し、息を荒げながらガリガリと地面を掻いた。
「……ん、何だこれは?」
鎧の男は足元に転がるポンコツを拾い上げる。
「あっ、それは……」
「お前の持ち物か? 変わった形のヘルメットだな」
「……っ」
クロニカは複雑な表情でポンコツを受け取る。
〈ヴァルルッ!〉
分が悪いと判断したのか、ファンタズマは恨めしげな唸り声を上げて撤退していった。
「あっ、待ちやがれ! この野郎ー!!」
「よせ、無駄撃ちをするな! あのダメージではどうせ長くは持たん!!」
「ちっ……!」
赤毛の男は舌打ちし、銃口から燻る硝煙を苛立ち混じりに吹き消した。
「……」
「ところで、どうしてお前は一人でこんなところに居たのだ? それも……」
鎧の男はマントに包まるクロニカを見てゴホンと咳払いする。
「そ、そんな格好で」
「え、ええと……その、話せば長くなるんですが」
「う、うむ。まぁ今話す必要はない……だがもう少し女としての自覚をだね」
「うーっす! お疲れさんです、旦那ァ! そっちの子も大丈夫だったかぁ!?」
「なんとか……」
「あぁ!? 何だよ、その格好!? 野盗にでも身包み剥がされたのか!?」
赤毛の男もようやくクロニカの悩ましい姿に気付き、興奮気味な笑みを浮かべた。
「話せば長くなるらしい……そっとしておいてやれ」
「まぁ、生きてりゃ色んな事があるしな! しかし裸で化け物共に囲まれるなんて災難だったなぁ、後で俺が慰めてやろうか!?」
「え、遠慮しておきます」
「遠慮すんなよ!」
「その辺にしておけ」
クロニカが気に入ったのか赤毛の男はグイグイと迫る。鎧の男はクロニカを守るように赤毛の男の前に立ち、フンと威圧するような鼻息を漏らす。
「はっ! ジョーダンだよ、旦那!」
「しかし……この死体は何だ? かなりの数だぞ」
鎧の男は周囲に散らばるファンタズマの死体を不思議がる。
「仲間割れでもしたんじゃねえか?」
「ふむ……ファンタズマが仲間割れを起こしたなど聞いたことがないが」
「動物だってするんだから、化け物もするだろうよ。それにしても随分と派手にやり合ったみたいだなぁ」
赤毛の男は大きな引っ掻き傷と陥没した地面、破壊された建物を見てヒューと口を鳴らす。ファンタズマ同士が互いに殺し合う事例は今まで報告されていないが、かといって絶対に無いとも言い切れない。
「もしそれが本当ならちょっとした発見だ。一応、ギルドに報告しておくか」
「はっ、もしかしたらその可愛子ちゃんが倒したのかもな!!」
「……えっ!」
「おい、冗談はよせ」
「いやいや、実はその子超強いのかもしれないぜ? 裸なのはその巨乳でアイツらを誘惑する為だったとかさ! あっはっは!!」
クロニカを誂うつもりで赤毛の男は言い放つ。
「……」
当たらずといえども遠からず。軽薄に見えて勘が鋭い赤毛の男にクロニカは警戒した。
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