「折っちゃってどうするんですか、ドッガさんーっ!?」
アリィは半泣きでドッガに掴みかかる。
「し、仕方ねえだろ!?」
「仕方なくないっすよぉ!? 開きそうにないなら普通は諦めるでしょぉー!?」
「……帰りましょうか、アックス」
「……そうだな」
アックスは重い溜息をつきながらナイフを取り出して足元の地面を軽く削る。すると銀色の壁面が顔を出し、不機嫌そうな彼の表情を鏡のように映し出す。
「これは……鉄、かしら? 鏡みたいに綺麗だけど」
「……相当硬い素材で出来てるな。これは外から穴を開けるのも無理そうだ」
「ほらぁー! せっかく見つけたのに入れなくなっちゃったじゃないすか! たまには筋肉以外に頭も使ってくださいよ、頭をぉ!!」
「う、うるせぇなー! 悪かったよぉ!!」
「街に戻るぞ、ドッガ。異論はないな? あっても聞かないが」
「あいあい! 俺のせいで無駄足になってすいませんね、アックス兄貴さん先生! ウォッカールで許してくれますかね!?」
「いいや、無駄足という訳でもないさ」
アックスはドッガが持っていた折れた取っ手を取り上げてバッグに詰める。
「? そんなの持ち帰ってどうするんだ?」
「この部品は遺跡の入り口と同じ素材で出来ている。これを持ち帰って解析すれば入り口を壊す手段も見つかるだろう。本当は壁のサンプルも取っておきたいところだが、武器に傷がつきそうだからな」
「……なるほど」
「それに……うまく加工できればいい武器素材になりそうだ」
ドッガの肩をポンと叩いてアックスは歩き出す。
「……」
「さっさと帰るわよ、ドッガ。日が暮れたら大変よ」
「お、おう」
「どうしても残りたいって言うなら残ってくれてもいいすよー?」
「だから悪かったって! そろそろ機嫌直してくれねーかな!?」
「アリィもいい加減にしなさい。この残弾数じゃ遺跡の探索なんて無理なんだから、ドッガが開けても開けられなくても私達は撤退してたわよ」
「うぐっ、で、でもちょっとくらい中を覗きたいじゃないすか! せっかく見つけたんだから!!」
「ふふふ、やっぱりアリィは可愛いわね」
ネチネチとドッガに小言を言うアリィを諭してメイリもアックスに続く。
「うぐぐぐ~っ!」
アリィは顔を真っ赤にしながら駆け足でメイリを追い、ドッガも何とも言えない顔で三人の後を追った。
『……行った、ようだな』
「残念ね、あなた。あの子達が先に開けてくれると思ったのに」
木陰から彼らを観察していたサヨコが変身を解いて姿を表す。
『いや、どの道、彼らではあの扉は開けられない……彼らにはその資格が、ない』
「あら、そうだったの? じゃあすぐに殺しておくべきだったわね」
『……不必要な殺傷は、控えるべきだ』
「ふふふ、ごめんなさい。でも、あの女の子の眼は厄介だから……此処で潰しておきましょうか」
サヨコはクスクスと笑いながらエリニュエスを構える。
『サヨコ、彼女の眼では私達を捉える事は出来ない。現に【全隠密形態】の私達を見つけられなかった……そこまでの脅威にはならない』
「念には念よ。大丈夫、命までは奪わないわ」
『サヨコ』
「……わかったわ。あなたがそこまで言うなら」
エリニュエスに止められ、サヨコは残念そうに剣を収める。
「この下にあなたの友達が眠っているのね?」
『……ああ、微弱だが、反応を掴んだ。彼女はこの下で眠っている』
「ふふふ、それじゃあ……早く起こしてあげましょう」
アリィが見つけた入り口の上にサヨコが立つと、彼女の足元にポウッと緑色の光の筋が走る。緑の光はぐるりと大きな円を描き、音も立てずに地下遺跡の扉を開く。
「ところで、あの大きな人が折った部品は何だったの?」
『……この開扉機能が何らかの理由で機能しなくなった時の為に用意された、非常用サブハンドルだ。あの男は強引に力づくで引こうとしていたが、本来は、右に回してロックを解除してから引っぱるものだ』
「あらあら、別に折っても良かったのね」
『……折らないに越した事は、ないがな』
「ふふふふっ」
サヨコはエリニュエスの柄をそっと撫でた後、遺跡へと続く長い階段を降りていく。ある程度降りた所で扉は静かに閉まり、やわらかな緑色の灯りが階段を照らす。
「あなたはこの遺跡について何か知っているの?」
『……かつて、奴らに対抗できる兵器の研究、開発をしていた施設の一つだ。森に生息している動物は施設を脱走した実験動物や生物兵器が、絶滅せずに野生化したものだろう』
「ということは他にも似たような遺跡があるの?」
『ああ、この広大な森の中に幾つもな。ただし、用があるのは此処だけだ……』
「ふふふ、此処に眠る子の名前は?」
『……』
エリニュエスはサヨコの問いかけに口を紡ぐが、刀身を指でつつーっとなぞられて渋々とその名を打ち明ける。
『……【Artemis】。人であった頃は、エミリア・ホークアイという名の女性だった』
「綺麗な人だったの?」
『……君ほどでは、なかったさ』
「うふふっ」
サヨコはエリニュエスの返事に嬉しそうに笑った。
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