ヒロインだって大変なのよ……
「うーん」
エイライ村長を追い出して自室に戻ったクロニカは神妙な顔で鏡を睨んでいた。
「……ポンコツ、俺のこの姿を見てどう思う?」
『……似合っては、いるんじゃないかな……』
部屋にあった替えの服に着替えてみたものの、メリハリのある身体は慣れ親しんだ普段着を攻めた勝負服に変貌させてしまう。
動きやすい黒地のタンクトップはクロニカのバストラインをくっきりと浮かび上がらせ、大きな胸に引っ張られて臍が見えてしまっている。愛用のズボンはブカブカでサイズが合わないのでレイコの裾なしズボンを借りたが、今度はサイズオーバー気味で彼の肉付きの良い脚にピッチリと食い込む。
「こんな格好じゃ外に出られねえよ!!」
クロニカはガックリと膝をつく。スタイルが良いのは何となく察していたがここまでワガママなものだとは。服装を気にせず気が向いた物をサッと着るだけで良かった元の身体が如何に楽だったか。
「ていうか、この乳邪魔だ! 寝づらいし、肩がこるし、揺れるし、気を抜いたら壁とか家具にぶつけてめちゃくちゃ痛えし! なんだコレ!? シスターは何でこんなもんぶら下げて笑顔でいられんの!?」
『さ、さぁ……』
特にクロニカを悩ませるのがその胸。動く度に一々揺れて行動を阻害してくる忌々しい駄肉を持ち上げて彼は憤慨する。出来ることならこのまま千切ってしまいたい程だった。
「ぐぐぐ、何とかならないのか!? ポンコツ!!」
『え、僕に!?』
「せめてサイズを小さくするとか! こんな胸じゃブレイクルを振れねえよ!!」
『そんなこと言われても……!!』
「あと股がスースーするのが最高に気持ち悪い! 何か知らねえけど気持ち悪い! 何でだ!?」
『知らないよ!!』
「ああー! 何で自分の身体にイライラしなきゃいけねーんだ!?」
かつては『力仕事は男に任せてばかりで女は楽だな』だの『どうせなら女で産まれたほうがまだマシだった』だのと愚痴を漏らしていたがとんでもない。実際に女性になってから初めてわかった女の辛さ。クロニカは浅はかだったかつての自分を大いに恥じた。
『もうレイコに相談したらいいじゃないか。こうして一人で悩むよりは彼女に手伝って貰ったほうが……』
「い、いやだ! また変な服を着せられる! あんな惨めな思いはもうしたくない!!」
『じゃあその格好で聖都に行くのか……?』
「うううっ……、仕方ねえだろ!!」
クロニカはハンガーにかけていた探索者用の丈夫なジャケットを着て何とか胸を隠す。
「よし、服装はもうこんなのでいいだろ! 次は装備だ、装備! 大樹の目の前だから大丈夫だとは思うけど、念には念をな!!」
続いてベッドに広げた数々の装備から持っていくものを選ぶ。使い古された拳銃、銃身が二つ重なったライフル、細長い剣とショットガンが組み合わさったような武器、赤い刀身のナイフ。これらは全て市販品を改造したレイコオリジナルの武器であり、クロニカが扱う事を前提に調整されている。
「うーん、コヨーテBを失くしたのは痛かったなあ。代わりにコイツを……」
『僕が居るんだから別に武器は必要ないんじゃないか? もし何かあっても僕を装着して変身したらいいだろ』
「そういう訳にもいかねえよ。ポンコツの力は強すぎるんだ。ファンタズマ相手ならともかくそれ以外の奴らに使っていいもんじゃねえ」
『……』
「大体、あの姿は目立ちすぎるんだよ」
持っていく装備を幾つか手にとって動作を確認する。選んだのは剣とショットガンの複合武器【アンダンテ】と双銃身ライフル【ツァルロイガ】、護身用の拳銃【グロッグα】だ。
『でも僕は頼りになるよ? 色んな情報をすぐに調べられるし、的確なサポートも出来るし、いざって時は盾代わりにもなるし!』
「そうだな、確かにポンコツはオレが使った道具の中で二番目に頼りになる奴だ。性能だけで判断するならこの先お前だけを持っていけば何も心配ないだろうな」
『だろう?』
「でも、オレはコイツらも持っていく」
『え、何で!? 僕だけ持っていけば心配ないだろ!?』
それでも選んだ武器を持っていこうとするクロニカにポンコツは言う。先日の戦いで自分が超高性能な装備だという自覚が芽生えたのか、わざわざそんな武器を好んで使おうとする彼に疑問を抱かずにはいられなかった。
「凄い力を手に入れただけで何でも出来る気になってるようじゃただのバカだ。どんな凄い力でも、それを扱うのはエトなんだぜ? 中身がバカじゃ宝の持ち腐れだよ。お前が物凄い聖異物だってのは疑いようもねえけど、お前に頼ってばかりじゃいられねえよ」
『……むむう』
「どんな力を手に入れたとしても、エトが神様になれるわけねえんだからな」
アンダンテに大口径スラッグ弾を装填し、クロニカはそう言ってポンコツに笑いかけた。
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