「な、何!?」
「おいおいおい、何だよ! まさかクロニカちゃん、ああいう顔が好みなの!?」
運転していたコーザの視線も思わずクロニカに向く。
「え、いや。別に好みって訳じゃないです……」
「だよね!? ああ、良かったぁ……安心したぁ」
コーザは前に視線を戻し、本気で安心したかのように胸を撫でる。
「いやぁ、顔だけは旦那に勝ってると思ってたからさ……マジで動揺したよ」
「お前……」
「そ、そうなんですね……」
「一応、ランクはどっちもBなんだけどな」
「……Bランク、ですか」
討伐者も探索者と同じく、その実力と功績で階級分けされている。
まず認定の際に登録証と共にFランクの階級を与えられ、一ヶ月経過すると自動的にEに昇格する。そこからファンタズマの討伐、遺跡の探索及び攻略、聖異物の回収等の功績に応じてDランク、そしてCランクへと順に昇格していく。討伐者、及び探索者はDランクからCランク止まりの者が大半で、Bランクにもなると十分に熟練者を名乗っていい。Bランクよりも上のAランクは特に能力に秀でた者しか辿り着けない事実上の最高クラスであり、殆どの者はBランクを目標に活動する。
Aランクより上のSランクという最上階級も存在するが、その領域に到達した者は長い歴史の中でも僅か数人しかおらず半ば伝説の類とされている。
「凄いなぁ」
「はは、ありがとうよ! クロニカちゃんに尊敬されて今日は人生最高の日だね!」
「まぁ……俺はそこまでランクに興味はないがな」
「それでも凄いよ。オレなんて……」
クロニカは羨ましそうに何かを言い出しかけたが、静かに言葉を飲み込んだ。どれだけ二人を羨んでも虚しさが増すだけだ。
「ん、もしかしてクロニカちゃんも討伐者なの? それとも探索者?」
「……いえ、どっちでもないです」
彼はその何方にもなれない無能なのだから。
「どっちでもない?」
「ええと……頭が悪くて認定試験に合格できなくて」
「え、俺でも受かったのに!? 結構簡単な試験だったと思うんだけど……」
討伐者、及び探索者として登録するには認定試験に合格する必要がある。
ファンタズマやエトに害為す敵対生物種の討伐や駆除を主目的とする討伐者の試験は難易度が高めだが、一方で探索者の試験はそこまで難しいものではない。教学に乏しいバギーのような荒くれ者でも合格出来るほどだ。しかし、そのどちらの試験も臨む上で最低限の認定資格というものがある。
「それは残念だったな……。試験は毎年行われているから、今年の反省を生かして来年にまた臨めばいい」
「女は試験に受かりやすいって噂を聞いたんだけどなぁー、やっぱり噂だったかぁ。可哀想に、後で俺が慰めてあげるよ!!」
「……遠慮しときます」
その一つは、受験者が眷能を宿していなければならないという事だ。
ほぼ全てのエトに眷能が宿るこの世界では殆ど形骸化している条件なのだが、それが原因でクロニカは討伐者にも探索者にもなれなかった。他にも落とされる条件はあるのだが、眷能が使えないというのはこの世界を生きる上でそこまで重大な欠点なのだ。
(……俺が無能だなんてバレたら、何されるかわからねえからな)
クロニカは膝上で眠るポンコツをギュッと抱きしめる。この白い兜があれば眷能が宿らず、魔動機も扱えない彼の欠点を補えると思っていたのにこの有様だ。
(……やっぱりこの世界は辛ぇよ。オレはいつまで耐えなきゃいけねえんだ……)
(こんな思いをしてまで生きるくらいなら……)
彼は悔しさと落胆のあまりギリッと歯を噛み締める。
「そう言えばさ、その変なヘルメットみたいなのは何?」
「……ポンコツです」
「ポンコツ?」
「そういう名前なんです。遺s……いえ、家の前で転がってたのを拾ったんですが、あんまり役に立たないんでもう捨てようかなって」
「……捨てるのは少し勿体ない気がするがな」
レントはポンコツを興味津々に見つめる。
今まで目にしたどんな兜やヘルメットとも異なる先鋭的で独自性の高いデザイン。何処かの技術者が気紛れで作ったワンオフ品だと言われればそれまでだが、レントにはポンコツが何か特別な意味のある装備に見えた。
「ふーん……でも、俺はそいつが羨ましいな。クロニカちゃんに抱きしめられるなんてさぁ!」
一方、クロニカに興味津々のコーザとってポンコツは気になる女の膝を独占する生意気なガラクタでしかなかった……
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