『どう? 私の声はちゃんと届いてる?』
「……ああ、ちゃんと届いてるよ」
『遺跡を透明化する機能に周辺の通信電波を妨害する働きがあったみたいだ。今はもうその機能は停止しているから、問題なく通信出来るはずだよ』
『オッケー、それじゃあガルーダを遺跡の中に入れるわね』
クロニカ達の待つ遺跡内部にガルーダが進入する。
「……うーん」
何とか気を取り直したクロニカだったが、やはり今のガルーダの姿が気になって仕方がない。
「せめて脚をタイヤとかに出来なかったのかよ……」
『何でよ、この方が可愛いじゃないの!』
「可愛くねえよぉ!」
『可愛いっての!!』
レイコの美的センスはかなり独特であり、普通の女性なら嫌悪感を示す昆虫や多脚生物的なデザインがお気に入りだ。このタランテラも彼女が可愛いと思う姿になるよう設計され、こうしてガシャガシャと動く姿はとてもキュートに見えているらしい。
『……彼女は虫が好きなのか?』
「いや、本物の虫は嫌いだよ。虫っぽいデザインが好きなだけで……」
『随分と、変わった趣味だね……』
「本当になぁ」
『聞こえてんぞ、コラ! そんなに嫌ならもう動かすのやめんぞ! こっからは自力で運べ!!』
「ああっ! 悪かった、悪かったって! タランテラ可愛いよ!」
タランテラは上空で待機するアカツキからレイコが操縦している。ガルーダの頭部に装着された通信機内蔵高機能カメラで周囲を確認しながら、専用の操縦桿を介して器用に動かしているのだ。
「よし、ポンコツ。その部屋までの道案内を頼む」
『任せろ。まずはこのまま道なりに進んでくれ』
クロニカはポンコツを小脇に抱えて遺跡を進む。
少し後ろからはレイコの操縦するガルーダが着いてきて、遺跡内にガショガショという独特な足音が鳴り響く。
「……しっかし、荒らされてるなあ。オレが来た時はまだ綺麗な状態だったのに」
クロニカは壁や地面がボロボロになった遺跡内部を見てため息をつく。
『ファンタズマとの戦闘もあったしね。遺跡にある防衛機能と排除機能を殆どオンラインにしてアレを倒そうとしたからそのせいだろう』
「それでも倒せなかったんだよな……」
『本当に、恐ろしい相手だったよ』
ポンコツはクロニカとファンタズマから逃げていた時を回想してぶるりと震える。この遺跡の防衛機能はどれも大抵の生き物なら一撃で沈黙する威力があった。その全てを一身に受けても怯まずに猛追してくる怪物の姿は今も鮮明に焼き付いている。
「それを瞬殺したんだぜ、オレ達は」
『……そうだね』
「なー? やっぱりそんな力を軽々と使っちゃいけねーよ。エトなんて一発で肉片だ」
クロニカは持参した武器、アンダンテをポンコツに見せながら諭すように続ける。
「だから、普段使う武器はこういうのでいいんだ。お前は武器というよりは、いざという時の最後の切り札だな」
『……わかったよ、クロニカ。ところで君が持ってきた武器なんだけど……』
ポンコツは渋々と納得し、気分転換にクロニカが持つ武器について聞いてみた。
『その武器は銃と剣の機能が一つになってるんだな。強そうだ』
「まぁ、確かに威力はあるな。銃と剣を持ち替える手間が省けるのも強みだけど……少し使い難いんだよなあ」
『アンタの使い方が悪いのよ! アンダンテの弾は大抵の生き物に風穴開けるし、そのブレードの切れ味は砦に使われてる超硬質化レンガもぶった切るのよ!? アンタには勿体ないくらいの業物でしょ!』
「で、でも使い難いのは使い難いんだよ!」
『ふむふむ……お、この道を右に進んでくれ』
道なりに進んで突き当りに来たところでポンコツは右に進むように指示する。
「? いや、行き止まりだぞ? ここからは左にしか曲がれねえよ」
『壁に小さなマークがあるだろ? それに触れるんだ』
「ん、これか……?」
ポンコツの指示通りに壁のマークに触れる。壁一面に青い光の筋が走り、大きな壁が上下に別れて隠されていた道が現れる。
「おおー……」
『本当に凄い遺跡ね。私も一緒に行けば良かったかしら……』
『よし、このまま真っ直ぐ進めば……』
ここでポンコツは通路の奥に動く何かを見つける。
『待て! 奥に何か居る!!』
「何!?」
『え、何か居るの!? 何にも見えないわよ!?』
通路の奥から小さな駆動音が聞こえてくる。
クロニカはガルーダの上にポンコツを乗せ、静かにアンダンテを構えて暗闇の先を睨んだ。
「……数は?」
『動く反応は一つだ!』
『ど、どうするの!?』
「さぁな、襲ってきたら倒す! それだけだ!」
そして暗闇の中から白い装甲を纏った守護者が姿を現す。
「まだ生き残っていた奴が居たのか!」
『壁が開くまで反応は無かった。恐らく僕たちが此処を開けるまでずっと眠っていたんだろう』
〈……ギ、ギ、ィ……〉
『!? な、何か言ってるわよ!?』
守護者はクロニカ達を暫く見つめ、僅かに軋むような音を立てて頭を下げた。
〈オ……マ、チ……して、おりました〉
「……!?」
『この言葉は……日本語か!』
〈貴方の帰還を、お待ちしておりました〉
白い守護者は流暢な古代語を話し、静かに頭を上げてクロニカに言った。
〈……ご命令を〉
「……へ?」
〈……ご命令を〉
『どうやらこのオートマータは君を御主人様だと思っているみたいだね』
「何だって!?」
〈……ご命令を。マスター〉
出会ったばかりの自分を『御主人様』と呼ぶ白い守護者を前にクロニカは困惑した。
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