悠久のクロノス

~神に見放された無能のオレが、白いポンコツや灰色の相棒と世界を旅するだけのお話~
ヨシコ
ヨシコ

ACT.7

公開日時: 2020年10月20日(火) 00:31
更新日時: 2021年2月26日(金) 20:47
文字数:2,056

「このぉおおおおおーっ!!」


 クロニカの全体重を乗せた錆色の剣先がファンタズマの首筋に突き立てられる。剣先はヒビ割れた鎧のような皮膚を突き抜け、怪物の急所に深々と突き刺さった。


〈ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!〉


 青い血を吹き出し、ファンタズマは絶叫する。


「うおおおおおおおおっ!!」


 苦しげに暴れるファンタズマから振り落とされまいとクロニカは必死にしがみつき、ブレイクルの柄に設けられた引き金トリガーを力いっぱい引く。



────ギャリンッ!!



 ブレイクルの刀身に細かい緑色のレーザー刃が出現、高速で回転しながらファンタズマの首を抉っていく。


「くたばれぇぇぇぇぇえ────っ!!」

〈ヴァギャッ! ヴァギャギャギャギャアアアアア!!〉


 クロニカは顔を青い血で染めながら、更にブレイクルを押し込んだ。


〈ヴァアアアアアアアッ!〉

「うおおおおおおおっ!」

〈ァアアアアアアアアアアアアアッ!!〉


 だが、ファンタズマに身体を激しく揺らされ、ついにクロニカは振り落とされてしまう。


「く、くそっ!」

〈ヴル、ヴルルルルルッ!〉


 首筋にブレイクルを突き立てられてファンタズマは致命傷を負っていたが、その瞳には未だに強烈な殺意と敵意が宿る。


「……!!」


 唯一のチャンスにして絶好の機会、白い兜のサポートに死角から急所に一撃……そこまでしてもこの怪物を仕留めきる事は出来ない。


〈ヴァギャアアアアッ!〉

「この……っ! いい加減にくたばれよ、この化け物が!!」


 それでもクロニカは諦めずにコヨーテBを構え、ファンタズマの頭上にある太いパイプを撃ち抜く。


 撃ち抜かれたパイプから冷却ガスが噴出し、ファンタズマの頭上に降り注いだ。


〈ヴァギャアアアアアアアッ!!〉


 冷却ガスをまともに受け、ファンタズマの身体が凍結していく。


「うおおおおおっ!」


────ドンッ!


〈ヴァギャッ!!〉


 凍っていくファンタズマに向けてクロニカは追い打ちとばかりにコヨーテBを連射。


「くたばれ、くたばれっ!!」


 2発、3発、4発、、、


「くたばれぇぇぇえ────ッ!!!」


 5発、6発、7発、、、


〈ヴァッ、ガッ、ガッ……ッ!!〉


 8発目の電磁弾がファンタズマの額をぶち抜き、ついに黒い獣は地に伏した。


「はぁ、はぁ……ッ! や、やった……!!」


 更に何発か空打ちした後、弾を撃ち尽くしたコヨーテBを捨て、クロニカは力なく壁に寄り掛かる。


「は、はは……っ! やった、やった! やったぞ、畜生ー!!」

『+++! ++++++!!』

「うわあっ! あっ……なんだ、お前か……驚かすなよ!」

『+++++++++!!』

「ああ、わかった! わかった! 下ろしてやるから!!」


 パイプの上で騒ぐ白い兜の声に驚かされながらクロニカは壁を登る。兜の傍まで近づいて再び例のコードを額にプスッと刺した。


《やったな! あの化け物を倒したぞ!!》


「ああ、お前のお陰だよ……マジで助かった。ありがとう」


《しかし、よくあの状況でこんな作戦を思いついたな》


「はっ、作戦なんて大それたもんじゃねーよ。こういうのは唯の悪知恵って言うんだ」



 クロニカがパイプを見て閃いた起死回生の策とは、『囮を用意して頭上から奇襲する』という単純なものだ。


 まずこの遺跡の機能の一つであるデコイパラライザーで相手の動きを止める。


 運良く囮役に最適な機能が見つかったが、もしもこれが無かった場合は白い兜が囮になっていた。


 次に死角である頭上からの奇襲。


 これは殆ど博打に等しいものだった。大前提としてこのブレイクルの刃が通る状態までファンタズマが弱っている必要があり、もしもファンタズマが無傷であった場合は潔く諦めるしかなかった。奇襲が躱された場合も同様だ、素直に餌になるしか無い。


 最後の一手は、奇襲が成功しても殺しきれなかった場合の最終手段だ。


 このパイプの中を通っているのが『何でも良いからファンタズマの動きを阻害するもの』でなければそれで終了。今回は遺跡内を冷やす冷却ガスであったので命拾いしたが、もしもパイプの中が空だったならクロニカは死んでいただろう……



「あー……、本当に。寿命が縮んだよ……」


 死闘を制したクロニカはホッと一息つく。


「んじゃ、帰るか……っておっ、おっ! 危ねえっ!!」


《き、気をつけろよ! 僕も一緒に落ちるだろ!?》


 ふいに力が抜けてパイプから落ちそうになったが、気合で体勢を整える。


「よ、よし。帰るぞ! ていうか……このコードないとお前の言葉わからねえのは何とかならない? 凄い恥ずかしいんだけど」


《言うなよ、僕だって恥ずかしいんだ》


「仕方ねえな、帰ったらオレが言葉を教えてや」



────ドスッ



 クロニカが白い兜を抱いて地面に降りようとした時、彼の背中に鋭い衝撃が走った。


 それから少し遅れて、周囲にが舞う。飛沫は白い兜の表面を赤く染め、あまりの出来事に彼の青い瞳は大きく見開かれた。


「……あ?」


《……は?》


「……何だ、これ?」


《……お、おい。君っ、胸から……!!》


 自分の身に何が起きたのか理解できないクロニカは、胸から突き出す血に染まった刃を困惑しながら見つめるしかなかった……


もう一回戦えるドン!

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