「……は? 迎えに来いって? 嫌よ、ガルーダがあるんだから走ってきなさい」
クロニカの通信にレイコは青筋を立てながら言った。
『はぁ!? おい、ちょっと待てよ!』
「私は店の準備に忙しいから、アンタに構ってる暇はないのよ。じゃあね」
『ま、待て待て待て! 店の準備って、お前今どこに居るんだよ!?』
「アンタのご要望通り近くの街よ」
レイコは不機嫌そうにクロニカとの通話を切る。
彼女が居るのは荒野の遺跡から最も近い場所にあるコフの街。遺跡との距離は150フォート程で、アカツキならば20分足らずで迎えに行ける。
「ふん」
だが、バギー達を一方的に押し付けておきながらお礼の一つも無く『迎えに来てくれ』と言うクロニカの態度が気に入らなかった。お礼を言っても今の彼女が迎えに行ったかどうかは怪しいところだが……
「……」
『……迎えに来てくれそうかい?』
「望み薄だな……」
クロニカは重い溜息を吐きながらガルーダに倒れ込む。
「……ポンコツ、ここから一番近い街って何処だ?」
『えーと……西に150㎞ほど進んだ所に大勢の人の反応がある。多分、そこだね』
「150……きろめーと?」
『約150フォートだ』
「はぁ……確かに、近いな畜生ーっ!」
クロニカは苛立ちながらガルーダを走らせる。
「アイツを怒らせるようなことしたかなぁー!?」
『うーん……まぁ、したんじゃないかな?』
「うぐぐぐぅ……!」
『……彼女に謝って迎えに来てもらえばいいんじゃないかな』
「う、うるせー! こうなったら意地でもガルーダで行ってやるぅ! 覚えてろよ、レイコォー!!」
けたたましいエンジン音を響かせ、クロニカは荒野を駆け抜けていった。
◇◇◇◇
「おいおい……コイツは」
「すげぇ! はっはっ、これはすげえぞ!!」
クロニカ達から遠く離れた砂漠地帯にある遺跡。劣化の激しい遺跡の深部で二人組の探索者があるものを発見する。
「間違いなく当たりだろ、これは!」
細身の男性探索者が砂埃を払いながらあるものを持ち上げる。
それは黒い鉄製の籠手。軽いが非常に堅牢な素材で出来ており、流通している防具とは趣を異する流麗なデザインは彼らを魅了する。
「大昔の防具だろうか?」
「芸術品かもしれねーな。ほら、大昔の王様が職人造らせた一点物とか」
「ふむ……それにしても変わったデザインだな」
細身の男の相棒らしき長髪の女性が発見した聖異物を興味深く観察する。
「探せば他の防具も見つかるかな? 兜とか、鎧とかさ」
「いや、偵察球によると此処が最深部だ。途中にそれらしい部屋も無かった」
「まぁ、これだけでも結構な稼ぎになるだろ。引き上げようぜ」
細身の男は籠手をバッグに詰めて長髪の女性と遺跡を出る。
この遺跡は劣化が激しく、防衛機能は殆ど死んでいた。最深部に向かう途中で数体の守護者と遭遇したが長年整備もされずに砂塵に晒されたせいか動きが鈍い上に装甲も脆く、二人に呆気なく破壊された。
「日が沈む前にさっさと近くの街に……ッ!?」
「俺の為に荷物運びご苦労だった。もうそこに置いていいぞ」
二人の探索者が遺跡を出ると、外では8人の武装した者達が待ち伏せしていた。
「なっ!? 何だ、お前ら!?」
「見ての通り盗賊だよ、探索者殿。蜂の巣にされたくなけりゃ荷物を渡せ」
リーダーらしき黒髪の男が挑発的な態度で言う。
「ふざけるなっ!!」
細身の男はすぐに腰のホルスターから拳銃型魔動機を出して応戦しようとしたが、銃弾を放つ前に脚を撃ち抜かれてしまう。
「ぐああああっ!」
「イーサン!」
「次は蜂の巣にするぞ? いいから荷物を渡せ。俺は優しいが甘くはないんだ」
黒髪の男は苦しむイーサンに冷たい視線を向けて言う。
手下の男達は全員がトリガーに指をかけており、もしもまだ抵抗を意思を見せるなら宣言どおり二人を蜂の巣にするだろう。
「……!」
「眷能も使わない方が良いぞ?」
「リーダー、もう殺しちまおうぜ。面倒だ」
「そうそう、見ろよあの目! 殺してほしそうな顔してるよ!!」
「まぁ、殺してほしいなら止めないけどな。コイツらは俺ほど優しくないし、グズグズしてるともう一発くらい誤射するかもなぁ」
長髪の女性は苦虫を噛み潰すような顔でイーサンのバッグを黒髪の男の方に投げ捨てる。
「これでいいか!?」
「お、おい、ケイト! お前、何を……」
「お前の持つ武器も寄越せ」
「……ッ! 持っていけ!!」
自分の持つ長剣型魔動機とイーサンの魔動機も一緒に投げる。
流石にこの数が相手では此方に勝ち目はない。下手に動いて撃ち殺されるよりは、こうして素直に従うほうがまだ生き残れる望みがあるだけマシだ。
……生き残れそうにない場合は、死ぬ前に一暴れして数人ほど道連れにさせてもらうつもりだが。
「ふん、物分りのいい相棒を持って幸せだな」
黒髪の男は不敵に笑いながら手下に銃を下げさせ、イーサンのバッグを拾い上げた。
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