悠久のクロノス

~神に見放された無能のオレが、白いポンコツや灰色の相棒と世界を旅するだけのお話~
ヨシコ
ヨシコ

ACT.43

公開日時: 2020年11月2日(月) 00:05
更新日時: 2021年1月18日(月) 13:50
文字数:2,460

クロニカの育て親その二ですからね。大物に決まってますよね。

「……これを本当にあのクロニカがやったのか」


 孤児院の裏にある鉄薪割り場に村人達が集まっていた。


「何かの冗談だろう? だってクロニカは……」

「シスター・ソロネがそう言ってたんだよ? いくらシスターでもそんな嘘はつかないよ」

「……でも、一体どうやって?」

「アイツには眷能ギフトが宿ってないんだぞ……それなのに、どう戦えばこんな化け物を倒せるんだよ」


 村人は横たわる巨大な黒い獣の死骸を見ながら話し合う。彼らは『無能ウーディであるクロニカが如何にしてファンタズマを倒したか』という話題で持ちきりであり、あまり彼に良い感情を持っていなかった者も評価を改めつつあった。


「ひょっとするとクロニカの眷能ギフトはファンタズマの前でしか発揮されないのかも……」

「いくら眷能ギフトが千差万別だからってそんなの聞いた事ないぞ。それにアイツは魔動機マキナも使えないじゃないか」

「むぅ……」


 アクリ村の村長エイライは神妙な顔つきで腕を組む。


「参ったのぅ」

「村長?」

「これではアイツの探索者ハンターごっこに文句が言えなくなってしまったわい」


 村長はシスター・ソロネと交流があり、クロニカとも知り合いだ。

 

 シスター程ではないか彼を気にかけており、出来ることなら争いとは無縁の平穏な生活を送って欲しいと思っている。


「好き好んで身を危険に晒す事の何が楽しいんだかのう……」


 本当にクロニカがファンタズマを倒したのかどうかはさておき、とりあえず今日も『無茶はするな』と一声かける事に決め、村長はグッと腰を伸ばした。


「……そういえば知ってますか? クロニカがを拾って女の子になったって話……」

「は? 何それ、初耳じゃが?」



◇◇◇◇



「話って何だよ、シスター」


 朝食を済ませたクロニカはポンコツと共にシスター・ソロネの部屋に訪れていた。


「実は貴女達に会って欲しい方がいるのです」

「オレ達に会って欲しい?」

『?』

「はい。その方はデウス教の司教……ダイア様です」


 シスター・ソロネはクロニカと目を合わせながら言う。


「え、やだ!」


 クロニカは即答した。


「聞いてください、クロニカ」

「やだよ、絶対にいやだ! オレはデウス教のシスターになるつもりなんてないから!!」

「いえ、そうでは……確かに貴女には是非デウス教の祝福を受けて正式なシスターになって欲しいですが、今はそうではないのです」

「嫌だ! いくらシスターの頼みでもそんな奴に会うつもりはない! 行くぞ、ポンコツ!!」

『ちょ、ちょっと待った! まずはちゃんと話を聞いてあげようよ!』

「クロニカ」

「ちゃんと聞いたよ! それじゃあな!!」


 よほどデウス教が嫌いなのか、シスター・ソロネの言葉に耳も貸さずにクロニカは部屋を出ようとするが……


「止まりなさい」

「うっ……!」


 シスター・ソロネが金色の瞳を見開いて『止まりなさい』と口にした瞬間、クロニカの身体は全く動けなくなった。


『どうしたんだ!?』

「ぐあっ……! ズ、ズルいぞ! もうは使わないって約束だろ……!!」

「……私もあまり使いたくはありませんでしたがやむを得ませんでした。貴女が話を聞いてくれないからですよ?」

「うぐぐぐぐっ!」


 それがシスター・ソロネの眷能ギフト。目を合わせた相手の動きを封じる支援型でも特に強力な能力だ。一度発動してしまえば彼女の意思で解除しない限り身動きが取れなくなってしまう。


「貴方にまだ話していませんでしたが、デウス教には白き神デウスの教えを世界に広めるだけでなく遺跡から発掘された危険な聖異物アーティファクトを回収、管理するというもう一つの使命があるのです」

「な……なんだって!?」

「貴女の手に入れたアーサル・マキナ……それは世界を変えてしまう程の力を持った強力な聖異物アーティファクトです。故に私は貴女がそれを持つに相応しいかどうかを見極める必要がありました」

「……!!」

「そして……昨日の戦いで貴女なら大丈夫だと確信しました」


 シスター・ソロネはそう言って安心したように微笑む。


「ですので、クロニカには聖都セフィロトにあるデウス教総本部でポンコツさんの正式な所有者として登録して貰いたいのです。これはデウス教の司教であるダイア様の立ち会いが必要で、貴女を呼び止めたのはそういう理由があったからです」

「……もし、行きたくないと言ったら?」

「私はデウス教のシスターです。司教様からの宣託には逆らえません……もし貴女が行きたくないと言うのなら」


 クロニカの返事にシスター・ソロネは悲しそうな顔をする。


「……ふぐっ、どうしても、どうしても行きたくないと言うのなら……! 無理にとは、無理とは……!!」


 その悲しそうな顔からは更に大粒の涙が溢れ、ついにシスターは大泣きした。


「あーっ!!」

『あーっ!!』

「ううううっ! 可愛い貴女がそこまで嫌と言うなら、私に無理強いは出来ません……! 司教様の宣託に背いた以上、私はシスターの資格を剥奪されてしまうでしょう! でも、でも貴女がそこまで言うなら……!!」

「シ、シスター! わかった! わかったから! だから泣くなって!!」

「うううううっ! ごめんなさい、クロニカ! 貴女がそこまでデウス教を嫌っていたとは知らず……! 貴女と一緒に居ながら、貴女の苦しみに気づけなかった私を許して……! 許して……っ!!」

『お、おい! 彼女本気で泣いてるじゃないか! 突っ立ってないで早く慰めてあげ』

「いや、動けねえんだって!!」


 本気で悲しんで泣いているのにシスター・ソロネは眷能ギフトを一切解除しようとしない。

 

 これが彼女の嫌なところであり、一度こうなってしまえば彼女の要求を呑んで機嫌を取り直すしか逃れる術はない……


(ああああ! もう、面倒くせぇええええー!!!)


 過去の経験で荒んでいたクロニカがシスターの言うことを素直に聞くようになった大きな理由がこれだ。


「ううううっ、うううううううう!!」

「わーかった! その司教様に会いに行くから! ちゃんとデウス教の総本部に行って神様に挨拶してくるから! だからもう泣かないでくれよぉおお!!」

「ああっ、それは本当ですか!?」


 先程まで机に突っ伏して泣いていたシスターはクロニカの発言を聞いた途端に泣き止み、ケロッとした顔で大喜びした。


Thank you for reading!\\٩( 'ω' )و //

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