目と目が合うー瞬間(再
「おらー、飲め飲めー! 生きて街に帰れたお祝いだぁ!!」
セフィロトの大樹に程近い街の酒場。酒に酔ったドッガがジョッキ片手にアリィに絡む。
「や、やめてぇー!」
「こらぁ! また未成年に酒飲ませようとしてんじゃないわよ!」
「アリィはもう17だろー!? もう大人だ、大人ぁー!」
「じゅ、16っすよ! ドッガさん!!」
「大して変わんねーよ!」
「ひいいーっ!」
盛り上がるメンバーを見ながらアックスはウォッカールの注がれたグラスを傾ける。
「まぁ、たまにはいいんじゃないか?」
「やだーっ!」
「アックスも乗らないでよ! またこの子に脱がせたいの!?」
「いや、そういう意味じゃないんだが……」
「よーし、リーダーのお許しも出たぞぉ! 飲めー!!」
「ああーっ!」
「よーぅ、アックス」
そこにバギーが現れる。アックスは顔を見た途端に小さく溜め息をつき、メイリもそっと彼から視線を逸らした。
「流石、Aランクのアックスさん率いるパーティの面子は違うねえ。いつも余裕綽々といったご様子で」
「そうでもないな。いつもギリギリだ、今日も死にかけたからな」
「へぇ、あのアックスさんが?」
「ああ、ファンタズマに出くわしてな」
アックスはバギーと顔も合わせずにウォッカールを飲む。
「ほぉーう、命からがら逃げ帰ってきたのか」
「いいや、1匹は倒した」
「ほほーぅ、あのアックスさんのパーティでも1匹がギリギリかぁ!」
バギーがくくくと笑うと、後ろの手下達も釣られて笑いだした。
「いやぁ、実は今日俺達もファンタズマに出くわしてさぁ」
「それは災難だったな。逃げ出してきたのか?」
「はっ、返り討ちにしてやったぜ! 2匹もな!!」
アックスは彼の言葉に目を見開く。
「いやぁー、実はこの街に向かってる途中でデカい遺跡を見つけてさぁ。その中でファンタズマに襲われちまったのよ!」
「……」
「まぁ、俺様自慢の鉄拳で粉砕してやったがな! 遺跡の宝も手に入れて今日はウハウハだぜぇ!!」
「それは良かったな。おめでとう、お前がAランクになる日も近いな」
バギーの自慢話をアックスは軽く受け流し、空になったグラスをテーブルに置く。
「おいおい、つれねえな。もう少し楽しそうに聞いてくれたり、心を込めてお祝いしてくれてもいいんじゃねえか?」
「悪いが、俺は自慢話が嫌いでね。それらしいリアクションは期待しない方がいいぞ」
「……てめぇ」
「おい、コラァ! いくら兄貴よりもランクが上だからって調子に乗ってんじゃねえぞ!!」
アックスの言葉に腹立った手下が彼に突っかかる。
「お前は確か……ポブだったか?」
「ボブだぁ! 間違えんな!!」
「ボブか。悪いが、俺がAランクになれたのは偶々だ。ランクに興味はないし、バギーとランクを交換してやれるなら喜んでそうするよ」
「……!!」
「まぁ、お前達の実力は認めてるよ。ほら、さっさと空いてる席に座れよ……めでたい日には祝杯しないとな?」
「ちっ!」
バギーはギリギリと歯ぎしりを立てながら酒場を出ていく。
「……何だぁ、アイツら。酒飲んで行かねえのかよ」
「らしいな」
「……アタシ、アイツら嫌いなんすよね。臭いし」
「あたしもよ。何でこうもしつこく絡んでくるのかしらねえ」
「俺に気があるのかもな」
アックスのさり気ない発言を聞き、ドッガ達は一斉に彼を見る。
「「「……」」」
「冗談だぞ?」
「で、ですよねぇー!」
「まぁ、俺は知ってたけどな!?」
「そ、そうよねぇ! ああー、ビックリしたぁ……」
「……」
一方、興を削がれたバギー達は不機嫌そうに街を歩く。
「くそっ、あの野郎め! いつか見てろよ!!」
「アイツらにあの死体をドーンと見せつけてやれば良かったですね、兄貴ィ!」
「馬鹿野郎、店に迷惑だろ!?」
「えっ、アッハイ!」
「……ったく! 何で俺はいつまで経ってもBランク止まりなんだよぉ!!」
大きな手をバシンと鳴らし、バギーはぐぬぬと唸る。
「しかし、あの守護者は本当に何者だったんですかね……遺跡にあったファンタズマの死体もアイツがやったんでしょうか」
「……」
ふとバギーはあの遺跡で遭遇した白銀の守護者の事を思い出す。
「……ううむ」
「中に人が入ってる守護者なんて初めてだよなぁ……ひょっとしたら今まで倒した守護者の中にも」
「お、おい! おっかねぇ事言うなよ!」
「まぁ、事情はわかりませんが、ファンタズマ2匹分の素材と遺跡のお宝が手に入りましたし! 気を取り直して今夜はパァーッと行きましょうか!!」
腹心のボブが上機嫌にバギーの背中を叩く。すると突然、バギーは立ち止まり……
「なぁ、ボブ」
「? どうしました、兄貴?」
「あの女、どっかで見覚えがねえか?」
「は? どの女です?」
「馬鹿、あの守護者から出てきた金髪の女だよ!」
「いだぁっ!」
夜道を歩く女性達に目を凝らすボブの頭を叩き、バギーは真顔で怒鳴る。
「え、あの金髪女ですか……!?」
「何か、会った気がしねえか!? お前らは!?」
「い、いえ……俺はさっぱり」
「あんなオッパイ大きくて可愛い子なんて見たことないですよ!」
「もし、街中で見つけてたら即お持ち帰りしてますって!!」
「うむむ……!!」
バギーは何処か既視感のある金髪の少女の事がずっと気掛かりになっていた。
「……」
「あれ、どうしたんですか? 兄貴?」
「おい、お前ら……」
「? なんです?」
「そろそろ、姉貴が欲しいと思わねえか?」
「は??」
まるで少年のように目を輝かせてそんな事を言う兄貴を前に、ボブ達は本気で困惑した。
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