(……これは……)
(……彼の記憶か……?)
クロニカと1つになった白い兜は、彼の記憶を追体験していた。
言語、技術、知識……この世界に関するあらゆる情報がクロニカを介して流れ込んでくる。常人では耐えきれないであろう情報の嵐も、彼は自分の知識として次々と吸収していった。
そして、それはクロニカも同じだった。
(……これが、アイツの記憶か)
クロニカの中に白い兜の記憶が流れ込む。
酷いノイズに塗れたぶつ切りの映像、見覚えのない景色に聞き覚えのない言葉、そして白い影に覆われた青い空。その記憶の大部分は何らかの理由で失われており、彼は自分が何者なのか自分でもわからないという有様だった。
彼が覚えているのは、優しく微笑みかけてくる金髪の少女の姿……
そして自分の名前だけ。
「……クロノス」
クロニカがその名を呟いた瞬間、彼の全身に力が漲った。
〈ヴルルルルルルッ!!〉
ファンタズマ達は唸り声を上げて白銀の戦士を警戒する。鋭い刃が備わった尻尾を逆立て、地面に爪を立てながら脚に少しずつ力を込めていく。
「……」
『おい、大丈夫か!?』
「うおっ!?」
『僕の声は聞こえるか!? 聞こえてたら返事をしろ!』
「うるせぇ、ハッキリ聞こえてるよ! オレは一体どうなった!?」
『説明は後だ! 今は』
〈ヴァルルルルルルァアアアアッ!!〉
クロニカに向かってファンタズマが飛びかかる。
「!」
『今はアイツらを倒すことに集中しろ!!』
クロニカは飛びかかってきたファンタズマに押し倒される。
「うおおおおっ!?」
〈ヴァアアアアッ!〉
「ちっ、このぉ……ッ!!」
だが、その鋭い牙を首筋に突き立てられる前にクロニカは咄嗟に拳を握って反撃。
――――メゴンッ!
彼の拳はファンタズマの横腹に深々とめり込み、3ブレイルはあろうかという巨体を殴り飛ばした。
〈ヴァギャアアアアアアアアアアアッ!!〉
ファンタズマは悲鳴を上げて遺跡の壁を突き破りながら転がりまわる。
「……ははっ、こりゃ……」
パンチ1発でファンタズマが吹き飛んだのを見てクロニカは思わず総毛立つ。
「ははっ、すげえ……はははっ!!」
『油断するな! 敵はもう1匹居るぞ!!』
〈ヴァルウウウウウッ!〉
もう片方のファンタズマが素早く尻尾を突き出す。
「ははっ……!」
しかし、クロニカは自分に致命傷を与えた怪物の一撃を片手で跳ね除ける。
〈ヴァルッ!〉
「遅えぞ、化け物っ!!」
ファンタズマが尻尾を戻す前に懐に飛び込み、反撃する暇も与えず顔面に素早く拳を叩き込む。
〈……ァギッ〉
青い光を纏ったクロニカの拳はファンタズマの顔面を大きく凹ませ、青い血飛沫がブワッと周囲に舞う。
『よし、1匹倒したぞ!』
たった一撃。遺跡の防御機能をあれだけ撃ち込んでも倒せなかった怪物をパンチのみで倒す……
「はっはっ、凄え! 凄えぞ、これ!!」
あまりにも常識外なそのパワーに、クロニカは興奮した。
「パワーだけじゃねえ、さっきの攻撃もスローに見えた! 何だよこれ、無敵じゃねえか!!」
『興奮したい気持ちは解るが、まだ1匹残ってるぞ! 気をつけろ!!』
「はっ、関係ねえよ! あと何匹居ようが負ける気が」
クロニカが自信満々で呟いた瞬間、地面から突き出した尻尾が彼の足を捕らえた。
『! しまった!!』
「うおっ!?」
ファンタズマの尻尾は足に巻き付いたまま彼の身体を引きずり回す。
〈ヴァルヴァルヴァルヴァルウウウッ!!〉
拘束したクロニカを壁や天井に何度も激しく打ち付け、トドメと言わんばかりに地面に叩きつける。例え強靭な鎧に身を包んだ戦士あろうと、ここまで凄惨な攻撃をまともに受ければ一溜まりもないだろう……
〈ヴルルルッ!〉
「……はっはっ」
〈!?〉
「はっはっ、やべぇ! 全ッッ然、痛くねぇー!!」
だがそんな怪物の乱撃を受けてもクロニカは無事だった。ガバッと起き上がり、足に巻き付いた尻尾を掴む。
『そ、損傷ナシ! 凄い、あれだけの攻撃を受けても全くダメージを受けてないぞ……!!』
「はっ、お前が驚くのかよ!」
『驚くよ!』
「はははっ、だよな! 実はオレも驚いてる!!」
尻尾を容易く引きちぎり、あまりの頑丈さに自分で驚きながら立ち上がる。
〈ヴルルルルルッ!〉
「さぁて、そろそろ終わりにするか……」
尻尾を千切られても尚、逃げずに飛びかかろうとしてくるファンタズマを見てクロニカは小さく笑った。
〈ヴァアアアアアアアッ!〉
「はっはっ、レイコは目ぇ見開いて驚くだろうな!」
〈ヴァギッ!!〉
飛びかかってきたファンタズマに素早くパンチを打ち込み、その身体を強引に宙に留める。
「散々、馬鹿にされてきたこのオレがっ! 無能とか能無しとか役立たずとか言われてきたオレがっ!!」
もう片方の拳に力を込めながらクロニカは叫ぶ。
「たった一人で、ファンタズマをぶっ倒してやったんだからなぁ────ッ!!」
────バギョンッ!!
様々な感情が籠もったクロニカ渾身の一撃は無防備となったファンタズマの身体を完全に粉砕した。
「ははっ、はっはっ! あーっはっはっはー!!」
クロニカはギュッと拳を握りしめ、感嘆のあまり大声で笑い出す。
『僕の力もあったんだから、たった一人じゃないよね?』
「……このタイミングでそういう事は言わないでくれねえかな?」
『え、このタイミングじゃないと言えないし……』
「……」
『と、とりあえずこれで化け物は二匹とも倒した! おめでとう、君の勝利だ!!』
「……どーも」
白い兜、聖異物【クロノス】の横槍で微妙な気分にさせられつつも、無事にファンタズマを退けたクロニカはふーっと大きな溜め息を吐いた。
Thank you for reading!
読み終わったら、ポイントを付けましょう!