悠久のクロノス

~神に見放された無能のオレが、白いポンコツや灰色の相棒と世界を旅するだけのお話~
ヨシコ
ヨシコ

ACT.34

公開日時: 2020年10月28日(水) 12:07
更新日時: 2021年2月25日(木) 23:38
文字数:2,325

覚 悟 完 了

「シ、シスター! 何してるの!? 下がって!」

「シスターッ!」

「シスターッ!?」


 ファンタズマに銃を向けながらレイコはシスター・ソロネを止めるが、彼女は決して下がろうとしない。


〈ヴルルルルルルッ!!〉

「……レイコさん、どうか決して振り向かずにその子達を連れて逃げてください」

「何言ってんのよ! 私が食い止めるから、シスターが逃げてよ!!」

「シスターッ!」

「……もしそれが叶わぬなら、せめてその子達の目を瞑らせてください」

「シスター……ッ!」


 シスター・ソロネは静かに振り向き、いつものように優しい笑顔で微笑む。

 

 自分を案じるレイコや孤児達の泣き出しそうな顔を見て少しだけ悲しげな顔になりつつ、彼女はファンタズマに視線を戻す。


「偉大なる白き王よ、我らの父よ……」

〈ヴァルルルッ!〉

「私に力をお貸しください……」

「シスタァァーッ!!」

〈ヴァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!〉


 シスター・ソロネは祈るように両手を組む。ミーナの悲鳴にも似た絶叫を掻き消すように、ファンタズマは叫びながらシスター目掛けて飛びかかった……



 バゴォンッ!!



 その瞬間、礼拝堂の壁を突き破って 白い戦士 が現れる……


「……そいつらにっ!」


 白い戦士は両目に宿る翡翠色の光を輝かせながらファンタズマに突撃。


「手を出すなぁぁぁぁ────ッッ!!」


 黒い爪がシスター・ソロネに届くよりも早くその顔面を思い切り殴りつけた。

 

〈ヴゥアアッ!〉


 ファンタズマはそのまま真横に吹き飛んでいく。

 

 死角から思わぬ痛撃を受けるもファンタズマは転がりながら直ぐに体勢を整え、ガリガリと床を掻いて白い戦士を睨む。


〈ヴァルルッ!〉


 白い戦士は此方を睨むファンタズマからシスター達を守るように立ち塞がり、ギュッと強く拳を握りしめた。


『皆、大丈夫か!?』

「……ッ! ギリギリよ、馬鹿ッッ!!」


 ポンコツの心配する声にレイコは半泣きで返した。


「……クロニカ、ですか?」

「……やめてくれよ、シスター」


 白い戦士に変身したクロニカは背中を震わせながらシスター・ソロネに言う。


「そういうの、マジでやめろよ。アンタがいなくなったら……そいつらどうなるんだよ」

「……」

「化け物の相手は! アンタの役目じゃねえだろ……!!」


 クロニカは床に投げ捨てられた血塗れの腕を見て思わず目を逸らす。


『……あの腕は、のものだ』

「……!」


 ただ一言、ポンコツはそう呟いた。


「……軽蔑するなら好きにしろよ。あの時に変身しなかったのはオレだ」

『……』

「……あの人に任せて、逃げたのはオレだ!!」

〈ヴァアアアアアアアアアッ!!〉


 雄叫びを上げながらファンタズマが飛びかかる。

 

 クロニカはファンタズマを迎撃すべく右腕に力を込め、その顔面に向けて拳を振り抜く。だが、クロニカのパンチは躱されて腕に尻尾が巻き付く。ファンタズマは巻き付いた腕を強く引っ張って体勢を崩し、巨大な体躯を活かしたタックルをクロニカに食らわせる。


「……ぐあっ!」

『うぐっ!』

〈ヴァルヴァルヴァルウウウッ!!〉


 ファンタズマはクロニカを押し倒して鋭い牙で食らいつく。クロニカは咄嗟に左腕で噛みつきを防御したが、その鋭利な牙と強靭な顎はメキメキと白銀の装甲に食い込んでいく。


「く……ッ!!」

『そ、損傷アリ! 左腕がっ……!!』

「うおおおおおおっ!!」


 ファンタズマの胴体に蹴りを入れて強引に引き剥がす。

 

 直様、追撃のパンチを放ったが素早い尻尾の一撃が顔面に入って狙いが外れる。ファンタズマは悠々と打撃の射程外まで離脱し、挑発するように尻尾で床を叩く。


「……!」

『こいつ……!』

〈ヴルルルルルッ!〉


 変身してもこのファンタズマは一筋縄ではいかない。その姿だけでなく戦闘力もまるで別物。例え歴戦の討伐者ブレイバーであっても、単独で挑むには無謀すぎる相手だった……



(……こんな化け物相手に、あの人は一人で戦ったのかよ!!)


(……こんな化け物にッ!!)



 クロニカの胸に身に覚えのない熱い感情が宿る。


 レントは恐らくこの怪物に勝てない事を察していた。それなのにクロニカに『化け物の相手は俺の仕事だ』と言い、ファンタズマを相手取って彼や村人を逃がす時間を稼いだ。迷いなどなかった。


 討伐者ブレイバーとなった時から、彼は既にこうなる覚悟を決めていたのだ。



(……そうだよな……やるしか、ねえよな……ッ!)


と決めて、剣を握ったなら……!!)



 クロニカは両足に力を込めて戦闘態勢に入る。


「……シスター、自分ではよく言ってたけどさ……オレは本気で覚悟した事なんて殆どなかったよ」

「……」

「でも……今なら出来る」



────キィィィィィ……ン



 クロニカの全身が翡翠色に輝く。


 今までは力を込めた部位にしか纏われなかった翡翠の輝きが全身を包み込み、白銀の鎧がキリキリと音を立てて震える。


〈ヴァルッ……!!〉


 クロニカから何かを察知したのか、先程まで余裕げだったファンタズマの様子が変わる。まるで怯える獣のように身を震わせ、揺れていた尻尾もピタリと制止した。


『こ、これは……!』

「わかったよ、ポンコツ。今までのオレに足りなかったのはだ……」

『……!?』

「お前だけの力に頼るんじゃなく、オレ自身が クロノス になる【決意】だ!」

『!』


 クロニカはファンタズマを睨みながら、白き神デウスの像を背に堂々と宣言した。



「オレ自身が クロノス として戦う【覚悟】だッッ!!」



 クロニカがそう瞬間、目元を覆っていたバイザーが展開。クロニカと同じ翡翠色の鋭い双眸が顕になる。続けて襟元の装甲が展開して翡翠色に発光するエネルギーラインが走り、後ろから勢いよく吹き出して光のマフラーを形成する。



─ BRACE YOURSELF ─



 そしてクロニカの視界に、変身の際に浮かぶ文字とは別のが浮かび上がった……


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