「さぁ、着いたわよ」
『おおーっ! これが聖都セフィロトか……!!』
飛翔船アカツキで飛ぶこと3時間、ようやくクロニカ達は聖都セフィロトに到着する。
「やっと着いたかー……ここまで来るのに随分かかったなぁ」
『色々あったからねー、それにしても凄いなぁ……!』
セフィロトの大樹の麓につくられた世界最古にして最大の都市。あらゆる文化や流通の拠点であり、探索者討伐者両ギルドの本部に加えてデウス教の総本山のある世界の中心部だ。
その面積も今までの街とは比べ物にならないほど広く、硬質レンガ造りの近代西欧的な建築物にふよふよとと浮遊する文字盤と街中を走るモノレールのような乗り物といった未来的な要素が融合する幻想的な街並み。
聖都を見下ろすように鎮座する大樹の存在感も相まって一目で特別な街であるとわかる。
『本当にあんな凄い街に入れるのかい!?』
ポンコツも思わず目をキラキラと輝かせ、手足をワキワキと動かして興奮気味に言う。
「ああ、入れるよ。出来れば俺は行きたくねえんだけど……」
「さっさと用事を済ませたらいいでしょ。ほら、さっさと準備しなさい」
「ううー……やだなぁ」
嬉しそうなポンコツとは対照的にクロニカの気分は消沈していく。
『どうしたんだ、クロニカ? 何だか嫌そうな顔をしてるけど……』
「だってデウス教の本部に行かなきゃいけないんだぞ? いくらシスターのお願いでも気は進まねえよ。俺は神様が大嫌いなんだ」
『……』
飛翔船アカツキはセフィロトから発せられる誘導ビーコンに従って着陸場に向かう。チカチカと点滅するマーカーを目印にゆっくりと高度を落とし、11の番号が振られたスペースに着陸する。
「はい、さっさと降りなさい。門番さんには愛想良くねー」
「……自信ねえわ」
『僕は黙っていた方がいいかな?』
「あ、そうそう。クロニカは通行証持ってるわよね?」
「……あっ」
レイコに言われてクロニカはようやくシスターに渡された十字架の事を思い出す。
「あー……忘れてたあ。あれを持ってかないといけないのかぁ……」
村を出る前にシスターが彼に渡した十字架はデウス教の信者である証であると共に聖都セフィロトの通行証としての役割も持つ。
遺跡荒らしであるクロニカは職業や身分を証明するものが無く、真っ当な手段では通行証を手に入れることは出来ない。シスターはそんな彼の為に十字架を渡したのだが……
「やだなぁ……」
『そこまで嫌いなのかい……』
「うぐぅ……」
それでもクロニカは十字架を持つことを躊躇した。彼は本当にデウスを嫌っているのだ。
「どうしたの、クロニカ? まさか通行証がないとか」
「いや、あるにはあるんだ……ただ十字架の形をしててな」
「あるならさっさとつけなさいよ。あ、ポケットに入れて持ち歩くなんて馬鹿なことはしないでよ? ちゃんと首に下げなさい」
「えぇぇぇ……」
「この街にいる間だけの辛抱でしょうが。おら、さっさと十字架をつけて船から降りな!」
レイコに釘を刺されてクロニカは渋々サイドポーチから十字架の入った木箱を取り出す。
「……くそぅ」
『そこまで嫌なのか……?』
「十字架をつけるくらいならバギーの女になった方がマシだと思うくらいにはな!」
『そこまで!?』
箱から出した十字架を苦虫を噛み潰したかのような顔で首に下げ、ぶるぶると左右に首を振る。
「あーっ! 街を出たらすぐに取ってやる!」
『……ぼ、僕は結構似合ってると思うんだけどね』
「あぁ!? 何だって!?」
『な、何でもないよ! さぁ、行こうクロニカ!』
胸元でキラリと輝くデウス教の字架を見てポンコツは思わず口を滑らせるが、クロニカに睨まれてすぐに撤回。冷や汗をかきながら大きな目をキョロキョロと泳がせた。
「ああ、これはデウス教の信者である証ですね。どうぞ、お通りになってください」
セフィロトの周囲に築かれた巨大な城壁。その正面に設けられた第一正面ゲートに立っていた門番は、クロニカの十字架を見るや快くセフィロトに足を踏み入れる事を許可した。
「……どうも。門番さんに白き神の御加護があらんことを」
クロニカは若干ぎこちない笑顔で門番に挨拶し、ペコリと頭を下げて正面ゲートを通過する。
「……」
『……頑張ったね、クロニカ』
「……ありがとうよ!」
『あいたっ!』
さり気なく励ましの言葉を口にしたポンコツの額をベチンと叩いた。
『な、何でっ!?』
「うるせー! ほっとけ! あー、気分悪いー!」
「あー、良かった。ちゃんと通れたみたいね。いつも肝心な時にドジを踏むから心配したんだから」
「うるせーやい!」
クロニカの後から門を通ったレイコはホッと胸を撫で下ろす。
「もう日が暮れかかってきてるし、さっさとデウス教総本部に向かうわよ」
「うぐぐ……!」
『す、少しくらい街を見て回っていかないか? せっかく凄い所に来たんだし……』
「それだ! ちょっと街を見て行こうぜ! ほら、あの魔動機店とかさ!!」
「遊びに来てんじゃないのよ! おら、さっさと行くよ!!」
『あーっ!』
「うあーっ!」
セフィロトを散歩したいポンコツと意地でも総本部に行きたくないクロニカの意見を無視し、レイコは彼の腕を引っ張ってデウス教総本部に向かった……
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