「ようこそ、デウス教総本部へ。あなた方がクロニカ様達ですね、シスター・ソロネからお話を聞いております。どうぞ中へお入りください」
デウス教総本部に辿り着いたクロニカ達を若いシスターが心良く迎え入れる。
デウス教総本部は聖都セフィロトの中心部に立つ白い神殿のような建物だ。西欧的な建造物が目立つセフィロトでも一際目立つ壮麗な外観をしており、広さもサメフ駅とほぼ同じかそれ以上。神々しさすら感じさせる巨大建築にクロニカも思わずたじろいだ。
「……う、うわぁ」
「はやく入りなさい、クロニカ。さっさと用事済ませて帰るわよ!」
「お、おい! 押すなって! まだ心の準備が!」
躊躇するクロニカをレイコが建物の内部に強引に押し込む。外観も然ることながらその内部も凄まじいことになっており、目が痛くなるほどの白と金で統一された内装にクロニカは全身が鳥肌立つ。白と金はデウスを象徴する色であり、それに合わせているのだろうが……
(やべえ、もう帰りてえ! 何か気分が悪くなってきた! は、吐きそう……!!)
それがクロニカに与える精神的ダメージは途轍もないものだった。
『わぁ……凄いな! ここがデウス教の総本部かー!!』
クロニカが顔面蒼白になっているのに対し、ポンコツは嬉しそうに目を輝かせていた。
『見てくれ、クロニカ! あのシャンデリア凄いよ! 天井に吊るされてるんじゃなくて浮いてるよ! どんな技術が使われてるんだろう!!』
「……」
『あの絵に描かれてる巨人がデウスかな!? 凄いなぁ! あ! あそこには石像があるよ! シスター・ソロネの教会にあったものよりずっと大きい!!』
「……ポンコツ」
『えーと、この光景を保存する機能とかないかな。見たものを写真みたいに正確に記憶したり……』
「……あのな、ポンコツ?」
クロニカは興奮するポンコツを睨めつけ、その表面にギリギリと爪を立てながら言う。
「殴 る ぞ ?」
『……!』
本気で嫌悪感を剥き出しにするクロニカ。初めて見る彼の形相にポンコツは思わず黙り込んでしまう。
(そ、そこまで嫌いなのか……)
ポンコツには素敵な美術館に見えるこの場所もクロニカにとっては大嫌いなデウス教の本拠地。落ち着ける筈もなかった。
「お話にあった通り、その聖異物は本当に会話ができるのですね」
「あはは、そうなんですよ。私も初めて見た時は驚きましたー」
「……」
「クロニカも憧れのデウス教本部に来て大興奮してるみたいです。興奮し過ぎて逆に無口になってますけど、そっとしておいてあげてくださいね」
全身を強ばらせながら無言で前方を睨みつけるクロニカをレイコは精一杯フォローする。
「ふふふ、私も最初はそうでした。でも此処で沢山の姉妹達と共に白き神の教えに触れ、司教様にお導きいただく内に自然と落ち着きました。そして私も白き神に愛されているのだと実感し、白き神の子であり一部であることを受け入れた今は常に心が至福に満ちています」
「すごーい」
「もし良ければ貴女もデウス教に入信致しませんか? 素晴らしい世界が待っていますよ?」
「あはは、考えさせてもらいますー」
満面の笑みでデウス教の素晴らしさと白き神の偉大さを説く若いシスターにレイコは張り付くような笑顔で応じる。
建物の照明の関係か、こちらを向いて笑顔を振りまく度に胸に下げられた十字架がキラリと眩しく光ってクロニカの目を焼く。
「……う、ぐうっ!」
「? どうかなさりましたか?」
「シスターの笑顔が眩しくて照れてるみたいですね。心配しなくていいですよ、むしろ自慢にしてください」
『……』
「やだ、そんなこと言われると私が照れてしまいます!」
「ううっ!」
若いシスターがこちらを振り向く度にクロニカは苦しむ。
「一々振り向かなくてもいいから! はやく司教様の所まで連れて行ってください!」
「あっ、ごめんなさい。つい……」
「だからこっちを向くなって!」
もはや十字架の光に焼かれる黒き子らか悪魔の如き反応にポンコツも困惑し、レイコの笑顔も引きつっていく。
「や、やばい……本当に気分が悪くなってきた……」
「もうそこまで行くと病気じゃないかしら」
『……シスター・ソロネが知ったらまた泣きそうだね』
「う、うるさい……! 泣きたいのはオレの方だっ!!」
『……』
ただ建物の中を歩いているだけなのに半泣きになるまで追い詰められるクロニカ。そんな彼を見ていられずにポンコツが視線を逸らすと、丁度その場所だけが不自然に歪んでいるように見えた。
『ん?』
「どうした? ポンコツ」
『いや、何だかあそこだけが歪んで見えるような……』
「へ?」
「ああ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私は」
────パキィンッ。
若いシスターが自己紹介をしようとクロニカの方を振り向いた瞬間、何かが割れるような音が建物内に響き渡る。
「……あれ?」
「……なっ!」
『!?』
それと同時にシスターの胸が鋭い何かに貫かれ、純白の床面に真っ赤な血が零れ落ちる。
『……再転移、完了。どうやら……今度はうまくいった、よう……だな』
「うふふ、良かった」
冷たい笑い声と共に歪みの中から現れた深紫色の鎧はシスターを貫いた赤い剣先を引き抜く。
「次は何処に飛ばされてしまうのかと心配したけど……その必要はなかったようね」
血に染まった剣先はまるで鞭のようにしなりながら伸縮して鎧の手元に戻る。血染めの刃は見覚えのある蛇腹状の長剣へと変化し、鎧は呆気にとられるクロニカを挑発するようにこびりつく血を振り払った。
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