約束なのであの子が脱ぎます(*'ω'*)旦+
「……しかし、凄いなこれ……」
クロニカは自分の身体を興味津々で見つめる。
全身を覆う白銀の鎧。その表面には淡い燐光を帯び、鎧の間を縫うように翡翠色のエネルギーラインが走る。
現代で流通している鎧と比較すると非常にスマートで先鋭的なデザイン。防具と呼ぶにはあまりにも優美な外観とは裏腹に、その防御性能はファンタズマの攻撃を完全に防ぐほどに高い。更にその白い装甲は複雑に可動し、クロニカの動きにピッタリと追従する。
「お前の目には、世界がこんな風に見えていたんだな」
『どうだ、僕の言う通り説明が難しいだろう?』
「全くだよ。しかも古代文字ばかりで俺には全然読めん……」
『この文字は日本語って言うんだ。僕の生まれた国の言葉だね、それに所々英語も混じってる』
「難しい言葉使ってんな?」
『僕からすれば君の言葉も大概だよ』
そして何よりの特徴は、クロニカと一体化した白い兜。
兜の視界には常に周囲の情報が表示され、薄暗い遺跡内部も光度調整機能でまるで昼間のようによく見える。右下にはクロニカのバイタルが小さく映り、呼吸、心拍数、精神状態、ダメージなどが細かく記されていた。
「そういや、オレは胸をぶち抜かれて死にかけて無かったか? もう全く痛みを感じないんだけど」
『僕と融合した事で君の傷は修復されたみたいだ。今の君の状態は健康そのもの、君自身も気づいていなかったような身体の異常まですっかり治癒されたよ』
「はぁー……すげぇなあ」
何から何まで常識を逸脱した性能を誇る白銀の鎧にクロニカはただただ感動する。
「ああ、お前の名前はクロノスっていうんだな。いい名前じゃないか」
『いや、それは僕の名前というより……僕の意識が宿っているこの兜の名前だ』
「は? どういう意味?」
『僕にもわからん!』
「じゃあ、お前の名前は何ていうんだよ」
『わからん!』
白い兜はキッパリと断言する。
『第一、どうして僕がこんな姿になったのもわからないんだよ! 記憶もハッキリしないし! わからないことばかりだ!!』
「……まぁ、今はいいか。そのうち思い出すかもしれねえし」
『良くないよ!』
「そう言われても、オレにはどうにも出来ねえよ。オレに出来るのはお前をここから外に持ち出す事くらいだ」
『うっ……』
「オレは学者様でも、技師様でもないからな」
クロニカはファンタズマの死体からブレイクルを引き抜いて遺跡を後にする。
「あ、そうだ。そろそろこの鎧外してくれね? このままじゃ帰れねえよ」
『ああ、それなら簡単だよ。ヘルメットを外すみたいに僕を』
「うおおおおおっ! 何か遺跡から出てきましたよ、兄貴ぃー!!」
クロニカが遺跡の外に出ると、バイクに乗った数人の探索者が入り口を囲んでいた。
「うおっ、何だありゃあ!?」
「この遺跡の守護者か!?」
「守護者にしちゃ随分とちっちぇえな!」
偶然この遺跡を見つけたのか、それとも誰かから情報を得たのか。完全武装した探索者達が遺跡前に集結している。
「はっ、確かに小型だが見たこともないタイプだ! コイツのパーツはきっと高く売れるぜ!!」
リーダーと思しき金色モヒカンの巨漢は砲身を強引に二つ繋げた連装バズーカ砲を構える。
「あー……」
『何だい、アイツらは』
「うーん、一応知り合いかな」
クロニカは大きな溜め息をつく。
あの金色モヒカンはBランク探索者のバギー。豪快かつ荒々しい性格で正式な探索者にも関わらず遺跡荒らし紛いの事を平然と行う嫌われ者だ。
「やっちまいましょう、兄貴!」
「よく見たら結構、エロい身体してますから木っ端微塵にはしないでくださいね! 手足を狙って!」
「うるせー、俺に指図すんな!!」
しかし、どういう訳かそれなりに人望はあるらしく彼のパーティに入りたがる者は後を立たない。
「うーん、どうするかな」
『君の好きにしていいんじゃないかな』
「そう言われても、今のオレにはファンタズマをぶっ殺すパワーがあるんだぜ? 軽く殴っただけでもアイツらミンチになっちまうよ」
『でも、このままじゃ面倒な事になりそうだぞ』
バギー達をどうするかで話し合っていた所にバズーカが撃ち込まれる。2発同時に放たれたバズーカ弾はクロニカのすぐ隣を掠めて遺跡に着弾、チュドンと大きな音を立てて爆発した。
「……」
『君の好きにしろ』
「うん、攻撃してきたのはアイツらだからな」
クロニカは手をポキポキと鳴らし、3、4発目が撃ち込まれる前に跳躍する。
「なぁっ!?」
「と、飛んだぁー!?」
バギーはすかさずバズーカ弾を発射するがクロニカはひらりと回避し、彼の乗る大型二輪駆動機の前に着地する。
「悪いな! 恨むなよ!!」
「うおおおおっ!?」
クロニカはバギーの大型二輪駆動機に軽くパンチを撃ち込んで破壊。続けざまに彼からバズーカを取り上げて遠くに投げ捨てた。
「ああっ、兄貴ィー!」
「く、くそっ! お前ら撃てぇっ!!」
バギーの手下達は手にした銃でクロニカを撃とうとしたが、引き金を引く前に全ての銃をはたき落とされる。
「えっ!?」
「はっ!?」
「ほああっ!?」
「はー……やっぱりスゲーな。自分でもビックリするわ」
目にも留まらぬスピードで動き、瞬く間に彼らの武器を無力化する桁外れの身体能力にクロニカは改めて感動した。
「さて、どうするかね」
『1発くらい殴ってもいいんじゃないか?』
「!? しゃ、喋った!?」
「うおおおおおっ!?」
「まぁ、コイツらにはそこそこ恨みがあるからな。とりあえずそのダサいバイクは全部ブッ壊させてもらうか……」
『君がそれでいいと言うのなら、僕は……ビガッ!!』
クロニカが彼らの処遇を決めた瞬間、白い兜は奇声を上げてガタガタと震えだす。
「!? ど、どうした!?」
『ビガッ、ビガガガガガッ! ガッガッ……ガビューッ!!』
「な、ななな、何だぁー!?」
「兄貴ぃ、この守護者ヤバイよぉー! ヤバい気配がするよぉー!!」
『ビガグガガッ、ギギン、ビガガガガガガーッ!!』
「うわっ、うわわわわぁーっ!?」
白い兜の様子がおかしくなり、クロニカの視界には解読不能な赤い文字で埋め尽くされる。身体の自由も効かなくなり、クロニカは壊れた機械人形のようなおかしな挙動で暴れ回る。
「あばばばばっ!? 何だ、何だこれぇえー! 身体が、身体がおかし……っ」
『ビガガガガッ……ブツンッ!』
────バシャンッ!!
突然、大きな音を立てて白い兜が分離する。兜が外れた瞬間、クロニカの身体を覆う白銀の鎧は粒子状に分解され……
「……あれっ?」
クロニカは呆気にとられるバギー達の前で素っ裸になった。
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