悠久のクロノス

~神に見放された無能のオレが、白いポンコツや灰色の相棒と世界を旅するだけのお話~
ヨシコ
ヨシコ

ACT.44

公開日時: 2020年11月2日(月) 14:10
更新日時: 2020年11月28日(土) 17:11
文字数:2,036

「本当に、行ってくれるのですか!?」

「ああ! ああ! だからこの眷能ギフトを解いてくれ!!」

「あっ、ごめんなさい」


 シスター・ソロネが目を閉じるとクロニカは身体の自由を取り戻す。


「……はぁ、本当にシスターは……」

『……恐ろしい能力だな。これならファンタズマが相手でも負けないんじゃないか?』

「いいえ、この力は心あるエトにしか通じません。力と引き換えに心を失ったファンタズマには精々動きを鈍くする程度の効果しかないでしょう」

『そうなのか』

「恥ずかしながら……」

「別に恥ずかしいことなんてないだろ。シスターの眷能ギフトは本当に凄いよ……」


 クロニカはシスター・ソロネを羨ましそうに見つめて言う。


「……ではクロニカ。ポンコツさんと一緒に聖都セフィロトへと向かっていただけますか?」

「ああ、行くよ。ここで断ったらまた泣かれそうだし……」

「ごめんなさい。あの力はもう貴女には絶対に使いません……約束します」

「だといいなぁ……」

『シスター・ソロネ、少し聞きたいんだが。その聖都セフィロトというのはどういう所なんだ? あの大樹と同じ名前だが、何か関係があるのか?』


 ここでポンコツは気になっていた事をシスター・ソロネに聞く。


「ふふふ、聖都セフィロトはこの世界の中心に位置する最も大きな都です」


 シスターは『待ってました』とでも言いたげにニコッと笑い、両手を合わせて説明した。


「大樹セフィロトの麓に作られた最初の都であり、そこから白き子エルシートは世界に散り、新たな郷と街を築きました。聖都セフィロトは私達エトの経済、文化、政治の中心部でありこのデウス教もその都から世界に広まったのです」

『なるほど……今で言う日本の東京みたいな所なんだな』

「ニポン……? トゥキオ? 何だそりゃ」

『僕の育った国と都の名前だよ』

「変わった名前だなぁ」

探索者ハンター討伐者ブレイバー両ギルドの本部も聖都セフィロトにあります。ですが聖都セフィロトに入るには通行許可証を門番に提示しなければいけません」

『ふむふむ……』

「その通行許可証を手に入れるのが中々に面倒なんだ。正式な探索者ハンター討伐者ブレイバーなら登録証が許可証代わりになるんだが……」


 シスター・ソロネは机の引き出しから小さな木箱を取り出して机の上にそっと置く。


「クロニカ、これを持っていきなさい」

「ん、何だこれ?」

「中にはデウス教信者である証の白き十字架と、司教ダイア様にお会いする為に必要な謁見証が入っています。それがあれば通行許可証がなくとも聖都セフィロトの門を通ってダイア様にお会いすることが出来ます」

「……」


 クロニカは小さな木箱を受け取り、微妙な表情でポケットに入れる。


「十字架は着けなきゃ駄目か?」

「……無理にとは」

「あーもー、わかった! 聖都に到着したらちゃんと着けるよ! それまでは大事にしまっておく!!」

「ふふふ、その十字架は私の手作りです。白き神デウスの加護がついてますので、どんな障害からも必ず貴女を守ってくれるでしょう」

「ううー……」


 嫌そうな顔をするクロニカにシスター・ソロネは困ったような笑顔を向ける。彼が相当な十字架嫌いであることは誰よりも知っているが、せめてその時だけはと両手を組んでお願いした。


『君は十字架も嫌いなのか』

「十字架が好きなやつとは仲良くなりたくないなぁ」

「ふふっ、私からお願いしたい事はこれだけです。もう部屋を出ていいですよ、クロニカ」

「あーい……」

「おーう、シスター。クロニカはおるかのう」


 クロニカがシスターの部屋を出ようとしたタイミングで、エイライ村長がやって来た。


「村長さん。どうかしましたか?」

「いんや、ちとクロニカに挨拶の一つでもしようかと思ってな」

「何だよ、村長。挨拶なんてもうしなくていいぞ、うっとうしいし」

「うっとうしいとは何じゃ、小僧。小さい頃に拾ってやった恩を忘れたとは……」


 エイライ村長は目の前に立つクロニカの姿を見て動きを止めた。


「……」

「……? どうした?」

「村長さん?」

「……クロニカ、か?」

「ん、そうだけど……」


 クロニカは豊かに実った胸を無自覚にぽよんと揺らして首を傾げた。


「あ、そういや村長にはまだオレが女になったことを話してなかったっけ」

『彼がこの村の村長なのか?』

「ああ、そうだよ。すっかりヨボヨボのジジイになっちゃったけど、昔は腕利きの探索者ハンターだったらしいんだ」

『へぇ……あ、自己紹介が遅れて申し訳ない。はじめまして、僕は』


 ポンコツの自己紹介を遮るようにクロニカの肩を掴み、エイライ村長は未だ嘗て無いくらいに凛々しい目つきで言った。


「……クロニカや」

「な、何だよ?」

「儂の新しい孫になってくれ!!」

「ファッ!?」


 エイライ村長が発した意味不明な言葉にクロニカは困惑する。


「いや、何いってんだ村長!?」

「前から思っておったが……今日のお前の姿を見て決心した! 儂の孫になれ! そして儂の村を継いでくれ!!」

「意味わかんねぇよ!? 何で急に」

「その乳を見て決めた!!」

「ちちっ……」


 老い先短いエイライ村長入魂のセクハラ発言にクロニカとポンコツは絶句した。


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