「……あ、あれっ?」
クロニカは混乱した。
「え、あれ? 何……えっ?」
突然、白い兜が外れて変身が解けた事や、変身が解けたら何故か裸になっていた事ではなく……
ぽよよんっ。
自分の身体が、女性化してしまっていた事に。
「え、何で!? ちょっ、何でぇー!?」
クロニカは咄嗟に身体を隠す。
元々身長は1・6ブレイル程と小柄だったが、どういう訳か更に縮んでしまっている。男として大事な部分を失った代わりに胸部には余計なものが備わり、レイコから女顔だと誂われていた容貌はもはや完全に年若い少女そのもの。
「な、何だぁーっ!?」
可憐な美少女が小柄な身体に見合わぬ豊かな胸を隠して恥じらう姿にバギー達も思わず顔を赤らめた。
「ほあああっ!?」
「な、何かいきなり脱ぎましたよ、アイツ!!」
「兄貴ぃ! 守護者の中から美少女がぁー!!」
「う、うるせぇ! 狼狽えるな! これは罠だ、気をつけろぉー!!」
バギー達は突然現れた全裸の美少女をガン見しながらジリジリと距離を詰める。
「だぁぁっ! こっち来んな、お前ら! そんなにジロジロと見るな、あっち向けよぉー!!」
「そ、そう言われても!」
「無茶言うな!」
「いきなり脱いだのはテメーの方だろうが!」
「うぅぅううっ! ガルーダッ! ガルーダァァァーッ!!」
クロニカは泣きながらガルーダを呼ぶ。
周囲に溶け込んで身を潜めていたガルーダは即座に迷彩を解き、クロニカの身体を隠すように砂煙を上げながら駆けつける。
「うおおおっ!?」
「な、何だ!?」
「ゲホッ、ゲホォッ! 砂がっ……!!」
舞い上がる砂煙にバギー達が怯んでいる隙にクロニカは白い兜を回収し、ブレイクルを担ぎながら大慌てでガルーダに跨る。
「あぁぁぁ、もう! 何がどうなってんだよ、畜生ぉぉー!!」
クロニカはガルーダのハンドルを思い切り握り、砂煙に紛れながらその場を離脱した。
「ああっ、待ちやがれっ!」
「逃がすかぁー!!」
……ヒュウウウウウ
「ん、何の音だ?」
「あれ、兄貴! 何か空から降って……」
────キュドドドドドドンッ!!
「ぎゃあああああああああああああああ!!」
クロニカを追おうとしたバギー達に超小型ミサイルが殺到する。
「ううううーっ、何で裸なんだよぉー! オレの服は何処行ったんだよぉー! 何で女の体になってるんだぁー! ふざけんな、くそったれぇええー!!」
ガルーダに内蔵された小型ミサイル・ポッドを閉じ、更にスピードを上げて疾走する。あまりエトに向けて放っていい武装ではないが、平静を失った彼にそれを問うのは酷だ。
「畜生ォォー! やっぱり、アイツら殺しておけば良かったァァァァー!!」
クロニカは乾いた荒野の風に吹かれながらひたすらガルーダを走らせた……
◇◇◇◇
(……)
(……此処は?)
気がつけば白い兜の意識は深い闇の中にあった。
(……僕は、一体……)
ザ、ザザ……ザ……
(何だ、このノイズは……)
ザ、ザザザザザザ……ザーッ……
(くっ、頭が割れそうだ……)
彼の頭に酷いノイズが走る。そのノイズは時間が経つにつれて激しさを増し、ついには何かの叫び声のように聞こえてしまうまでになった。
ザァァァァァ、ザッ、ザザザ……ザーッ!!
(や、やめてくれ……! 頭が、頭が割れる……!!)
ザァァァァァ……アッ、アッ……アッ! アアッ! アアアアアアアア!!
(何だ、何だこれは……! ノイズ……? いや、これは……!!)
────アァァァァアアア! アアアア、アアアアアアアアアアッ!!
やがて不快なノイズは大勢の女性の叫び声のような悍ましい怪音へと変わり……
(この、声は……っ!!)
不気味な叫び声がハッキリと聞こえた瞬間、彼を包んでいた闇が晴れる。
……ベタッ
……ベタ、ベタベタ
ベタベタベタベタベタベタベタベタッ
そして闇が晴れた彼の視界は、無数の白い手に埋め尽くされた。
(う、うわぁぁぁぁぁぁっ!!)
彼を包み込む白い手はギリギリと音を立て、彼の頭を引きちぎろうとする。
(や、やめてくれ! やめてくれっ! 僕の頭がっ、頭があっ!!)
ブチ、ブチブチブチブチ……
(やめろぉおおおおおおおっ!!)
抵抗も虚しく、彼の頭は白い無数の手に引きちぎられてしまう。
〈だから……言ったでしょう?〉
(……)
〈●●●●●●●……〉
引きちぎられた彼の頭部をそっと撫で、何者かが優しく声をかける。
〈あなた達は、私達に勝つことは出来ないと……〉
まるで彼を憐れんでいるような何者かの声が聞こえると共に、彼の意識は遠のいていった……
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!!』
白い兜は叫びながら目を覚ます。
「きゃあああああっ!?」
『うわああああああっ!?』
「い、いきなり何よ! ビックリさせないでよ!!」
白い兜が目を覚ました場所は、見知らぬ工具や謎の部品で埋め尽くされた部屋の作業台だった。
『い、今のは……夢……!?』
「クロニカー! ちょっとこっち来て! コイツ目を覚ましたわよーっ!!」
『はっ! 君は誰だ!? 僕は、僕はどうなったんだ!?』
「クロニカ! ちょっと、クロニカー! 早く来なさいよー!!」
クロニカの知人である魔動技師のレイコは慌てた様子で彼を呼ぶ。
「あ、来た来た! もー、呼んだらさっさと来てよね!」
「……」
『き、君は! 無事だったのか!!』
部屋の外からブカブカな作業着姿のクロニカが現れる。彼は目を覚ました白い兜をジッと見つめながら近づき……
「……」
『……? ど、どうかしたのか?』
「ふざけんな、テメェこの野郎ォォォーッ!!」
『ギャアアアアアッ!?』
鬼のような形相で白い兜を思いっ切り蹴り飛ばした。
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