呼ばれなくてもヒロインをどこまでも追いかける相棒の鑑。
「おおーっ」
『わぁ……凄いな』
クロニカとポンコツは聖都セフィロトへの大型直通列車【テンペランス・パス】を見て目を丸める。
「でっけー……」
『こんなに凄い乗り物は見た事ないよ。僕の知っている列車とはまるで違う……!』
その長さは300ブレイルを優に超え、機関車と電車が一つになった様な独特ながらも洗練されたフォルムにクロニカ達は息を飲む。
『本当にこんな凄い乗り物に乗れるのかい?』
「ああ、それもそこそこイイ席でな!」
『お、お金とか大丈夫だったのか?』
「おうよ、あの街でファンタズマの素材が高く売れたらしいからな!」
クロニカはレイコに渡された布財布をサイドポーチから出して誇らしげに胸を張る。
『おおーっ』
「レイコと半々で分けてもこの量だ。頑張った甲斐があったなー、ホントに」
《間もなく発車致します》
「おっと、早く乗らねえと!」
クロニカは急いで列車に乗り込む。彼の購入した乗車券は最後尾である八号車のA8、前寄りの窓際席だ。
「ふー、危なかった」
『えーと、僕達が座るのはあの席かな?』
「A8席だな。その場で買える乗車券だと一番いい席だ」
『もっといい席もあるのかい?』
「S席っていう個室席もあるんだが、一般のエトは事前に予約してないと取れないんだ。ま、オレ達には十分だろ?」
午後2時頃、列車の固定具が解除されてクロニカ達を乗せたテンペランス・パスがセフィロトに向けて発車する。
『そう言えばガルーダは何処に停めたんだ?』
「ん、街の正面入り口に迷彩状態で置いてきた。普通のままだと目立ちまくるからな」
『確かに……でも残念だね。折角元通りになったのにガルーダはお留守番か』
「仕方ねえだろ、ガルーダは列車に乗れねえんだから」
サメフの街に残されるガルーダを可哀想に思いつつ、クロニカは駅で購入した弁当を膝上で広げる。
「んじゃ、ちょっと遅いけど昼飯にしようぜ」
『おおっ、これはまた美味しそうだ!』
「ポンコツはあんまり食うなよ? お前は食べなくても大丈夫なんだからさ」
『そ、そんなっ!』
「へへん、冗談だ。お前の分も買ってるよ!」
クロニカは隣に置いたポンコツの分の弁当も取り出して彼に差し出した。
『わぁい!』
「ポンコツも結構食べるよなー。聖異物の癖に」
『僕も最初はビックリしたけど、慣れた今だと感謝してるよ。皆がご飯を食べる中で僕だけ食べられないなんて辛いからねー』
「確かになぁ」
彼が購入したのはサメフ駅名物のカポシス弁当。カポシスと呼ばれる鹿に似た動物のステーキとデウス芋のサラダ、マカロニに似たパスタのクリーム和えが入ったボリューム満点の弁当だ。
「んー、うめー! やっぱり肉が一番だなー!」
『もぐもぐもぐっ』
「列車の中でのんびり景色を見ながら贅沢に肉が食えるなんてな。ちょっと前の生活からは考えられねえや」
『もぐもぐ……んぐっ。そんなにキツイ生活だったのかい?』
「もぐっ、そこそこなー。命賭けて遺跡に潜っても碌な稼ぎにならなかったり、見つけた宝を横取りされたり、守護者が倒せなくて逃げ帰ったり……」
ポンコツと出会うまでの綱渡りな生活を回想してクロニカはホロリと涙を流す。
「……お前に会えて良かったよ、本当に」
『……大変だったんだね』
「そういや、ポンコツはオレの記憶を見て言葉とか色々覚えたんじゃないのか? その割にはまだまだ知らない事多いみたいだが」
『んぐっ。そ、そうなんだよね……』
クロニカとの最初の変身の際にポンコツは彼の記憶を覗いた。しかしそこから得られた知識は僅かなもので、この世界に関する知識や情報はまだまだ少ない。非常時だから必要最低限の情報しか吸い上げなかったのか、何らかの不具合で情報収集が完了しなかったのかは不明。
『でも、そこまで深くは覗けなかったよ。君から教わったのはこの世界の言葉くらいのものさ』
「言葉だけかぁ……それでも教える手間が省けるだけ大分助かるんだけどな」
『そういうクロニカも僕の記憶を見て、僕の世界について何かわかったんじゃないのかい?』
「んー、一応覗いたといえば覗いたんだが……殆どノイズばっかりでよくわからなかったんだよな」
『やっぱりか……』
一方、クロニカの方もポンコツに関する情報は殆ど得られなかった。
「次に変身した時に改めて試してみるか? 最初と違って、本気を出せるようになった今ならもしかしたら……」
『そうだね、後で試してみよう』
「わーっ、何あれー!」
「すげーっ! ねぇ、ママ! あれ見てよー!!」
「まぁ、あれは何かしら!」
『……ん?』
ふと後ろの席が騒がしいので、気になったポンコツは窓の外を見る。
『……クロニカ』
「我慢しろよ、ポンコツ。子供はこういうのに乗ると燥いじゃうもんなんだよ」
『あの、外を見てくれ……あれって……』
「ん、何だよ?」
ポンコツに言われてクロニカも外を見た。すると……
「……あれぇ?」
見覚えのある灰色の駆動機が、煌めく青い粒子を吹かしながら猛スピードで列車を追いかけて来ていた。
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