「加勢に来たぜ、旦那ーっ!」
クロニカがレントを呼び起こそうと必死になっている時にコーザがやって来た。
「……あれ?」
「あっ……コーザさん!」
「旦那?」
コーザは動かなくなったレントを見て表情を変えた。
「ちょうど良かった! すぐに村の医者を呼んできてくれ、ファンタズマはもう倒されたから……!」
「……」
「何してんだよ! 早く医者をっ!!」
何も言わずにクロニカを押しのけ、レントの首筋に指を当てる。
「……何だぁ、旦那。カッコつけた割に……俺が来るまで持たなかったのかよ」
そして呆れているとも、残念がっているともつかない複雑な笑みを浮かべて呟いた。
「おい! 医者を呼べって」
「いんや、いらねーよ。必要なのは医者じゃなくて牧師さんだな……いや、目の前にシスターがいるからもういいか」
「……アンタまで、何言って」
「うるせーな、察しろや」
コーザは未だに彼の死を受け入れられないクロニカに言う。
「こんな有様になってまだ生きてるエトが居るかよ。馬鹿か、おめーは」
「……!!」
「おら、いい加減にその腕を放せ。血みどろになってきったねーの。シスターの格好してるくせにそんな汚れた手で神様に祈る気か??」
強引にレントの腕からクロニカの手を引き剥がし、彼のマントで血を拭いて強引に組ませる。
「……!?」
「……じゃあ、祈れ」
「オ、オレはシスターじゃ」
「いいから祈ってろ。俺はファンタズマの死体を確認してくる」
「コーザさん……!!」
「うるせー、祈れ。その服燃やすぞ? 神様が嫌なら、旦那の為にでも祈れや」
コーザはクロニカを置いてその場を後にする。
『……あの男なりの別れのつもりなんだろう』
「……ッ!!」
『祈り方を知らないなら手を組んで黙祷するだけでも十分さ。君はシスターじゃないんだから』
ポンコツは戸惑うクロニカに言う。クロニカはレントとコーザを交互に見た後、ギュッと口を噛む。
「……白き、主よ。我らが父よ……今、一人の御子が御身の元へと旅立ちました。どうか……無限の愛で、永遠の温もりで……彼の者を、包んで頂けますよう……」
彼は震える声で祈りを捧げる。
シスター・ソロネから教え込まれたものの、決して口には出すまいと誓ったデウス教の祝詞。あれだけ忘れようと思っても頭から抜けきらなかった大嫌いな神へ捧げる祈り。
「勇敢な彼の者に、どうか永久なる安らぎを……」
神を嫌うクロニカはレントの為に祈った。
「……アーニマ」
そして、自分をこんな惨めな気分にさせてくれる白き神への嫌悪をより一層強めた。
『……ちゃんと祈れるじゃないか、クロニカ』
「……うるせー。もうこれっきりだ」
クロニカはポンコツを抱えて立ち上がり、星が覗く夜空を睨みつける。
「自分を恥じるな? こんなオレを見ても同じこと言えんのかよ」
『レントなら言うさ』
「冗談だろ、オレは」
『本当に君は自分を認められないんだな。君の祈りはレントの為のものだろう? その祈りで彼は神の元に旅立ち、その魂は救われるわけだ。この世界の宗教について詳しくは知らないけど、大体どこの世界も似たような考えだろう。違ったらゴメンね』
「……」
『なら君はシスターや子供達だけじゃなくて彼も救った。それは誇っていいことじゃないのか?』
ポンコツはクロニカに言った。クロニカは黙って空を見つめ、ポンコツを抱える手にギュッと力を込めて呟く。
「そこまで言われたら……もう、しょうがねぇなぁ……」
張り詰めていた表情を崩してクロニカはぎこちない笑顔を作り、空に向かって精一杯胸を張ってみた。
「はぁ、これはこれは……」
コーザは礼拝堂で横たわるファンタズマの死体を前に頭を掻いた。
「どうやったらこうなるんだ? 誰か説明してくれるか?」
「えーっとね! クロニカ姉ちゃんがね! こう、ドバーンて!!」
「いや、バゴーンだよ! こう、尻尾をブチッといってさぁ!!」
「凄かった! 凄かったの!!」
「そっかー、うーん。凄いねー」
説明を求めたものの、全く要領を得ないミーナ達の証言にコーザは目頭を押さえる。
「クロニカちゃんがねぇ……」
「クロニカ姉ちゃんがね! 天使様になってー!!」
「えーと、ゴメン。そろそろ真面目な話を」
「この子達の言葉は全て真実です。信じ難いでしょうが……黒き子はクロニカの手で滅ぼされました」
未だ興奮が収まらないミーナを抑え、シスター・ソロネはコーザに言う。
「はぁ……どうやって? 言っておくけど俺はプロだからね? 適当な事を言って誤魔化してもバレるよ?」
コーザはサラマンダーでファンタズマの死体をコンコンと突きながらシスター・ソロネを問い詰める。
「俺達が今までどんだけ命がけでファンタズマと戦ってきたと思う? コイツらはな、そう簡単にくたばらねえの。不意打ちでもなけりゃ碌な武器のないエトが一人で倒せるような奴じゃねえの。クロニカちゃんの事はアンタほど良く知らねえけど、あの子がちょっと喧嘩強いだけの可愛いド素人ってくらいひと目見たらわかるよ? そんな子がどうやってこの化け物を」
「アーサル・マキナです」
「は?」
「あの子は、アーサル・マキナが扱えるのです」
シスター・ソロネが口にした『アーサル・マキナ』という名前にコーザは固まる。
「……はっ! はっはっ! ははははははははっ!!」
暫く硬直した後、コーザは目を押さえて爆笑した。
「ははははっ! 何言ってんだよ、アンタ! アーサル・マキナはただの作り話! 浪漫ある伝説の類だぜ!? 俺はこの仕事をして長いけど、そんなの持ってる奴は見たことねぇ!!」
「……ですが、事実なのです」
「あー、はいはい! わかった! じゃあ証拠を見せてくれる!? 本当にクロニカちゃんがそのアーサル・マキナの持ち主ならー!!」
『証拠ならもう見ただろう?』
嘲笑するコーザにポンコツが声をかける。コーザが振り向くと、そこにはポンコツを抱えたクロニカが立っていた。
『僕がその証拠だ。自分でも納得している訳じゃないけどね』
「……!?」
「まぁ、オレが一番驚いてるんだけどさ……」
クロニカは動揺するコーザを前にして少し言葉に詰まったが、すーっと息を吸って覚悟を決める。
「……その化け物を殺したのはオレだ! オレがコイツと、この拳でブッ殺した!!」
コーザに握りしめた拳を突き出してクロニカは正直に告白した。
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