ここから本編になります。シュワッとしたコーラと一緒にどうぞ。
────ヴォォォォォ……ン
まだ朝日が昇りきっていない明朝の荒野を灰色の多輪駆動機が駆け抜ける。
「うー、やっぱり冷えるなぁ! チクショー!!」
青い排出光を吐き出す多輪駆動機に跨るエト族の少年は鼻声で愚痴を言った。
「本当にこんな所に遺跡なんて在るのかよ!? 一面、赤い砂と岩しかないぞ!!」
『……ザ、ザザ……、な……n……よ、アタシの情報が、信じられないっていうの?』
少年が被る簡素なゴーグル付きヘルメットからノイズ交じりの声が聞こえる。
「信じたいけど、教えてもらった地点ってこの辺りだよな!? 何にも見えねーぞ!?」
『ザ……もうすぐ、わかるわ。そ……日の光が当たって……ザー……』
「もしもーし! 聞こえねーぞ、もっと大きい声で」
『ザ、ザ……いいから、黙ってバイク走らせろ! 冴えない遺跡荒らしから卒業したいならね!!』
「……ッ! ああ、わかったよぉー!!」
少年は彼女の言う通りに多輪駆動機を走らせる。
「クソッ、レイコめ! オレだって好きで嫌われ者やってんじゃねーんだよ! 今に見てろよ!!」
苛立つ彼の背後から昇る朝日が薄暗い荒野を照らし、赤色の砂と岩が鈍い鉄色を帯びていく……
『そろそろ現れるわよ、クロニカ』
「何が!?」
『ザ……腰抜かすんじゃ、ないわよ?』
何もなかった筈の荒野に朝日が注いだ瞬間、まるで幻のように揺らめきながら巨大な遺跡が現れた。
「な、ななななっ!?」
『驚いた? こういう仕掛けよ……見つけられたのは本当に奇跡って奴ね』
「何だ!? いきなり遺跡が現れたぞ!? どうなってるんだ!?」
『細かい説明は後よ! 急いで遺跡内部に入りなさい! 朝日が登りきったらまた消えちゃうわ!!』
「はぁっ!?」
『いいから急げ! 一度消えたら次の朝日が昇るまで待つ羽目になるわ! そういう仕掛けになってんのよ!!』
「ああ、くそっ! わかったよぉー!!」
クロニカはハンドルを捻って多輪駆動機のスピードをあげる。鷹の目にも見える鋭いヘッドライトに青色の光が灯り、更に激しい光をマフラーから吐き出して疾走した。
「到着したよ、レイコ」
『……ザ、ザザザ、ザッ……』
「レイコ?」
『ザザ……ぁ、ごく……ま、き……け……』
遺跡前に着いてから通信機のノイズは更に激しさを増し、レイコの声は殆ど聞き取れなくなっていた。
「まぁ、終わってからまたかけ直せばいいか」
クロニカはため息交じりにヘルメットを脱ぐ。金糸のような髪が風になびき、目に入る邪魔な前髪を鬱陶しげに掻き上げて遺跡を見上げた。
「しかし、こんなデカい遺跡が今まで手付かずだったとはねぇー……これはこれは」
クロニカは徐ろにサイドポーチから探知小刀を取り出して地面に突き刺す。
「久々に大当たりが期待できそうだ!」
突き刺された探知小刀の持ち手が展開し、内部から小型のアンテナが現れる。アンテナの先端はリズミカルに点滅し、目に優しい青い光はまだ周囲にクロニカ以外の生体反応が無いことを知らせていた。
「よーし、今の所は順調だな」
もう一本、先程よりも大ぶりな探知小刀を取り出して少し離れた場所に突き刺す。
「さーて、行きますか。オレの明るい未来の為に……」
クロニカはまるで大型動物の脚や甲虫の殻にも見える多輪駆動機の大きなフロントカバーをコツンと叩く。
────ガションッ!!
カバーは勢いよく展開し、内部から彼の武器を収めたウェポンラックが迫り出した。
「今日はコイツと、コイツだな」
クロニカは幾つかの武器から錆色の大剣型武器【ブレイクル】と、大口径電磁弾を撃ち出す銃型武器【コヨーテB】を選んで装備する。
「おっといけね……忘れるところだった」
そして、武器の中で最も小さな自決用ナイフを取り出してカバーを閉めた。
「……生きたままアイツらに食われるのは、ゴメンだからな」
ポキポキと手を鳴らし、気合を入れてからクロニカは一歩踏み出す。
「もういいぞ、ガルーダ。姿を消して何処かに隠れてろ」
〈ヴヴヴッン〉
「もしオレが死んで帰ってこなかったら好きな所に行けよ。でも、もしオレがまだ生きててお前に助けを求めたらすぐに来てくれ。頼むぞ、相棒?」
〈ヴーン〉
「はっはっ、お前は本当に頼りになるよ」
クロニカの頼れる相棒【ガルーダ】は鳴き声のような駆動音を立て、装甲を透明化して周囲に溶け込んだ。
「……やべっ、薄っすらと遺跡が見えなくなってきた! 急いで中に入らねぇと!!」
クロニカは防塵マスクを着けて走り出す。
破損して開きっぱなしになった正面扉から内部に侵入し、近くの大きな柱の裏に身を隠してからすうっと息を吸った。
「……有毒なガスは発生してないな。まずこれで最初の賭けに勝ったと」
遺跡に入った瞬間に未知の毒ガスや光線トラップで即死しなかった事に一先ず安堵し、クロニカはポーチから取り出した偵察球と呼ばれる金属のボールを遺跡の奥に向けてポイと投げる。
「それで……オレの周りはどうなってるのかな?」
続いて左手に装備したガントレット型の旧式仮想地図装置を起動。装置から半透明のパネルが浮かび上がり、クロニカの周囲50ブレイル圏内の情報が表示される。
「へぇ、この入り口付近の防御機能は殆ど死んでる。いいね、二つ目の賭けにも勝ったぞ」
クロニカはコヨーテBのマガジンをチェック。
「……よし、こっちもバッチリだ。今日のオレはしっかりしてるな」
ちゃんと大口径電磁弾が装填されている事を確認し、以前よりも成長している自分を褒めた。
「さて、三つ目の賭けは……この遺跡の守護者がオレの手に負える相手かどうかだ」
そして傷の目立つ無骨なフォアエンドを引き、再び大きく息を吸って彼は立ち上がった。
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