「あー、えーと! そうだ、コイツ! コイツを直して欲しいんだ!」
〈……ご命令を〉
「おい、コイツだって! ちょっと気持ち悪い見た目になってるけどさ! ここなら直せるだろ!? 直してやって」
〈……ご命令を〉
「えーと」
〈……ご命令を〉
白い守護者は延々と同じ言葉を繰り返す。クロニカはガルーダを指差して直してくれと何度も頼むが、守護者は全く反応しない。
〈……ご命令を〉
「ああくそっ! 何だよ、コイツ! 壊れてるんじゃねーのか!?」
『クロニカ。僕を持って彼の前に立ってくれるかい?』
「え? ああ……わかった」
ポンコツの言われる通りに彼を持ち上げて白い守護者に見せる。
〈……ご命令を〉
『彼を元通りに修理してあげて欲しい。この施設なら直せるはずだ』
ポンコツは古代語で白い守護者に話しかける。
〈……〉
「え、え? 何て言ったんだ? ポンコツ?」
〈……了解しました、マスター〉
ポンコツの言葉を命令と認識した守護者はガルーダに近づいてその表面にそっと触れる。
『ど、どうなったの!? 何か、こっちに来たんだけど!?』
『大丈夫だ、レイコ。どうやら彼は君達の言葉を認識出来ていなかっただけらしい』
「な、なるほど……」
〈……確認、識別コード【KR-001a】……機体名【ガルーダ】。損傷レベルは【D-】……修復可能〉
「!?」
『!?』
〈……おかえりなさい〉
白い守護者からガルーダの名前が出されてクロニカ達は驚く。それだけでなく守護者は機能停止したガルーダの装甲を撫で、まるで彼の帰還を喜ぶような優しい声色で言った。
〈……此方へ〉
くるりと身を翻して守護者は通路の奥に進んでいく。真っ暗だった通路には彼らを歓迎しているかのようにポツポツと明かりが灯り、その幻想的な光景にクロニカは息を呑む。
「……」
『……行こう』
「あ、ああ……行くぞ、レイコ」
クロニカ達は白い守護者の後ろを着いて行く。
何千年も放置されていたにも関わらずこの通路は綺麗な状態で保たれており、様々な遺跡を見てきたクロニカも思わず目を輝かせながら古代技術の結晶に見惚れていた。
「すげぇ……」
『こんなに綺麗な遺跡は見たことないわ……! ああ、今からでも降りていこうかしら!!』
『……確かに凄いな。僕も目の前の光景が信じられないよ』
「ははっ、お前が生まれた時代の建物だろ? お前が驚いてどうすんだよ!」
『い、いや……僕には記憶が無いんだよ!? 驚くに決まってるじゃないか!』
通路を抜けた先には大きな丸い扉があった。白い守護者は扉の前で立ち止まり、再びクロニカの方を向く。
〈……〉
「ん、どうした? 立ち止まったぞ?」
『君も扉の前に立ってみてくれ』
「……」
クロニカはおっかなびっくり扉の前に立つ。大丈夫だと心ではわかっていても、今までの経験からどうしても身構えてしまう。
「……よし、立ったぞ。ここからどうすればいいんだ……?」
ビッ!
「うおっ!?」
扉の上に設けられた球体センサーから青い光線が放たれる。その光線はクロニカの身体を入念に調べ、全身を調べ終えてから丸い扉がゆっくりと開かれていく。
「はぁ……寿命が縮むよ。他の遺跡だったら死んでたんじゃねーかな」
『他の遺跡がどうなっているのかはわからないからね。いつか僕も行ってみたいよ』
『わぁ……凄い! 何よこれ! こんな大掛かりな設備は今まで見たこと無いわ……!!』
ガルーダに取り付けられたカメラ越しに様子を見ていたレイコは感極まり、タランテラを動かして我先にと扉を潜る。扉の先にあったのは巨大なアームや自動で動く工具に大型のハンガー等、現代を遥かに上回る技術で造られた全自動の機械整備室だった。
「はえー……」
『これが【修理工房】か。ここなら壊れたガルーダも直せるだろう』
「す、すげえ……」
『あっあっ! ちょ、ちょっと! 何すんのよー!?』
不意に聞こえてくるレイコの悲鳴。何事かとクロニカが進むとガルーダが巨大な機械アームに持ち上げられていた。
「わー」
『クロニカーッ! ちょっと今どうなってんのー!?』
「んとな、何かスゲーのに持ち上げられてるぞ」
『あっ』
ワキワキと動くタランテラの脚が邪魔なのか、巨大アームの支柱から数本の小さな作業アームが現れてその脚を次々と切断していく。
『ちょっとおおおーっ! 何してんのよぉおおーっ!?』
「あー」
『あーあ』
『ちょっとアンタ達、止めなさいよ! 私の、私のタランテラがバラバラになっちゃうでしょぉー!?』
「止めろって言われても……なぁ? ポンコツ」
『僕たちにはどうすることも出来ないよ……哀しいけど、タランテラはその役目を全うしたんだ。うん、立派だったよ……本当に』
『いやぁぁああーっ! タランテラーッ!!』
無慈悲に切り落とされるタランテラの脚を見つめながら、クロニカとポンコツは静かに黙祷した……
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