「何だよ?」
『あれ、確かに今……天使が目を開いて』
「そんなハズないだろ。天使はエトにそっくりなだけの電池みたいなもんだぞ? ただずっと眠ってるだけで動かないし、喋りもしないんだ」
『……』
《聖都セフィロトへの直通列車【テンペランス・パス】はあと15分で発車致します。ご利用の方は……》
「おっと、急がねえと!」
クロニカはポンコツを抱えて売り場へと急ぐ。
(エトに似ているだけの電池……本当にそうなのか?)
ポンコツには見開かれた天使の瞳がしっかりと焼き付いていた。
機械の体となった今の彼に見間違いなどありえない。現に一度見た光景は頭部のデータベースに保存され、何度でも見返すことが出来る。開かれた虚ろな瞳にハッキリと光が宿る瞬間を。
『クロニカ』
「何だよ、ポンコツ?」
『セフィロトにも天使棺はあるのかい?』
「そりゃエトの街で一番大きい所だからな。そこらに沢山置いてあるぞ」
『そうか……じゃあ少し確かめたいことがあるから、また僕を天使棺の前まで持っていってくれるかい?』
「……別にいいけど。何だよ、そんなに気に入ったのか?」
『え、いや……そうじゃないよ。ただ気になることがあって……』
「ふーん?」
天使棺を見てから少し様子がおかしくなったポンコツにクロニカは目を細める。
「言っておくけどな、天使は女の姿をしてるけど女じゃないからな」
『? あ、ああ……わかってるよ』
「いくら裸だからってアレで興奮するのはどうかと思うぞ」
『……違うよ? そんな目で見てないよ? 見てないからね!? 勘違いしないでよ!?』
「で、どうだった? あの天使はお前の好みだったのか? 今のオレより美人か?」
『クロニカ!?』
「あー、いいよいいよ。お前も男だって事だな。でも、そんなお前を天使棺まで運ぶオレの気持ちを察してくれよ? 女の裸なんて風呂でいくらでも」
『クロニカーッ!!?』
とんでもない勘違いをするクロニカにポンコツは涙目で突っかかった。
◇◇◇◇
「……そうですか、わかりました。では、貴女もお気をつけて」
アクリ村のシスター・ソロネはため息混じりに電話を切る。
「もう、本当に困った子ですね。寄り道するなら先に伝えてくれればいいのに……」
電話の相手はレイコだ。そろそろ帰路に着いた頃かと思いきや、まだセフィロトに着いてすらいないと聞いてシスター・ソロネは憂鬱げな表情になる。
「……何も起こらなければ良いのですが」
今、聖都セフィロト付近で【教徒殺し】と呼ばれる犯罪者が出没して多くの被害者が出ている。
教徒殺しが現れるようになったのは数ヶ月前。デウス教の教徒ばかりを狙って惨殺し、デウス教徒でなくともそれに与する者、その場に居合わせた目撃者までも襲う危険人物。デウス教本部が擁する【聖都守衛騎士団】によって倒されたと言われていたが、数日前から再び姿を現すようになったという。
聖都守衛騎士団によるとかつては禍々しい漆黒の魔動鎧を纏った騎士の姿だったが、現在の姿は不明。その姿を見たものは例外なく殺されてしまうからだ。
「……」
「シスター! 今日はクロニカ姉ちゃん帰ってくるー!?」
クロニカ達を心配するシスター・ソロネにミーナが声をかける。
「残念ながら、帰ってくるのはもう少し先になるそうです」
「ええーっ!」
「でも大丈夫、クロニカは白き神が守ってくれていますから。無事に帰ってきてくれますよ」
「うーっ!」
「ふふふっ、そんな顔しないで」
シスター・ソロネは膨れっ面のミーナの頭をそっと撫でて困ったように笑う。
「あの子達の家は此処なのですから。必ず帰ってきますよ」
「でも、でもっ、お姉ちゃん達が居ないと寂しいーっ!」
「ふふっ、本当にね……」
「明日には帰ってくる?」
「ええ、きっと。明日には帰ってきてくれますよ。だから、あの子達が帰ってくるまで良い子で待っていましょうね」
「うん! 良い子で待ってるー!」
ミーナはシスター・ソロネの言葉を聞いてニコッと可愛く笑いながら頭の耳を大きく動かした。
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