悠久のクロノス

~神に見放された無能のオレが、白いポンコツや灰色の相棒と世界を旅するだけのお話~
ヨシコ
ヨシコ

ACT.54

公開日時: 2020年11月9日(月) 00:21
更新日時: 2021年2月23日(火) 12:51
文字数:2,563

『あ、アイツはあの時のっ!』


 此方を見つめる金色モヒカンの巨漢を見てポンコツは驚く。先日、この遺跡を出た時にちょっかいを出してきた男がまた現れたからだ。


「まぁ、アイツらがこの遺跡を放っておくわけねーよなぁ」

 まさかの再会に驚くポンコツとは対照的にクロニカは『そんな気がしてた』とでも言いたげな反応をする。ポンコツと違って何度もバギー達と鉢合わせて来た彼は、あの男がどういう奴なのかを嫌というほど思い知らされているのだ。


『どうする!?』

「とりあえず追っ払うしかねーな! あの筋肉バカにこの遺跡を使わせたら碌な事にならねえ!」

『よし、じゃあ僕を使え! さっさと黙らせて砂に埋めておこう!!』

「いや、待て! 流石にそれはマズイ! あんなバカにポンコツは使えね」

「エリザベェェェェェェ────ス!!」


 クロニカとポンコツが彼らをどうするべきかで話し合っていると、バギーが泣きながら猛ダッシュで此方に駆け寄ってきた。


「エリザベェェェェェェスッ!」

「うおおおおおおっ!?」

『うわあああああっ!?』

「会いたかったぜ、エリザベェェェェェェ────ブォッ!?」


 恋い焦がれたエリザベスとの運命の再会を果たし、彼女を思いっきり抱きしめようとしたバギーをシルキーが殴り飛ばす。


「ぐぼぁあああーっ!?」

「あ、兄貴ぃーっ!?」

「ホワアアアアッ!?」


 シルキーは目を赤く輝かせながらクロニカの前に立ち塞がり、バギーとその手下達に冷たい敵意を向ける。


〈……侵入者を排除します。マスターは此処でお待ち下さい〉

「えっ、あっ……はい」


 そう言ってシルキーは身を屈め、遺跡の天井近くまで一瞬で跳躍。


「て、てめぇ、兄貴に何しやがるぅー!!」

「ダッテメッ、コラーッ!!」

「オラアアアーッ!!」


 バギーの手下達は手にした銃でシルキーを攻撃するが、銃弾はシルキーにかすりもせず一気に距離を詰められる。


「はあっ!? なっ……ぶぉおっ!?」

「グワーッ!」

「ギャアアーッ!」


 手下達はシルキーの殴打で次々と無力化されていく。エトの反応速度を遥かに超えるスピードで動くシルキーを捉えきれずに一人、また一人と殴り倒され……ついにバギーのパーティは腹心のボブを残して全滅した。


「……別にオレ達が来る必要も無かったな」

『……本当だね。ところでエリザベスって誰?』

「知らねーよ」

「ひいいいいっ!」


 仲間を全員倒されてボブは情けない悲鳴を上げる。一応、彼はCランクの探索者ハンターで決して弱い訳ではない。だが、今回は相手が悪かった。


「あ、兄貴ィィーッ!」

〈……排除します〉

「アバーッ!!」


 シルキーの慈悲無き一撃でボブは気絶。あっという間に邪魔者を排除したシルキーはくるりと身を翻してクロニカ達の所に戻る。


「こ、殺してないよな?」

『全員、生きているよ。手加減してくれたのかな』

「そうか、良かった……わけでもねえな。とりあえず目が覚める前に手足を縛っておくか」


 クロニカはサイドポーチから応急処置用の結束バンドを取り出してバギー達に近づく。


『クロニカは彼らのことをよく知ってるのかい?』

「んー、まぁ昔からよく宝を横取りされたな。特にバギーっていうあのモヒカンが厄介でな、まともに戦ったら俺に勝ち目はねえんだ。でも頭は悪いから薬とかスタンガンの不意打ちで気絶させて」

「おー……、いってぇなあ……」

「おわっ!?」


 殴り飛ばされて気絶したはずのバギーがムクッと起き上がる。


『もう目が覚めたのか!?』

「あっ、やべっ!」

「……おおっ、エリザベス! 何だ、俺を心配して来てくれたのかぁ!?」

「ち、ちげーよ! てか、エリザベスって誰だよ!? 俺は」

「うおおおおおぉ、エリザベスゥー!!」

「ぎょわああああああああっ!?」


 バギーはクロニカの手をガシッと掴んでスリスリと頬ずりする。あまりの気持ち悪さに鳥肌が総立ちし、クロニカは凄まじい悲鳴を上げた。


『な、何だ、コイツっ!?』

「うほおおお! エリザベスのお手々たまんねぇー!っ!」

「いやぁぁぁぁっ!?」

「ああ、そうだ! 聞いてくれ、エリザベス! 実は俺……ッ」

〈……排除します〉



────ゴォンッ!!



 シルキーは復活したバギーの顔面を再び殴りつける。明らかな殺意を籠もった一撃を受け、流石のバギーも沈黙した……


「……おい、今、エリザベスと喋ってる途中だろ?」


 だが数秒の沈黙の後、バギーはギョロリと目を動かしてシルキーを睨む。そして華奢な白い腕をガシッと掴み、シルキーの身体を遺跡の壁にめり込む程の勢いで投げ飛ばした。


〈……損傷、アリ〉

『なっ!?』

「……ッ!?」

「おおっといけねぇ! びっくりさせちまったか、悪ィ悪ィ!!」


 一瞬の出来事に何が起きたのか理解できず、呆気にとられるクロニカの肩をバギーは優しくポンと叩いた。


「……っと、あらぁ? 何で俺の手下達が伸びてんだ?」

〈……侵入者の危険レベルの上昇を確認。至急、排除します〉

「ああー、アイツかぁ。ホンッットにだらしのねえ奴らだなぁ」

〈……排除します〉


 シルキーはめり込んだ壁から身体を引き抜き、猛スピードでバギーに接近して再び攻撃を仕掛ける。


 遺跡内に鳴り響く鈍い金属音と、メキメキと何かが軋むような異音……


「こんなヤワなパンチで伸びちまうなんて、兄貴は悲しいぜぇ……」


 シルキーの殴打を受けても怯むどころか、逆にその拳を額で受け止めながらバギーは不敵に笑った。


〈……右腕部破損、侵入者の〉

「あー? 何言ってんだ、お前?」


 バギーはシルキーの顔を大きな手で掴み、今度は固い床がひび割れる程の勢いで叩きつける。


「エトの言葉も喋れねえようなクズ鉄が……」

〈……ガッ〉

「このバギー様に馴れ馴れしく話しかけんじゃねえよ!!」


 ダウンしたシルキーを思い切り蹴り飛ばす。決して軽くない守護者スプリガンの身体はまるで人形のように軽々と吹っ飛び、ガシャガシャと痛々しい音を立てながら遺跡の床を転がっていく。


『な、何だ!? あの力は!?』

「……これがアイツの眷能ギフトだよ。頭がバカじゃなきゃ、勝ち目なんてねえ……!」


 久しぶりにバギーの恐ろしさを目の当たりにしたクロニカは冷や汗をかき、かつての苦い経験を思い出して顔をひきつらせた。


「どうだい、エリザベス! この俺の眷能ちからはぁ! 惚れ惚れするだろぉー!?」


 バギーに宿る眷能ギフト……それは一度発動すれば守護者スプリガンの攻撃をまともに受けても傷一つ付かない圧倒的な防御力を誇る【鋼鉄の肉体】だ。


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