目と目が合う、その瞬間に
「なん……っ!?」
────ザザッ、ザッ……ビーッ……
白い兜から伸びるコードが額に刺さった瞬間、クロニカの頭にノイズ混じりの声が響いた。
────ザザ、君は、……
────此処は、ど……ザザッ、ザッ……私は、私……
────僕、は……ザザザザザ……
────……ビッ
頭に響き渡る不快なノイズ。はじめは激しいノイズにかき消されていたが、徐々にノイズは収まっていき……
《何がどうなってる!? 此処は何処だ! 君は誰だ!?》
やがて年若い男の声がハッキリと聞こえるようになった。
「うわあっ! あっ、頭にっ!? 何だこれッ!」
《僕の質問に答えろ!》
「えっ、あっ!? 何!?」
《此処は何処だ!?》
「え、知らない! 遺跡の中だと思う!!」
《遺跡!? 遺跡って何だ!?》
「えーと、何かお宝とかが眠ってる大昔の建物……かな?」
《待て待て! 宝!? 大昔の建物!? ちょっと待て、どういう意味だ!?》
「オレに聞かれても困るよ!」
いきなり額にコードを突き刺され、脳内に直接語りかけられるという意味のわからない状況にクロニカは混乱するが、それは白い兜の方も同じだった。
《ぼ、僕の身体に何が起きたんだ!? どうして僕はこんな所に居るんだ!? 手は!? 足は!? 僕の身体は何処に行った!? あと、僕から伸びてるコレは何!?》
この白い兜にも、今の状況が全く理解出来ていないのだ。
「はぁ!? オレが知るかよ! ていうかいい加減にコレを抜けっ! 気持ち悪い!!」
《くそう、何がどうなってるんだ! 今は星暦何年!? その前に此処は地球だよね!?》
「セイレキって何だよ! チキュウって何だ! デウス語を喋れよ!!」
《デウス語って何だよ!? 君、日本人じゃ……あれ、いつの間にか君の言葉が解るようになってる》
「あ、本当だ……って待て! その前にどうしてお前は喋れるんだ!? 喋れる聖異物なんて聞いたこと無いぞ! あとニッポンジンって何だ!?」
《アーティファクトって何だ! 君こそ日本語を喋れ! それと日本人は日本人だよ! ジャパニーズピーポー! 知らない!?》
「知るか! オレはエト族だ! ニッポンジンだか、ジャポネーゼポーポーだかいう意味わからん種族じゃねえ!!」
《エト族!? 何だよ、それ! 聞いたこと無いぞ!?》
「こっちの台詞だ、コノヤロー!!」
コードで繋がった二人は暫く会話のドッジボールを続けていた。クロニカは額のコードを引き抜こうとするが、ピッタリとくっついて全く離れない。
「ぐああああ! くそぉー! 取れねぇ! こんな事してる場合じゃねえのにぃー!!」
《一体何が起こってるんだよ! 僕はただ彼女が待ってる家に帰ろうとして……あれ、僕の家は何処だっけ? 彼女? 誰のことだ……? 僕は……》
「あーもー! うるせぇ! ファンタズマが来てるんだよ! 早くこれ外せ、逃げられないだろうが!!」
《ファンタズマ? 何だソレは……あれ、ちょっと待って》
白い兜が目を青く発光させる。すると部屋の壁に大きなパネルが幾つも浮かび上がり、遺跡内部の様子が映し出される。
「うおおおっ!? 何だこれ!」
《……えーと、施設内のデータベース……いや、違う。何々? 防衛システム? 防衛用オートマータ起動プロトコル? よくわからん》
「な、何をしてるんだ!?」
《よくわからん》
「はぁ!?」
《でも……どうやら僕はこの建物のシステムに介入出来るみたいだ。説明が難しいんだけど、僕の目には今この建物に関する情報や制御コマンドがズラッと表示されてる》
「何!? 何だって!?」
《まぁ、僕にもよくわからないんだけど。僕はこの建物を自由に操作出来るみたいだよ》
白い兜が惚けた声で発した一言にクロニカは目を見開いて硬直する。
「……」
《おーい、聞いてるかい?》
「じゃあ、その……えーと……お前は、この遺跡の機能を好きなように動かせるのか?」
《そうみたいだね。僕も驚いてるよ》
「……それじゃ、ちょっと頼んでもいいか?」
クロニカは地面に転がっていた白い兜を拾い上げる。
《な、何だよ? ちょっと、顔が近いぞ……!?》
「今すぐ、この遺跡の防御機能と守護者を全部叩き起こしてくれ!」
照れくさそうに瞳を逸らす白い兜に、クロニカは藁にもすがる思いでお願いした。
「早く! ファンタズマがこの部屋に来る前に!!」
《と、ところでファンタズマって一体何……》
「いいから早く! そいつがここまで来たらオシマイなんだよ! お前はこの遺跡を操れるんだろ!? だったら直ぐにでも」
〈ヴァオオオオオオオオオン!!〉
遺跡に響き渡る野獣のような咆哮。
クロニカは思わず飛び上がりそうになり、無意識の内に白い兜を抱きしめた。
「だぁぁぁっ! は、早くしろぉーっ!!」
《な、ななな、何の声だ!?》
「だから、ファンタズマだよぉ!!」
クロニカは壁の大きなパネルにハッキリと映し出された黒い怪物を指差して言う。
《はぁぁっ!? 何だアレ!? か、かか、怪物だぁぁーっ!!》
白い兜は目が飛び出さんばかりの勢いで仰天し、クロニカの腕の中でガタガタ震えだした。
「おい、聖異物の癖に驚いてんじゃねえよ! 早くアイツを何とかしてくれぇ!!」
《な、何とかって! 僕は何をすればいいの!?》
「いいから、この遺跡の機能を全部動かせぇー! 全部だぁ! 出し惜しみするなぁぁー!!」
《わ、わかったぁー!!》
白い兜は言われたとおりに遺跡の機能を全て作動させる。
ブゥーン……
それによって今まで固く閉ざされていたこの部屋の門が、切なくなるほど静かに開いていき……
「あっ」
《あっ》
〈ヴルルルッ!〉
丁度、この部屋の前に辿り着いたファンタズマと目を合わせてしまった。
(え、あ……これ……やばい……)
強烈な殺気に当てられ、身動きが出来なくなったクロニカにファンタズマが接近する。
(……死っ……!)
彼が死を覚悟した瞬間、永き眠りから覚めた守護者達が天井から降り立ち、ファンタズマの前に立ちはだかった。
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