「……」
「どーだ、レイコ。これがコイツの本当に凄いところだ」
「はえっ?」
白銀の戦士となったクロニカの姿にレイコは腰を抜かす。
「おっ、おい、大丈夫か?」
『うん、まぁそうなるよね。大声あげないだけ彼女は立派だよ』
「え、何……? アンタ、クロニカよね……?」
「おう、オレだけど……」
「あり得ない……何よ、その姿……」
レイコには単に鎧を纏っただけでは済ませられない凄まじい物が見えていた。
「何って言われてもなぁ……、コイツを被ったらこんな風に鎧が現れて勝手に装着されるんだよ」
「……鎧? 何言ってんのよ、アンタ……それどころじゃないわよ」
「? どういう意味だよ?」
クロニカは全く気づいていないが、彼の身体は今白い兜を含めた白銀の鎧と完全に融合している。
鎧を着ているのではなく、鎧が彼の身体に新しい皮膚のように張り付き、翡翠色の謎の液体が流れる極細のパイプが血管のように張り巡らされている。白い兜に至っては彼の頭部と一体化し、外そうとすれば頭ごと引っこ抜かれてしまいそうだ。
その様は正しく【変身】……白い兜を装着したクロニカは、エトとは全く異なる別の存在へと肉体を変異させていたのだ。
(……まるで、クロニカの身体を別の何かに作り変えているみたい)
流石のレイコも眷能を解除し、目頭を押さえてしまった。
「……何ていうか、凄いわね。それ」
「……?」
『君にはどう見えたんだ?』
「とにかく凄いのが見えたわよ……」
「ふーん……まぁ、あのレイコが腰抜かすくらいだから間違いないな」
クロニカは白い兜を外す。その瞬間に変身は解除され、白銀の鎧は粒子状に分解されていく。
「んで、次に驚くのが……」
『うおおっ!?』
「コイツを被った後は、何故か服が無くなっちまうことだ」
初めて変身した時と同じく衣服を失って全裸になったクロニカは困った様子で言う。
「……何で脱げるのよ」
「オレが知りてーよ。お陰でひっでぇ目に遭ったよ!」
『いだぁっ!!』
この部屋に辿り着くまでの苦い体験を思い出して白い兜を勢いよく地面に叩きつける。
『ひっ、酷いよ!? どうしてこんな乱暴なことをするの!?』
「うるせー! お前のせいで薄ら寒い荒野の中を素っ裸で突っ走る羽目になったんだぞ!」
『ううっ……そんなこと言われても! 僕だってどうして君の服が無くなるのかわからないんだよ!!』
「そういえば私が迎えに行ってあげた時も裸だったわね」
レイコは震えながらガルーダにしがみつく全裸のクロニカを発見した時の事を回想する。
「最初は頭のイカれた痴女を拾ってどうしようかと思ったわ」
「ほら、痴女だよ!? 知り合いに痴女呼ばわりされるんだよ!? 男なのに! この悲しみがお前にわかるか!?」
『ご、ごめん! ごめんって!!』
「うーん、確かにコレは嫌な仕様ね。着ける前に服を脱げってことなのかしら」
「嫌がらせじゃねーか!」
『で、でも僕を装備するとクロニカは凄まじい力を発揮できるんだ。あのファンタズマとかいう怪物を素手で倒せるくらいの』
「はあっ!? 何ですって!?」
『うおっ!?』
レイコは思わず兜を拾い上げて問い詰める。
「あのファンタズマをクロニカが!?」
「ああ、あっという間にやっつけたな。自分でもビックリするくらいのスゲー力が体の中から湧き出てきてさー」
「冗談でしょ!?」
『いや、事実だよ』
「後でもう一度あの遺跡に行くか? ファンタズマの死体が転がってるぞ」
眷能も使わずに単独でファンタズマを倒す……それがどれだけの偉業である事か。
高ランクの探索者どころかファンタズマ退治を専門に請け負う討伐者ですら単独での戦闘は無謀だ。戦闘に適した眷能を扱う歴戦のエトが複数人で挑んでようやく討伐可能な怪物。それがファンタズマである。
「……本当に素手でやったの?」
「ああ、武器を拾う暇も無かったからな……とにかくがむしゃらにぶん殴ったら何かやれた」
『武器を持っていれば更にあっさり片付いたかも知れないな』
「あの状況で無茶言うなよ! 化け物に押し倒されて焦ってたんだから!!」
「はぁー……」
あまりにも常識を逸脱した話にレイコは頭を抱えながら椅子に腰掛ける。
「それが本当なら……アンタ、これからヤバいことになるわよ?」
「? 何でだよ」
「だって、アンタはファンタズマを素手で倒せるような化け物にいつでも変身出来る道具を手に入れたって事なんだから」
「……あ」
「もし誰かに知られたり、噂でも流されたら……」
レイコが何を言いたいのかを察したクロニカは表情がみるみる青ざめていく。
「……や、やばいよな」
「ヤバすぎよ……」
『……ど、どうするんだ?』
「うーん……」
クロニカは腕を組んで考える。
「よし!」
そして彼なりに納得できる結論を導き出し、目を輝かせながら言う。
「レイコ、こいつを買い取ってくれ!」
『ほあああっ!?』
クロニカは白い兜を一切の躊躇なくレイコに売りつけようとする。
「こんなの買い取れるわけ無いでしょ!」
だが、レイコは断固買取拒否。冷や汗をかきながら兜を返却した。
「何でだよ!? お前、どんなガラクタでも買い取ってくれるんだろ!? コイツはガラクタどころか超がつくお宝だぞ!!」
『お、おいっ!』
「値段のつけようも無いわよ! 私で何とか出来る代物じゃないわ、アンタが責任持って何とかしなさい!!」
『ふ、二人共、落ち着いてくれ! まずは落ち着いて話し合おう!!』
「じゃ、じゃあせめてコイツを買い取ってくれそうな奴を教えてくれ! 朝一番で売りに行くから!!」
『こら! 僕を売り飛ばす前提で話を進めるな! 僕を目覚めさせたのは君だぞ!? せめて記憶を取り戻すまで面倒見てくれよぉ!!』
「それはオレ以外の奴に頼め! ほら、例えば……このレイコはお前みたいなガラクタが大好きな女だから可愛がってくれるぞ!!」
「冗談じゃないわよ! 勝手なこと吹き込むな、このクズニカ!!」
「誰がクズだぁぁー!!」
「お前だよぉおー!!」
『二人共、もうやめろぉー!!』
二人は白い兜の処遇を巡って、暫くの間醜い押し付け合いを続けていた……
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