「もう限界だぁ! 叩き割ってやるぁー!!」
「あーもー! いい加減に落ち着きな!!」
「はぎゃあっ!?」
白い兜をスパナで叩き割ろうとしたクロニカをレイコはスタンガンで痺れさせる。
「はぶぶぶ……」
「全く、何歳になってもガキっぽいんだから。アイツを壊したところでどうにもならない事くらいわかるでしょ?」
「うぐぐぐ……」
「それに壊したら益々あの遺跡に行った意味がなくなるわよ? アンタ、あの兜以外に何も持ち帰ってないんだから」
「ち、ちくしょー……!」
『……す、すまない』
クロニカは地面に蹲りながら啜り泣く。そんな彼の姿に白い兜も思わず同情の念を抱いた。
「さて、本題はここからなんだけど」
『うおっ!?』
レイコは白い兜をヒョイと拾い上げる。
「アンタが目を覚ましたところで、一つ聞いてもいいかしら?」
『な、何だい?』
「アンタのこと……調べても良い?」
レイコは目を輝かせながら言った。
『えっ』
「勝手に調べちゃうのは失礼だと思って。ほら、寝ている間に身体を弄くられちゃうのは嫌でしょ?」
『え、調べるって……』
「? そのまんまの意味よ?」
困惑する白い兜をガシッと掴み、レイコは怪しく目を光らせて迫る。
『ちょ、ちょっと待ってくれ! 近い! 顔が、顔が近いから!!』
「今まで色んな物を見てきたけど、喋る聖異物なんて初めてよ。それも喋るだけじゃなくてちゃんと自我を持ってる。図鑑に載せられるレベルの大発見だわ」
「……そりゃ、良かったなー……」
「そんなの持ってこられたら……興奮するに決まってるじゃないの!!」
白い兜を作業台に乗せ、レイコは息を荒げながら両手の指をワキワキと動かす。
「うふふふふっ!」
『ま、待って!? 僕をどうする気だぁー!?』
「どうするって、決まってるでしょ! これからアンタを可能な限り分解して徹底的に調べるのよ!!」
『な、何だってぇぇー!?』
「安心しなさい! バラした後はちゃーんと元通りにしてあげるから!」
『や、やめろぉぉーっ! やめてくれぇぇー!!』
「うふふふ、でもその前にアンタの構造を少しだけ見せてもらうわね」
レイコは胸ポケットから丸い眼鏡を取り出し、震え上がる白い兜に触れて意識を集中させる。
『……!?』
「少しジッとしてて」
レイコの瞳が金色に発光する。その瞳孔には白い兜の内部が透けて映り、彼女は1分ほど黙って兜を見つめていたが……
「……何よ、これ」
レイコは思わず眼鏡を外し、驚いた様子で白い兜から後退る。
「ど、どうした……?」
「信じられない……、こんなの、見たことないわ……」
『な、何だ? 一体、どうしたんだ?』
「……コイツはヤバいわよ、クロニカ。この兜に使われてる技術は、今まで見つかったどの聖異物よりも高度……いえ、そんなレベルじゃないわ。これを技術と呼んでいいの……?」
「おい、オレにもわかるように説明してくれ……」
「あはは、無理よ。私にも上手く説明出来ないの……ここまで複雑な構造をした聖異物は初めてよ。何から何まで、私達の技術力を大きく越えているわ」
「つ、つまり?」
「私達の技術じゃ分解どころか、この兜の表面に傷一つ付けることが出来ないわね」
レイコの発言にクロニカも目を丸める。
「き、傷一つ!? そりゃ言いすぎだろ! オレが思いっ切り工具で殴れば」
「工具の方が駄目になるわね」
『そ、そこまで僕は頑丈だったのか!?』
「要塞や砦の外壁に使われる素材よりも遥かに硬いわ……、この世界でアンタに傷をつけられる物は無いんじゃないかしら」
「ファ、ファンタズマの爪でもか!?」
「多分、爪が根本からボッキリ折れるでしょうね……」
触れたものの内部を透視し、その隅々まで把握することが出来る探知系の眷能を持つレイコがそこまで言うのは初めての事だった。
「……要するに、オレはコイツを盾にすれば助かってたのか」
『……流石にそれは傷つくよ』
「ファンタズマの爪でも傷一つ付けられねえとか言われてるけど」
『傷つくのは僕の心だよ……』
白い兜は切なげな声で言う。
「……」
「何にしても、ここまでの技術が使われているんだから……この聖異物は余程特別な代物だったんでしょうね」
『……特別な代物、か』
「そうだ、レイコにはまだ話してなかったが……実はコイツ喋るだけじゃないんだよ」
「?」
クロニカはふらつきながら立ち上がり、白い兜を持ち上げる。
『お、おいっ!』
「ちょっと離れてろ、レイコ」
「何をする気?」
「はっ、驚くなよ? 本当に凄いのは此処からだぞ」
そしてクロニカは兜を装着し、再び白銀の戦士へと変身した……
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