「……アリィ、他にもまだ居るか?」
「ち、近くにいる奴は全部リーダーがやっつけました!」
怪物達を全て倒したのを確認してからアックスは大きく息を吐いて眷能を解除する。
「……ふー」
「大丈夫? アックス」
「ああ、大丈夫だ」
アックスに宿る眷能は高速化。瞬間的にスピードを1000倍に引き上げ、エトはおろか守護者やファンタズマですら知覚出来ない速度で行動する事が出来る。強力な能力だが、その分発動後の消耗が激しいというデメリットも抱えている。
〈……ギ、ギ……〉
〈グギッ……シャアアアア〉
「うわっ、まだ息がありますよ!!」
「メイリ」
「ああ、はいはい。後始末ね!」
メイリは仕留め損ねた2匹の頭部をロングバレルに改造した小銃型魔動機【ガルムL】で撃ち抜く。
「やっぱりまだ連続使用はキツいか?」
「……まぁな」
「リーダーの眷能は本当に凄いっすね! 目で追うのがやっとでしたよ!」
「普通は目で追えないんだけどね?」
「しっかし……コイツらが調査隊を襲ってたバケモンか。確かに普通のエトにはキツい相手だな」
倒された怪物をハンマーで突っつきながらドッガが言う。
彼らが受けた依頼はギーメルの街から東に進んだ所に広がる森林地帯の探索と中心部の調査。森の中心付近で巨大な反応が確認され、未発見の遺跡がある可能性が高いとして今まで遺跡調査隊や探索者達が何度も足を踏み入れたのだが未だに中心部に辿り着けていない。
正体不明の化け物に襲われた。気配を感じて振り向くと他のメンバーが全滅していた。木々の奥で巨大な影を見た……などなど不気味な報告が後を絶たず、高ランクの探索者でさえ引き受けようとしない曰く付きの依頼だ。
「……確かに見た事ない生き物ね。新種かしら」
「持ち帰ったら意外と金になるかもな」
「アリィ、森の中心部までどのくらいだ?」
「えーと……支給された地図によるとこのまま2フォートも進めば着くはずですが……」
先程の怪物達の襲撃がトリガーになったのか、今まで静かだった森の中が急にガサガサと騒がしくなる。
「……急いだ方が良さそうだな」
「え、ええと……進むんすか? 何か嫌な予感が」
「おいおい、依頼が達成出来なきゃ報酬が貰えないだろうが。たった1回襲われたくらいでもうビビったのかよ?」
「だ、だってー……」
「行くわよ、アリィ。暗くなる前にさっさと調査を終わらせましょう」
「ううーっ……」
周囲の物音におどおどしながらアリィはシルフィードを構えてメイリ達について行く。
探索者は遺跡の探索や聖異物の発掘だけでなく、常人が立ち寄れない危険な場所や未踏の地の調査を依頼主の代わりに行う事でも報酬を得られる。一攫千金を狙って未発見の遺跡探しに精を出す者が多いが、探索者ギルドからの依頼をメインに請け負う者もいる。アックスはその両方をこなしていくタイプだ。
「ていうか空から船で一気に中心部まで飛んでいけばいいのに、今まで調査した人達はみんな頭悪かったんすかねー」
「そんな夢のねぇこと言うなよ、アリィー? 探索者の名が泣くぜー?」
「空からじゃ何も見えなかったんじゃない? その反応が本当に遺跡のものとは限らないし、どの道降りなきゃ調べられないしね……」
「降りたところでさっきの奴らに襲われるとおしまいだからな。命と飛翔船を無駄にするくらいなら、いくらでも替えが利く奴らに調べて貰う方が合理的だ」
「……」
気分が一気に沈む事をリーダーに言われてメイリ達は目を細める。
「ん、どうした? お前達」
「……そんなこと言うからあたし達しか友達居ないのよ」
「もう少し……こう、ね? 言いたいことはわかりますけど、もう少し気を利かせてくださいね?」
「流石はアックス兄貴だぜ。俺じゃなきゃここで見限っちゃうね!」
「……」
事実上の最高位であるAランクにそれに見合う実力を持ちながらもアックスが皆に敬遠される最も大きな理由……それは感情を表に出さない上に 変な誤解を招く発言 を自覚なしに呟いてしまうところだ。
「……リーダー?」
「いや、何でも無い……」
「一言多い癖にそこを突かれるとすぐ凹むのが面倒くさいよなー、コイツ。メイリもよくこんな奴に惚れたよ」
「はぁ!? ちょ、何いってんのよ、ドッガ!?」
「えっ、あっ! すまん、つい……!!」
「ほわっ! 姐さんてリーダーの事が……」
「違うわよ!? あたしはコイツのことなんて好きじゃないからね!? 勘違いしないでよ、アックス!!」
「そ、そうか……すまん」
「ちょっと謝らないでよ! 余計にムカつくじゃないの!!」
「お、おい、そんなに大声出すなって! 俺はただいつお前らがくっつくのかが気になっただけで」
「あぁぁん!? どうしてあたしとアックスがくっつかなきゃいけないのよ!? あたしはねぇー!!」
ガサガサガサガサッ
森中に響き渡るメイリの怒声に釣られたのか、周囲の茂みから何かが動き回る音が聞こえてくる。
「……」
「……」
「……リーダー、囲まれました」
「……これはあたしのせいじゃないわよ?」
「……そうだな、すまん」
「だから……謝らないでって……」
〈ギシャアアアーッ!!〉
茂みから飛び出してくる怪物達。4人は直ぐに背中合わせの陣形を作り、各々の標的に狙いを定めて一斉に攻撃した。
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