「ぶぇっくしゃぁ!!」
『うおおお!?』
「うわ、きったな! もう少し気を使いなさいよ、クソニカ!!」
「し、仕方ねーだろ!? いきなりムズっと来たんだから!!」
クロニカは鼻水を拭ってスンスンと鼻を鳴らす。
誰かが自分の笑い話でもしてるんじゃないかと勘繰りながら、窓の外の景色に目をやった。
『ああ、そうだ。レイコ』
「ん、わかってるわ。先にあの遺跡に向かうのね」
「あん? どうした、お前ら」
『いや、君が武器と荷物を運んでいる間に少しレイコと話してね。聖都セフィロトに向かう前に君と出会った遺跡に寄って行こうと』
「へ? 何でだ? そんなのいつだっていいじゃねえか」
「良くないわよ、もう場所がバレちゃったんだからこのままだと他の探索者に荒らされちゃうわ。少しでも遺跡の機能が使える内に試しておきたい事があるのよ」
レイコはそう言ってセカンドブロックに降りていく。
「?」
「何ボーッとくつろいでんの、アンタも降りてきなさいよ!」
「へ!?」
レイコに呼ばれてクロニカもセカンドブロックに降りる。レイコはガレージに運び込んだ黒いビニール布が被されたナニカを指差し、ふんと鼻を鳴らす。
「……? 何だこれ」
「はー、本当に鈍いわねアンタは!」
『君の相棒だよ、クロニカ』
「え?」
レイコは黒いビニール布を乱暴にめくる。中身は既に機能を停止したクロニカの相棒、ガルーダだった。
「!? 何でガルーダが此処に!!?」
「アンタが勝手に孤児院の裏に埋めちゃうから掘り出すのに苦労したのよ? お陰で少し寝不足なんだからね。ガルーダを大事に思う気持ちはわかるけど、流石に埋めるのはやり過ぎだっつーの」
「まさか……お前、コイツを直せるのか!?」
『いや、流石に彼女にも無理らしい。でもあの遺跡なら可能かもしれない』
ポンコツは驚くクロニカを見上げる。
『彼女に直すのは無理だと言われた時にふと思い出したんだ。目覚めた時に記憶した遺跡の情報の中に【修理工房】という部屋があった』
「……!?」
『あの時はそれどころじゃなかったから流してしまったけど、少し落ち着いてから改めて調べてみると【修理工房】は破損したオートマータや機械を修理する為の場所だとわかった。其処にガルーダを運んでいけば……』
「ガルーダを修理出来るんじゃないかってことよ」
ポンコツと目を合わしてレイコはふふんと不敵に笑う。
「お、お前ら……」
「ただし確証は無いわよ。ガルーダが造られた時代とあの遺跡が建てられた時代が同じとは限らないし、話したとおりもう場所がバレてるからその修理工房が他の探索者に滅茶苦茶にされてるかも……」
『だが、少なくとも僕が目覚めた時はまだ修理工房は動いていたよ』
「……ははっ」
クロニカの顔に自然と笑みが浮かぶ。その胸は激しく高鳴り、ポンコツを見つけた時と同じくらいの興奮を覚えた。
「この、本当に……このポンコツがよぉーっ! 何で黙ってたんだ、お前ーっ!!」
『だ、だって! シスターの話とか村長とかミーナ達に遊ばれたりとか色々あって中々話す機会がなかったんだよっ!!』
「コイツぅううーっ!!」
『はわあああっ! ごめんなさい、ごめんなさい! 今度から何か思いついたらすぐに話すから! だから、強く抱きしめないでぇぇーっ!!』
クロニカの胸にむぎゅーっと挟まれてポンコツは顔を真赤にする。叩くよりもこのようなお仕置きの方がポンコツには効果的だと悟った彼は、にししと意地悪に笑いながら思いっきり抱きしめてやった。
『はふうううううん!!』
「あーあ、嫌な技覚えたわねー」
「ていうか、お前も同罪だぞ!? 何、涼しい顔してんだコラ! ポンコツはともかくお前はいつでも話せただろ!?」
「え、だってー……ガルーダ掘り出すのと運ぶのがクッッソ面倒だったからギリギリまで言わないことにしたの。アンタが男のままだったら掘り出したガルーダをバラして売ってたわ」
「お前にはエトの心がないの!?」
「でも、今のクロニカなら許してあげるわ」
レイコはそう言って意味深に笑い、ハシゴを登ってメインブロックに向かった。
「……」
『クロニカ、クロニカーッ! もう勘弁して! 僕が悪かった、僕が悪かったからぁー!!』
「あ、すまん。大丈夫か?」
『大丈夫じゃないよ! 本当に、君って奴は……!!』
クロニカの抱擁から開放されたポンコツは半泣きで彼を見上げる。
────……ザ、ザザッ、ザーッ。
その瞬間、彼の視界にノイズが走りクロニカの顔とある少女の顔が重なった。
『……あれ?』
「? どうかしたか、ポンコツ?」
『君は……』
此方を見つめる少女の顔を見つめる内に彼は何かを思い出しそうになった。
────……ザ、ザザッ……
しかしそれを思い出す前にノイズは消え、クロニカと重なっていた少女も消えてしまう。ポンコツは呆然としながらクロニカを見つめ、パチパチと青く大きな目を何度も瞬いた。
『……』
「お、おい大丈夫か?」
『あ、す、すまない……何でもないよ。君の相棒、ちゃんと直せるといいね』
「……ん、そうだな」
ポンコツの反応に何か引っかかる物を感じながらも、クロニカは静かに眠るガルーダを見て気分を入れ替える。
「頼むぞ、ポンコツ」
『任せてくれ、僕にもガルーダには恩があるんだ』
「ん? お前がアイツに恩なんてあるか?」
『あるさ。今まで君を守ってくれた』
そう言ってポンコツもガルーダを見つめる。
『そのお陰で僕は君達に出会えた……十分過ぎる恩だ』
「ははっ、ははははっ! そう言われるとそうだなぁ!!」
『彼への恩を返すためにも君の力が必要だ。手伝ってくれよ、クロニカ』
ポンコツはカニのような手をニョキッと伸ばして目を輝かせる。
「ああ、こちらこそ頼むよ! オレもお前の力が必要だからな!!」
クロニカは嬉しそうに笑いながらポンコツの伸ばした手をギュッと握りしめた。
雲一つない晴天の空、心地の良い春の昼下がり。
透明な翅を羽ばたかせ、青く煌めく粒子を空に撒きながら飛翔船アカツキは白き兜が眠っていた遺跡を捉えた……
Thank you for reading!(〃´ω`〃)旦+
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