悠久のクロノス

~神に見放された無能のオレが、白いポンコツや灰色の相棒と世界を旅するだけのお話~
ヨシコ
ヨシコ

ACT.18

公開日時: 2020年10月22日(木) 19:17
更新日時: 2020年11月15日(日) 21:22
文字数:2,080

「到着したわよ、此処が私達の村……アクリよ」


 夕日が沈みかけた頃、飛翔船アカツキがアクリ村に到着する。


『凄く綺麗な所じゃないか』

「何にもねぇ寂れた所だよ。あるのは無駄に大きな孤児院と、エリッサの畑だけだ」



 アカツキは虫の翅にも見える半透明の飛行翼を閉じ、村の外れに用意された離着陸場に降着した。


「はい、着いたわよ。さっさと降りて」

『クロニカ、すまないが僕を運んでくれないか』

「あいよー」

「待って、アンタは降りる前にちゃんとした服に着替えなさい」

「えっ」


 クロニカはレイコに呼び止められて冷や汗をかく。


「そんな顔しないの。ほら、アンタの部屋に着替えがあるから! さっさと着替えな!」

「わ、わかった! わかったから押すなって!!」


 レイコは嫌がるクロニカを押して部屋に向かう。


『お、おい! 僕は置いていってくれないか!? 僕は男だぞ!?』

「あ、そうね」


 レイコは白い兜をドンとドアの前に置く。


『……』

「いや、身体は女になってるけど俺は男だからな!? あんまり変なもん着せるなよ!?」

「ふっふふーん、任せなさい!」


 レイコは鼻歌交じりにクロニカの部屋に入り、ドアを勢いよく閉じた……



「はーい、お待たせー!」


 2人が部屋に入って10分後、着替えを済ませたクロニカを連れてレイコが出てくる。


『……う、うん。何というかその』

「……何も言うな、頼むから」


 用意された服は白いリボンがチャーミングな黒地のフリルワンピース。元はレイコが着るつもりだったのかは定かではないが、少なくとも男が着るような衣装ではない。


『すごく……似合ってるよ、うん』

「うるせぇーよ!!」


 白い兜の当たり障りない評価にクロニカは酷く傷ついた。


「畜生ー! もっとマシな服はねぇのかよ!?」

「アンタが我儘言うからマシな服を用意してやったのよ! 感謝しな!!」

「これでマシなのかよ!?」

「なーに? じゃあもっと可愛い服が着たいって言うの!? いいわよ、脱ぎな! 着せてやるから!!」

「わわっ、やめろ! わかった! わかったから! もう勘弁してくれぇー!!」


 クロニカは泣きながらレイコから逃げる。


『……』

「全く、面倒な奴よねー」

『僕はあの反応が普通だと思うけどね……』

「でも元に戻す方法なんて知らないでしょ?」

『それは……そうだけど』

「それならもう諦めて女にしてあげるのがアイツの為よ。私だって好きであんな格好させてるんじゃないんだから」


 口ではそう言いつつ、とても満足そうなレイコに白い兜は何も言えなくなった。



◇◇◇◇



「今日はクロニカの兄ちゃん遅いねー」


 場所は変わってアクリ村にある孤児院。クロニカと親しい孤児達が帰りの遅い彼を心配する。


「兄貴はいっつも無茶するからなー、もしかしたら」

「え、兄ちゃんが死んだ!? やだぁーっ!!」

「そこまで言ってねえよ! ちょっと面倒な目に遭ってるんじゃねえかってことだよ!!」

「クロニカお兄ちゃんはすぐ喧嘩しちゃうからね。また、コワイ人達に殴りかかってるかも……」


 カラーン、カラーン


「あっ!」


 孤児院の玄関につけられた呼び鈴が鳴る。孤児の中で一番年下のミーナが獣のような耳を立てて立ち上がる。


「兄ちゃんが帰ってきた!」


 ミーナはパタパタと急ぎ足で玄関に向かう。


「おかえり、クロニカ兄ちゃん!!」


 そして嬉しそうにドアを開け、元気一杯に挨拶した。


「お、おう……ただいまミーナ」


 だが玄関前に立っていた金髪の少女を見て固まる。


「……」

「あー、えーと……話すと長くなるんだが、オレは」

 

「みんなーっ! クロニカの兄ちゃんが新しい女を連れてきた────っ!!」


 数秒の沈黙の後、ミーナはくわっとした迫真の表情で叫んだ。


「兄ちゃんが、兄ちゃんが新しい女をーっ!!」

「うぉぉぉおおい!? ちょっと待て、ミーナァァァー! オレだよ! クロニカ兄ちゃんだよぉおー!!」

「おいおい、本当かよミーナ……うおおおっ! マジだぁ!!」


 ミーナの声に驚いた年長のジャックがやって来る。


「ジャック! 良かった、お前なら安心して話せ」

「マジで兄貴が女を連れてきたぞ、みんなーっ! オッパイでけえ!!」

「ジャァァァーック!?」


 ジャックは目の前のオッパイの大きい少女がクロニカだと全く気づかず、興奮気味に他の孤児を呼んだ。


「うおおおおーい! この顔をよく見ろよぉー! 見覚えあるだろぉぉー!?」

「うわぁあっ! 近い、ちょっとお姉さん顔が近いよ!!」

「ふわぁっ! 本当だ! クロニカお兄ちゃんもやるねぇー!!」

「ポークゥ! お前もよく見ろよぉ! オレがそのクロニカお兄ちゃんだよぉ!!」

「何言ってんだ、このオッパイ!」

「オ……ッ!?」


 ジャックに次ぐ年長でしっかり者なポークに オッパイ 呼ばわりされてクロニカは半泣きになる。


「オッパイ言うなや! その年で女の胸に興味持ってんじゃねえぞ、バカヤロー!!」

「わーい、お姉ちゃんのお名前はー? あたしミーナって言うの! よろしくねー! ところでクロニカ兄ちゃんは何処ー?」

「だから、オレがクロニカ兄ちゃんだよぉー!!」


 孤児達はクロニカの言葉に一切聞き耳をたてず、勝手に『クロニカが連れてきたオッパイの大きい新しい彼女』と認識し、彼を囲んでキャイキャイと盛り上がった……


Thank you for reading!:(〃´◦ω◦`〃):

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート