悠久のクロノス

~神に見放された無能のオレが、白いポンコツや灰色の相棒と世界を旅するだけのお話~
ヨシコ
ヨシコ

ACT.72

公開日時: 2020年12月4日(金) 00:04
更新日時: 2020年12月20日(日) 16:35
文字数:1,956

仕方ないよね、男の子だもの!

「じゃあ、行ってくる。頭痛いなら無理しねえで寝てろよ」

「言われなくてもそうするわよ……ま、気をつけてね」


 改めて準備を整えたクロニカはレイコに軽く挨拶し、真っ白に燃え尽きたポンコツを抱えてコフの街を出る。


『……』

「大丈夫か、ポンコツ?」

『……放っておいてくれ……』


 ポンコツの目は虚ろだった。クロニカの裸が目に焼き付いて頭から離れず、至るところからブスブスと青い煙が燻る。


「ま、まぁ……あれだけやったら流石に慣れただろ?」

『慣れないよ!?』

「慣れろ! オレはもう慣れたんだからお前も慣れなきゃ駄目だろ!」

『ううううっ……!』

「泣くなー! 本当はオレだって嫌なんだぞーっ!?」

『どうして君はそんなに慣れるのが早いんだ!? 自分の裸とは言え、今は女の子なんだよ!?』

「うるせぇ! 元から女の裸なんて見慣れてんだよ!!」


 クロニカはそう言って街の外で待たせていたガルーダに跨る。


『……み、見慣れてるのかい?』

「……おう。シスター達とは小さい頃から一緒に風呂に入ってたからな」

『えっ』

「今は入ってないぞ!?」


 顔を赤くしながらクロニカはガルーダを発進させる。


『……』

「何だよ! 別にオレは好きで一緒に入ってたんじゃないぞ!? シスターやミーナが勝手に入ってくるんだよ!!」

『……レイコも?』

「そうだよ!」

『そ、そうなのか……ふーん……』


 クロニカの話を聞いてポンコツは少しだけ羨ましいと思った。


 ポンコツの感性はそこらの平凡な10代の若者と大差なく、異性に興味津々な上にシスター・ソロネやレイコのような美人と裸の付き合いがあったクロニカを羨むような俗っぽい一面もある。ノイズの海で垣間見た記憶には魅力的な異性と過ごしている場面はなく、恐らくポンコツになる前の【彼】は女性経験は皆無。


『……』

「な、何だよ? また黙り込みやがって……」

『……別に、何でもないよ……』

「……お前、泣いてるのか?」

『……目にゴミが入っただけさ』


 何故かわからないがポンコツの瞳から自然と涙が溢れてくる。


「言っておくけどな、女の裸なんてそんなにいいもんじゃねーぞ?」

『……そう、だろうね』

「……いや、マジで。シスターの裸とか、もう勘弁してくれってくらい見せられたからさ。むしろ女の裸を知らない奴のほうが羨ましいというか……」

『……』


 ここでポンコツにほんの少しだけ やましい考え が浮かんだが、すぐにガタガタと身体を揺らして考えを改めた。


『ふーっ!』

「な、何だよ!? 急にガタガタ動くなよ! 落としちゃうだろ!?」

『大丈夫だ。もう大丈夫、君の裸にも慣れたよ!』

「お、おう」

『だから次からは僕を置いて一人でお風呂に入ってね!』


 ポンコツは煩悩と迷いを振り払い、ハッキリとした声で言った。無理に慣れる必要などない。要は見なければ良いのだ。そもそもこの機械の身体でお湯や水に浸かるのは不安と抵抗もある。


「いや、駄目だろ。お前も一緒に入るんだよ、盗まれたら大変だろ」


 しかし、クロニカはポンコツの発言を即効で否定した……



「おー、ここがサメフか」


 コフの街を出て2時間程でクロニカはサメフの街に到着する。


『随分と栄えた街だね、さっきの街よりもずっと人が多い』

「セフィロトへの列車が通ってるからだろうな」

『むむっ、あれは何だ? 大きな猫や犬が服を着て二本足で歩いてるぞ』


 ポンコツは人混みの中で獣が服を着たような不思議な姿の生き物が歩いていくのを見て驚く。


「ああ、あれは獣人【シリオス】。大昔にエトのご先祖から枝分かれした奴らだな」

『つまり彼らも人間……いや、エトの仲間なのか?』

「んー、まぁ先祖は同じだから仲間になるのかな。どうやってあの姿になったのかはわからないけど、オレたちと同じくらい頭も良いし言葉も喋れる。ちゃんと眷能ギフトも宿るんだぞ」

『ふむふむ』

「他にも滅多に現れないが翼人【プルーマス】なんてのも居るんだ。一番多いのはエトだけど、この世界にはエトしか居ないって訳じゃないんだよな」

『その獣人シリオス達も探索者ハンターになったりするのかい?』

「ああ、エトよりは少ないだろうけどちゃんと居るぞ。エトと獣人シリオスが普通に結婚したりもするし、ミーナも獣人シリオスの混血だからな」

『ほほう……!』


 まるでお伽噺か映画の中のような不思議な世界。ポンコツが知る世界とは大きく異なる進化を辿った人々を前に彼は思わず高揚し、まるで少年のように目をキラキラと輝かせる。


『じゃあクロニカが獣人と結婚すれば、君の子にはミーナみたいな獣耳が生えるって事かい!?』


 ポンコツは獣人シリオスというファンタジーな存在に興奮するあまりそんな事を言いだした。


「……多分な。一つ聞きたいんだけどそれはオレが獣人シリオスの嫁を貰うってことか? それともオレが獣人シリオスの嫁になるってことか??」

『……』

「ポンコツ??」


 クロニカの質問にポンコツは沈黙し、目を固く閉じて己の失言を心の底から悔いた。

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