「すぐにこの部屋から出ていけ!」
黒髪の女は慌ててアマンダ達を追い出そうとする。
「はぁ!? 何言ってんだい!? 出ていくのはアンタの方だよ、ジョン坊やの部屋で何してんのさ!!」
「ま、待て! 俺の話を……!」
「うるさい、そこを退きなっ!!」
アマンダは黒髪の女の手を掴んで軽々と外に放り投げる。
「うわあああっ!」
「うおっとぉー!?」
投げ捨てられた黒髪の女を外で待っていたスキンヘッドの男が受け止めた。
「大丈夫か、お嬢さん……ってあら美人!」
黒髪の女の美しさにスキンヘッドの男は思わず顔を赤くする。
艷のある黒い長髪と白い肌、ジョンと同じ色合いの青い瞳。裸の上にジャンパーを羽織っただけの刺激的な姿にスキンヘッド男は激しく興奮する。
「は、放せ! あの部屋には……!」
「見ろよ、この女! 凄い美人だぜ!」
「あら本当! リーダーもやるねぇー、いつのまにこんな美人をお持ち帰りしてたんだぁ!?」
「なるほどねえ、そりゃ部屋に引きこもりたくもなるぜ!」
手下たちは『この美女に夢中でジョンは部屋から出てこなかった』……と勝手に解釈して盛り上がる。
「リーダーもそんな年頃になったんだなあ……おっと涙が……」
「何を勘違いしてるんだ、ゲンツ! 俺はそんな男じゃない!!」
「え? どうして俺の名前を」
「とにかく放せ! あの部屋には奴が居るんだ……!!」
「奴? ああー……リーダーか。そんなに怖がらないでやってくれよ。リーダーもきっとお姉さんが美人過ぎて歯止めが利かずに張り切りすぎちゃったんだって」
「違う! 奴だ!!」
黒髪の女は部屋を指さして室内に潜む何者かの存在を必死になって伝えようとしていたが、ゲンツ達には全く伝わらなかった。
「おーい、ジョン坊や! 隠れてないで出ておいで! さもないとこの部屋ごと吹っ飛ばしてやるよ!?」
『……う、うっ』
「そこかい!?」
部屋でジョンを探すアマンダは微かな声が聞こえた方を向く。そこにあったのはエト一人が隠れられる大きさの簡易ベッドだ。
「もー! ベッド下に隠れるなんて子供かい! おら、いい加減に出てきなぁー!!」
アマンダはベッドを睨みつけながら魔動機を振り上げる。
「はやくその部屋から逃げろ、アマンダァァー!」
黒髪の女がアマンダの名を叫んだのとほぼ同時に、ベッドを突き破りながら何者かが現れた。
『きあああああーっ!』
「はっ!?」
『この、化け物共がああーっ!!』
ベッドを突き破って現れたムカデのような異形は絶叫しながらアマンダに飛びかかる。
「だあああーっ!?」
『きぁんっ!!』
しかしアマンダは勢いよく魔道機を振り降ろして異形を叩き潰した。
『きいいいーっ!』
「な、何だい、こいつはっ!?」
『化け物が、化け物が、化け物がああーっ!』
巨大な鉄の槌に潰されながらも異形は虫のような足を動かしてもがく。その黒い異形は鉄製の篭手に小さな足が沢山生えた奇怪な姿をしており、しかも若い女性の声でエトの言葉を話していた。
「気色悪い……!」
見たこともない機械の異物を前に流石のアマンダも顔をしかめる。
『この程度っ、この程度の攻撃なんて効くかあああーっ!』
「あ、姐さん!?」
「ちょっと手伝っておくれ! 変な虫がいるよ!!」
『虫じゃなあああーい! くああああーっ!!』
「うわぁ、何だこいつ!?」
「駄目だ、いくら殴ってもそいつは壊せない! そのままにして部屋に閉じ込めるんだ!!」
黒髪の女は慌てた様子で言う。
『殺してやる! 絶対に殺してやるぅー!!』
「何だい、この虫は喋るのかい!? 気持ち悪いねぇー!」
『虫じゃなあああああいっ!!』
アマンダは思い切り力を込めて押し潰そうとするが、床が凹むだけで異形には全くダメージを与えられていない。それどころか異形を押さえ付ける魔動機がキシキシと軋み出す。
「このっ……いい加減に潰れな!」
「アマンダ、もういい! そいつはそのままにして早く部屋を塞ぐものを」
「さっきから馴れ馴れしいよ、アンタ!! 初対面の癖に気安く呼び捨てにしないでおくれ! わたしを呼び捨てにしていいのはジョン坊やだけだよ!!」
「だから……俺がジョンだ!!」
「へぇっ!?」
黒髪の女の発言にアマンダ達は耳を疑った。
「信じられないだろうが、俺はジョンなんだ! そいつを腕に装備して……気がつけばこの姿に変えられていたんだ!!」
『きいいーっ!!』
アマンダ達は彼女の言葉が信じられなかった。
「ああ、信じられないならそれでいい! 後で俺を砂漠に放り出すなり、売り飛ばすなり好きにしろ! とにかく……その化け物だけは外に出すんじゃない!!」
だが自分の身を顧みない発言と覚悟に満ちた青い瞳を見て黒髪の女とジョンの姿が重なり、それと同時にこのような馬鹿げた考えに至った。
……もしもジョンが本当に女になったとすれば、彼女のようになっただろうと。
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