『と、とにかく奴らから離れるんだ! 囲まれたままだといくらクロノスでも……っ!!』
「言われなくても……」
〈ヴァルァァァアア────ッ!!〉
「わかってんだよぉー!!」
クロニカはファンタズマの群れから距離を取ろうとするが、そうはさせまいと黒い獣達が一斉に群がる。
「くっ……そっ!」
パワーは圧倒的に此方が勝っている。スピードも、頑強さも。
〈〈〈ヴァルルルルルルァアア────ッ!!〉〉〉
だが、ファンタズマは覆し難い彼我の差を狂的とも言える執念のみで捻じ伏せようと足掻く。
「このっ、化け物共がぁぁーっ!!」
クロニカの一撃で頭を吹き飛ばされようと、胴に穴が開こうと、身体を両断されようとも獣共は止まらない。
ファンタズマの最も恐るべきところ。それは生物の範疇から逸脱した強さでも、常識外の頑丈さでもない。
それは獲物と定めた相手を決して逃さない異常な執着心と闘争心。
彼らは死の瞬間まで闘争を止めない。どれだけ傷つこうが、追い詰められようが、力の差があろうがファンタズマは戦い続ける。窮地を前に撤退を選ぶ事もあるが、闘争そのものを放棄することは無い。アクリ村を襲ったあの個体のように。一度、狙った獲物の息の根を止めるまで何処までも追いかける。
それこそがエトが奴らを化け物と呼ぶ理由。奴らとの戦いを避ける要因だ。
(何なんだ、こいつらは……!)
(これが、これが命ある者の戦い方なのか!?)
生きとし生けるものが備える生存本能、それを投げ捨てて闘争本能のみを突き詰めたような存在。
(これが……!)
ポンコツはここでようやくファンタズマの何たるかを知った。
(これが、ファンタズマか!!)
ただ強いだけの動物が、ただ攻撃的なだけの生物が、神代より栄える人類種の天敵になれる筈がないのだ。
ただ純粋にこの世のどんなものよりも恐ろしい存在だからこそ奴らは天敵と呼ばれるのだ。
「このっ、放せっ! このぉおおおっ!!」
〈ヴァルル───〉
────ヒュキキンッ
群がるファンタズマに動きを鈍らされたクロニカの首に刻まれる切り傷。同時に数体のファンタズマの首が飛び、再び青い血飛沫が舞った。
『クロニカッ!!』
「……がっ!」
クロニカの首に鋭い痛みが走る。首の装甲が切り裂かれ、首筋から赤い血が吹き出した。
『く、首筋に裂傷発生! 出血してるぞ!!』
「うぐっ、やべえ……! 結構ザックリやられちまった……!!」
クロニカは首が飛んだファンタズマの死体を蹴り飛ばして跳躍、何とかファンタズマの群れから脱する。
「も、もしかしてこれ……ヤバイところ切られたんじゃねえか……?」
『破損部の緊急修復、止血処置開始! 戦闘再開可能まで……』
「お、おい? これ、大丈夫そうか……?」
『……あんまり動かない方がいいね!!』
ポンコツはクロニカの傷の具合を見て直ちに応急処置を施す。
初変身の際に瀕死のクロニカを復活させたようにクロノスには傷ついた変身者を回復させる機能が搭載されており、破損した装甲も時間さえあれば修復可能であるようだ。
『えーと、えーと、こうかな!? これを多分、こうして、こう繋げて……えーとっ!』
「大丈夫だよな!?」
『大丈夫、痛くはないだろ!?』
「痛くはねぇけどさ!」
『じゃあ、大丈夫だよ! 多分、きっとこれで何とかなるよ!!』
……諸機能の詳しい仕組みは今のポンコツにもわかっていないが、彼は直感的に使えそうな機能を選んで必死にクロニカを治療する。
『だが、あまり動かない方がいい! 激しく動くと傷口が開くかも!!』
「この状況で無茶言うな!!」
────ヒュキキンッ!
「どあああっ!?」
風を切るような攻撃音を聞いてクロニカは慌てて身を躱す。コンマ数秒前まで立っていた場所が大きく裂け、クロニカの首筋に再び嫌な痛みが走った。
「うぐっ!」
『動くなって!!』
「じゃあ死ねってことかよ!?」
『そ、そうじゃないよ! でも、あんまり動くと』
「いでで……っ! 畜生、このままじゃマジで負けるぞ!」
脆くなった首筋を左手で覆い、兜の下で冷や汗をかきながらクロニカは迫りくる怪物達を睨みつけた。
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